第816話 天才ミドルブロッカー

 ☆弥生視点☆


 ポーランド戦1セット目も終盤やよ。 17-24でセットポイントを取っとるウチら。 途中からウチらの作戦、ポーランド丸裸作戦(ウチが勝手に呼んでるだけ)がバレたらしゅうて、向こうがパターンを捨てて成り行きプレーで勝負して来よるようになった。

 全員がレベルの高いプレーヤーだけあって普通に強いで。 そやけど、ここで苦戦しとったらキューバやアメリカには勝てへん。


「おるぁ!」


 パァンッ!


 気合いの籠ったスパイクでポーランドからセットをもぎ取る一撃を放つ。


 ピッ!


「どないやぁ!」

「OKOK! 良いわよ弥生」

「ウチがエースやぁ!」

「エースは私だけど?!」


 藍沢姉とベンチへと戻りながらギャーギャーと言い争う。 ウチはエース争いからは外れてもうたけど、プレースタイルが被っとるっちゅうようわからん理由でやしなぁ。


「おう、良い感じで1セット取ってきたなー」

「なははー!」

「余裕や余裕」

「パターンにハメられなくても地力で勝てるのよ」

「ですね」

「正直ウチはあんさんらが怖いわ」


 眞鍋先輩は苦笑いしながらスポーツドリンクを飲んではる。 はて、何が怖いんやら。


「私達の出番無さそうだねぇ」

「月島さんいつでも変わったるでぇ!」

「誰が変わるかアホゥ!」


 今日ベンチに座る亜美ちゃんや黛姉は試合に出たそうにしいとるけど、残念ながらあんさんら出番はあらへんよ。


「2セット目もこの調子で頼むぞお前らー」

「はーい」

「軽いなーお前ら。 ワールドカップの決勝トーナメントだぞ一応」

「リラックスできてるっちゅうことや」

「まあ、そうかもしれんがなぁー」

「私達に任せといてくださいよ監督ー。 うわははは!」

「なははは!」


 美智香や藍沢妹もノリノリやな。 藍沢姉や眞鍋先輩は逆に落ち着いとる。 コート内ではこの2人に任せしといたら上手い事やってくれはるやろ。 なんだかんだ言うて人をまとめ上げるカリスマ性持っとる2人やからな。


「2セット目もこのまま行くわよ」

「おー」


 こんな感じや。 こういうのはうちには出来ん芸当やでな。


「よーし、ポーランドにも勝つぞー! なはははー」

「うわははは!」


 騒がしい連中やでほんま。 藍沢の姉がたまに言うとるけど、この2人ほんまに姉妹みたいやな。


「よし行ってこーい」

「はい!」


 よっしゃ、ほな行ったろうやないかい。

 コートへ入って第2セットの開始合図を待つ。


 ピッ!


「しゃあ、眞鍋先輩一発やったってやー」

「やれるだけやったるわ」


 サーブは眞鍋先輩。 得意サーブはフローター系のサーブや。 無回転で放たれるそのサーブは、空気の抵抗をもろに受けてフラフラと飛んでいき、急に軌道が変化したりする面倒臭いサーブや。

 処理の仕方を知らんと厄介なんよな。


 ポーンと押し出されるように離れたサーブは真っすぐポーランドコートへと飛んでいき、セッターの手前で急激に曲がりながら落ちる。


「おお、ラッキーやん」


 咄嗟に手を伸ばして拾うだけとなったレセプション。 当然乱れたボールになって攻撃が上手い事繋がらんやろ。 案の定、コート外に跳んでいったボールをOHアウトサイドヒッターが走ってアンダーハンドで何とか上げるだけ。 そんな半端なボールは当然ブロックががっつり3枚つくで。

 藍沢姉、妹、美智香の3枚や。


 パァンッ!


「うぇーい!」

「うぇーい」


 藍沢妹と一緒に奇声を上げながら跳ぶ美智香。 ほんまなんやねんなこの2人。

 そんなんでもちゃっかりシャットアウトしとるし。

 何はともあれきっちり1点先取や。


「よーし、もう一発やったってやー」

「今のは上手く行きすぎや。 そうそう上手く行くかいな」


 眞鍋先輩は笑いながらサーブ位置へ移動して構える。

 顔の少し斜め上でボールを構え、低いトスを上げて手の平で押し出すようにボールを叩く。 いつ見ても綺麗なフローターサーブや。


「ナイスサーブ!」


 今回も絶妙なサーブを見せた眞鍋先輩。 やけど今回は相手リベロが上手くオーバーハンドで処理してきよった。 こうなると相手チームのチャンスボールになる。


「ここきっちり止めてくわよ!」


 藍沢姉が声を出すと、藍沢妹が「おー任せろー」と返事を返す。 藍沢妹はトス先を読んで早々と移動し構えに入る。 トスが上がったのは正にそこ。 ようわからんけど、藍沢妹は匂いでなんとなくわかるらしい。 ウチらにはわからへん感覚や。 藍沢妹は天才ミドルブロッカーや。 ウチも一目置く選手やで。

 ブロックに美智香もついて2枚ブロックで応対する。


「うぇーい!」


 ストレートを絞めるようなブロックやったのが、ポーランド選手のスパイクの瞬間に腕を左に振るという意味不明なブロックを見せる藍沢妹。 これがあの子の天才たる所以やな。


 パァンッ!


 その意味不明な動きで完璧にシャットアウトして見せる藍沢妹。 匂いなんか駆け引き何かわからんけど、そのシャットアウト率の高さははっきり言って異常や。


「ナイス麻美。 相変わらず意味わからないブロックね」

「なははー! 意味わからんかー」

「わかるわけあらへんやないの……」

「本当、麻美っちだけは相手したくないわねー」


 ウチらもこの意味不明なブロックにやられたクチやからな。 ほんまとんでもない選手やで。


「このままガンガン行ったろうやないか」



 ◆◇◆◇◆◇



「はっ!」


 パァンッ!


 ピーッ!


 第2セット最後は藍沢姉のとんでもパワーから放たれるスパイクで決め、25ー18で勝利した。

 ポーランドにもセットカウント2ー0で快勝した。


「っしゃーい! どないやー!」

「うぇーい!」

「わははは! 私達最強!」

「はいはい、整列しなさいよあんた達」


 試合終了後の握手を交わしてコートから出てベンチへ戻る。


「よーし良いぞお前達ー! とりあえず2回戦進出だー!」

「余裕やよ余裕!」


 ポーランド、強敵やと思うたけどそこまでの相手やなかったな。 


「とか言ってられるのはここまでだー。 次の相手はランキング3位のブラジルだ。 今までの相手とは話が違うぞー」

「ランキング3位がなんぼのもんや! いてもうたるでー!」

「いてもうたるー!」


 黛姉妹は盛り上がっとるけど、スタメンはまだ発表されてへんで。 やけど、ランキング3位のブラジル相手となったら出し惜しみは出来んやろ。 現日本の最強メンバーで挑む事になるやろうな。 監督がどないな采配するか楽しみやで。


「ブラジル戦はまた3日後だ。 それまでしっかり体調整えておけよー」

「はいっ!」

「あの、ブラジル戦のスタメンってもう決めてるんですか?」

「いや、まだ何も考えてないぞ。 これからコーチ陣と話し合って決めていく予定だ。 今日試合に出た者も出番があるやもしれん。 しっかり疲れを取っておけー」

「りょーかーい」


 なるほど。 ブラジル戦のスタメンはまだ決まっとらんのやな。 あのパワーに対抗するにはウチや藍沢姉なんかが有効やろ。 出番あるかもしれんで。

 とりあえずは今日の疲れを癒やしておこか。

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