第804話 まずは東京

 ☆亜美視点☆


 時間は過ぎて、本日は渡仏3日前です。

 自主合宿もとりあえずは終わり、今日からは休息日。

 弥生ちゃんと宮下さんは東京へ戻り、海外遠征の準備をするそうだ。 明後日に東京で合流予定である。

 そう、明後日には代表全員が東京に集まる。 そして翌日にフランスへと飛ぶのである。


「ただいまだよぉ」

「ただいま」

「おう、おかえり……っても毎日帰って来てたじゃねぇか」

「あはは」

「そぅだね」


 合宿も終わり今井家へと戻ってきたよ。 約3週間「皆の家」で過ごしたけど、本当に楽しかったよ。

 集団生活に特化した物件だし不便も無かったし、また共同生活したいねぇ。


「明日はまだこっちにいるんだろ?」

「うん。 明後日東京、明々後日渡仏だよ」

「はぅ……飛行機……」


 あ、希望ちゃんがまた震え出したよ。 飛行機が苦手な希望ちゃんは飛行機に乗るのが嫌で仕方ないようだよ。 まぁ、飛行機の中では私もついてるから大丈夫だと思うけど。


「はぅ」

「希望は本当に怖がりだなぁ」

「生まれつきだよぅ。 これはもう治んないよぅ」

「いやいや、克服しようよ」

「無理だよぅ」


 ダメだこりゃ。 アガリ症や人見知りは少しずつ良くなっているのに、怖がりだけは改善が見られない。 本当に治らないかもしれないねぇ。


「あ、でもボケねこのジェットコースターの時は頑張ってたじゃない?」

「あれはでも、撮影の一瞬だけだよぅ?」

「それでもその瞬間だけは怖がってなかったじゃない」

「そうだけど……」

「飛行機が離着陸する時にボケねこの事考えるようにすれば行けるんじゃない?」

「中々そうはいかないと思うけど……」


 消極的な希望ちゃんなのであった。


「ちなみにフランスにはボケねこは進出してないのか?」

「日本では大人気のボケねこだけど、まだ海外には進出出来てないんだよぅ」


 ちょっとだけ早口である。 ボケねこの事になるとキャラが変わるんだよね希望ちゃん。

 

「フランス行くの飛行機しか無いのぅ?」

「無いよ」


 何を言ってるのかな?


「まあ、離着陸だけだから大丈夫だよ。 一瞬だよ」

「が、頑張る」

「うんうん。 頑張ろうね」

「なあ。 もう1人、飛行機がダメな子いないか?」

「いるね……」


 そっちは弥生ちゃんにお任せしようと思うよ。 


「大変だなぁ、海外遠征」

「そうだね。 でもやっぱり楽しみでもあるよ」

「旅行気分だな……」

「あ、あはは」


 ちょっとはそんな気分になっても良いと思うんだよね。 もちろん、真剣にワールドカップには臨むよ。


「とりあえず、今日明日はゆっくりしてくれ」

「そういうわけにはいかないよ。 家の事はちゃんとしないと」

「うんうん」

「むぅ……じゃあ、明日の晩飯はどっかに食いに行こうぜ」


 ちょっとでも私達が疲れを取れるように考えてくれているのだろう。


「うん。 明日はお外で食べよ!」

「助かるよぅ」

「俺に出来る事なんてそんなもんだからな」


 

 ◆◇◆◇◆◇



 でで、時間は更に過ぎて東京へ向かう日になりました。


「希望ちゃん、荷物大丈夫?」

「うん、大丈夫だよぅ」


 私も希望ちゃんも準備万端。 まず今日は東京で一泊。 明日フランスだよ!

 と、その前にしばらく夕ちゃんに会えないからね。


「よいしょ」

「ん? どした、急に抱きついてきて」

「会えない間の分だよー」

「さよか」

「良いなぁ、亜美ちゃん」

「ん? 希望ちゃんも良いよ。 おいでおいで」


 と、半分だけズレてスペースを空ける。 希望ちゃんは「良いの?」と言いながらゆっくりと夕ちゃんに抱きつく。


「まったくお前らは……頑張って来いよ! テレビで応援してるからな」

「うん」

「いってきます!」


 夕ちゃんから離れて、希望ちゃんと2人で家を出た。 さあ、いよいよワールドカップに出発だよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 駅前で皆と集合。 東京へ向かうよ。


「暴れるぞー!」

「せやな!」


 やる気満々な麻美ちゃんと弥生ちゃん。 良いね良いね。


「にしても、派手な見送りね」


 駅前に集合した私達を見送りに来たのは、月ノ木学園の後輩達である。 横断幕なんかまで作って来ている。


「先輩達は私達の誇りです! 頑張って来てください!」


 現キャプテンの冴木さんが代表して声援を送ってくれる。 受験生であるはずの3年生の子達まで来てくれているよ。


「清水先輩」

「あ、マリアちゃん」

「負けて帰ってきたら承知しませんから」


 これはマリアちゃんなりのエールなのだろう。 冴木さんなんかは横でクスクス笑っている。


「相変わらず素直じゃないわねー、あんたも」


 そんな事を言い出したのは奈々ちゃんだ。 素直じゃないってどういう事かな?


「マリアって、亜美にライバル心燃やしつつ、誰よりも尊敬して憧れてるのよ」

「せ、先輩?! それは!」

「そうなの?! 嫌われてるのかと思ってたよ?!」

「う……と、とにかく頑張って下さい!」


 意外な事実を知ったけど、マリアちゃんの声援はしっかり届いた。 私は大きく頷いて応える。


「世界一になって帰ってくるよ!」


 大きく手を振って皆と別れ、東京へ向かうのだった。


「思いがけない見送りだったね」

「ですわね」

「なはは。 皆、中々やるなー」

「これは本気で負けられないわね」

「負けるつもりないけどさー。 きゃははは!」

「だな!」

「やったるで」

「おぅー!」


 皆の士気がぐんと上がったよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 東京に着くと、駅前には弥生ちゃん、宮下さん、新田さんがやって来ていた。 ここからは宿泊予定のホテルまで案内をしてくれるようだ。 わざわざありがたい事である。


「んじゃ行くわよー。 歩いて20分程ね」


 宮下さんが先陣を切るも、新田さんに手を引っ張られで急ブレーキ。


「美智香姉、逆」

「わはは! ついてきたまへ」

「だ、大丈夫なの?」

「知らんがな」


 弥生ちゃんは我関せずといった風である。 ここは新田さんにお任せするしかない。


「なはは! 美智香姉は方向音痴なんだねー」

「あんたもでしょ」

「なは?」


 どうやら麻美ちゃん、自分では方向音痴じゃないと思っているみたいである。

 麻美ちゃんは実は方向音痴である。 よく目的地と逆方向に向かって歩き出す事があるのだ。


「本当、宮下さんと麻美はよく似てるわよね。 本当の姉妹なんじゃないの?」

「ぶーっ! 私のお姉ちゃんはお姉ちゃんだよー!」


 麻美ちゃんは不機嫌そうにそう言って奈々ちゃんの腕にしがみつく。 麻美ちゃんは奈々ちゃんの事が昔から本当に好きだからね。 仲良し姉妹だよ。


 歩く事20分。 目的地であるホテルに到着。 女子の日本代表は、今日ここに集まって宿泊し、翌日の飛行機でフランスへ飛ぶ。 遠方の選手達は昨日から泊まっている人もいるみたいである。


「お、来たで来た来た」

「久しぶりー」


 早速出迎えてくれたのは大阪の黛姉妹。 前回の合宿以来である。 他の人達も順次やって来るだろう。

 皆、それぞれがレベルアップしてきているに違いないよ。


「とりあえず部屋へ行きましょ。 テレビも見なきゃいけないし」


 それもあったねぇ。

 

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