第754話 作成依頼

 ☆夕也視点☆


 紗希ちゃんに頼んでいた指輪のデザインが仕上がった。 思っていたより相当早く出来てしまったが、当然今指輪が完成してもお金を払えない。


「予算20万だっけ?」

「ああ。 今少しずつ貯め始めてるとこだ」

「というか貯金は? 無いの?」


 紗希ちゃんから問われる。 貯金かぁ。


「あるにはあるが、それは将来の為に貯めてる分だから崩したくはないんだ」

「あんた、無駄にしっかりしてるわね」

「まあな!」

「結構時間かかりそうねー」

「まあ……来年、もしかしたら再来年とかになるかもな」

「その間に喧嘩別れしちゃったりして」

「こら紗希」


 ポカリ!


「んにゃっ?! 痛いじゃん!」

「縁起でもない事言うからよ」

「ははは、まあでもどうなるかわからんながな。 それに今プロポーズしても結婚するのは大学出てからだろうし焦らずに行くよ」

「それが良いわ」

「うむうむ。 私はいつ結婚するのかしらねー」

「紗希の彼氏君ってその辺奥手っぽいものね」

「そうなのよねー。 夜の方も私がリードしないとダメでさー。 私としてはガツガツ来てほしいものなんだけどさ」


 何か女子トーク始まって俺は居づらい雰囲気になってきたんだが。


「そろそろ寝るかな」

「ありゃ? もうそんな時間? じゃあ私も寝ようかな」

「そうね」


 奈々美と紗希ちゃんは俺の言葉で時間を思い出したようで、同時に立ち上がる。

 奈々美は亜美の部屋で、紗希ちゃんは希望の部屋で寝るらしい。

 2人とも夜な夜な俺の部屋に侵入して襲ってきたりしないだろうな?

 どちらも前科があるだけに不安ではあるが……。


「信じるしかないか」



 ◆◇◆◇◆◇



 で、俺の心配は杞憂に終わり翌日。

 あの2人にしては大人しくしてくれていたものだ。


「んー、おふぁおー」

「おはよう紗希ちゃん……相変わらず朝はダメみたいだな」

「んー……脱ぐー」


 何故か目の前で服を脱ぎ始める紗希ちゃんを慌てて止めて洗面所へ連れて行く。 寝ぼけているみたいだな。

 顔を洗いシャキッとした紗希ちゃんは、そのままキッチンへ朝ご飯の準備を始めるのだった。


 出来た朝食を頬張り、相変わらず違和感のある光景に慣れないながらも会話。


「んぐ。 で、亜美と希望は何時ぐらいに帰ってくるって?」

「んぐ。 聞いてないな」

「きゃはは、聞いときなー」

「そうだな。 あとで聞いとく」

「お昼には奈央のとこに行くから家空けるしね」


 そうなのだ。 昨日紗希ちゃんに見せてもらい、俺が選んだ指輪のデザインを奈央ちゃんに見せて作成を依頼する為に奈央ちゃんに会う予定なのだ。 今回の指輪の件に関しては紗希ちゃん、奈央ちゃん、奈々美に協力をお願いしている。 当然この3人には亜美にバレないようにしてくれと頼んでいる。


「んぐんぐ……亜美ちゃんは幸せ者よね? 私にもちょうだい今井君」

「あのなぁ……」

「あ、私もよろしく」

「お前らなぁ。 彼氏からもらえ彼氏から」

「裕樹は中々ねー」

「宏太はいつくれるやら」


 以前聞いた話だが、宏太は今のところ奈々美へのプロポーズは考えてはいないという。

 今はプロポーズしても、実際籍を入れて2人で暮らすようになるのは奈々美の大学卒業後になるだろうから慌ててプロポーズする必要はないと考えているらしい。

 まあそれを俺から奈々美に伝える必要はないだろう。


「ごちそうさま」

「はいお粗末様でした」

「皿洗うわよー」


 キッチンの方は2人に任せて、俺は亜美達に何時頃に帰って来るのかを確認してみる。 亜美曰く「夕方になるまでには帰る」との事だ。 それまでには用事も済んで帰ってこれるだろう。



 ◆◇◆◇◆◇



 昼までに奈々美と紗希ちゃんの2人が家の掃除や洗濯までやってくれた。 亜美達も助かるだろう。 俺が出来れば良いんだが俺がやるとめちゃくちゃになって、逆に亜美達の仕事が増えるからな。

 ただいい加減に覚えなきゃなぁ。


 昼を食べて少しゆっくりしてから奈央ちゃんの家に向かう。 


「相変わらず街並みに合わない豪邸だよなぁ。 何でこんなとこにあるんだ?」

「さあ? 昔はこの辺の地主かなんかだったんじゃないかしら?」

「ありそうね……」


 考えてもわからないので奈央ちゃんの家のインターホンを鳴らす。 使用人が出て奈央ちゃんを呼んできてくれる。


「いらっしゃい。 どうする? 家で落ち着かないなら拠点に移動でもする?」

「そうだな。 そうしよう」

「わかったわ。 そういう事だから少し外出しますわ」

「お気を付けて」


 使用人に外出の報告を済ませた奈央ちゃんと共に、駅近の拠点へと移動する。


「それにしても早かったわね?」

「きゃはは。 私にかかればこんなもんよー」

「実際すげーよ紗希ちゃんは」

「ふふ、どんな指輪をデザインしたのか楽しみだわ」

「結構良い感じだったわよ。 私も欲しいくらいだわ」


 指輪談義をしながら拠点へ向かって歩く。  


「そういえば前に麻美ちゃんと亜美が言ってたんだが、新拠点に何か名前を付けないかって案が出てるんだ」

「名前をねー……。 じゃあ今度会議でも開きますか。 紗希もいる事だしね」

「賛成」

「名前か。 何か考えておこうかしらね」


 ふむ、俺も何か考えておくかな。 



 ◆◇◆◇◆◇



 新拠点に到着し、4人でリビングへと入る。

 奈央ちゃんがどこからか出してきたノートパソコンで紗希ちゃんが作ったデザインファイルを開く。


「ほほー。 結構良いじゃないですの。 亜美ちゃんの指に似合いそうですわ」

「だよな。 紗希ちゃんの実力は本物だ」

「そんな褒めてもおっぱいぐらいしか出せないわよん?」

「出そうとしないの……」

「本当にこの子は……」


 紗希ちゃんは油断すると何やりだすかわからんな。 男の俺の前でも気にせず脱ごうとするんだもんなぁ。


「なるほど。 ピンクシルバーとシルバーのリングね。 指のサイズは8号と……」


 パソコンをカタカタと操作しながらメモを取っている。


「予算は20万前後……まあ、友人割引として1割引して差し上げますわよ。 18〜22万ってとこで依頼出しておきますわよ」

「た、助かる」


 持つべき物は友人である。 本当に助かる。


「とはいえ、お金が払えるようになるのは先になるかもしれん……」

「ふむ。 まあ構わないですわよ。 なんなら分割にします?」

「分割か。 でもそれだと割高になるだろ?」

「まあ、そうですわねー」

「少し考えさせてくれるか?」

「大丈夫ですわよ。 まだ作り始めてもいないし」

「とりあえず後は奈央にお任せって感じね」

「えぇ。 任せて。 私達の共同作だし良い物を作らせますわよー!」

「頼む」


 これで俺が出来る事はお金を貯める事だけだ。 バイト代から生活費を亜美に渡したりして残った分を少しずつ貯金をしていく。 出来るだけ早く買い取りたいとは思うが、こればかりは仕方がない。

 亜美へのプロポーズも少し先になりそうだ。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 奈々美、紗希ちゃん、奈央ちゃんとは別れて自宅へ戻ってくる。 まだ2人は帰ってきていないようだし、洗濯物を畳んで待っているとしますか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る