第752話 母の味

 ☆亜美視点☆


 アメリカ代表との練習試合を終えた私達は、1日大阪に泊まり明日に帰る事になっています。

 ただ、インターハイのある高校生組は、練習試合が終わった後でそれぞれの学校に合流する為、大急ぎでホテルを出ていくのだった。


「大変なスケジュールだねぇ」

「疲れ溜まって大会どころじゃないんじゃないの?」

「きゃはは、ありそう」

「麻美のやつはあの重り着けたまま出るのか?」

「まあ、同じ高校生が相手ならそこまで問題はないでしょう」


 元々300近い高さを出す子だからね。 多分何とかするだろう。


「にしても中々ハードな合宿だったわ。 さすがに世界獲りする気満々の監督なだけあるわ」

「あんさんら、夏の間も自分達だけで合宿やるんやろ?」

「そのつもりですわよ」

「私達もチームの練習がなきゃ参加したいんだけどねー」


 Vリーグチームに所属している弥生ちゃんと宮下さんは、正式な代表の練習ならまだしも、自主練のようなものでは免除されないらしい。

 

「まあウチらはチームの練習でレベルアップを計るわ。 何とでもなるやろ」

「だわね」


 同じく他のVリーグチームに所属する黛姉妹や眞鍋先輩も同じ様な感じらしい。

 大学生の私達はのんびりとしたものである。


 何せ、高校生組のインターハイが終わったら、有馬温泉へと旅行に行くというのだから。 楽しみである。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日──。


「では次はワールドカップ前の招集でな。 皆、気を付けて帰るように」


 合宿終わりの挨拶を監督から聞き、その場解散となった。

 インターハイを応援する為に残っても良いのだけど、それほど長く滞在する準備はして来ていないという事で、そのまま千葉へ帰る事になった。

 月ノ木学園の皆、頑張るんだよぉ。


 というわけで新大阪から新幹線に乗り、まずは東京へ。


「弥生ちゃんは実家に顔出さないの?」

「あー、盆休みには帰ろうとは思うてるで」

「大阪まで来てたんだからそのまま京都の実家に行けば良かったじゃない?」

「どうせ帰るんやったらゆっくりしたいやん。 今帰ったかて、すぐ東京戻らなあかんし忙しないやろ」

「まあ言えてるわね」


 実家を離れて暮らすのって大変だねぇ。 あ、私もそうだったや。 もうすっかり今井家が実家みたいな感覚になってるね。


「亜美ちゃん。 私達も旅行に行く前に東京のお父さん達の所に顔出した方が良くないかな?」

「それもそうだね。 じゃあ、このまま東京で降りて行っちゃおう」

「賛成だよぅ」


 という事で、私と希望ちゃんは今日は千葉へ戻らず、東京の両親の所へ向かう予定に変更。 夕ちゃんには急で申し訳ないと連絡しておくよ。


「じゃあしょうがないから、今日の夕也の面倒は私が見ておくわ」

「奈々ちゃんお願いね」

「きゃはは! 私もおじゃましちゃお」


 奈々ちゃんはまだ安心出来るけど紗希ちゃんはちょっと不安だねぇ。 大丈夫かな?


「きゃはは、亜美ちゃん何だか不安そうだねー? ん? 大丈夫大丈夫、今井君の事襲ったりしないってー。 ちと話があるだけよん」

「話?」

「ん。 話!」


 んー? 何の話だかわかんないけど、奈々ちゃんもいるしとりあえずは大丈夫そうか。  


「約束だよ?」

「約束ね」

「紗希は今井を目の前にしたら約束とか忘れそうだが……」

「ははは! 亜美ちゃんも中々安心でけへんなぁ」


 弥生ちゃんは大きな声で笑いながら私の背中をバンバン叩くのだった。 バカ力で痛いよぉ。



 ◆◇◆◇◆◇



 東京駅に着き、千葉へ帰る組みとは今日はお別れ。 東京組の弥生ちゃん、宮下さん、新田さんともうしばらく一緒に行動だ。


「帰ってきたわね東京!」

「白華屋に行きたい」

「お、ええなぁ。 晩は白華にでも行こか?」


 と、東京組の3人は好物である白華屋のカレーうどんを食べて帰る事にしたようだよ。 私と希望ちゃんはこのまま両親の家に行き、そこで夕飯をいただく予定だ。 帰りは明日だねぇ。


「弥生ちゃんは随分東京に慣れたね?」

「ウチは順応性高いんや。 何処でもすぐに慣れるで」

「そうなんだ」

「弥生っちはね、こう見えて結構細かい性格してるのよ」

「ほう」

「あんさんが大雑把過ぎるんや」


 弥生ちゃん曰く、宮下さんの部屋は家具の置き方なんかも凄く適当で、見ててイライラしてくるらしい。

 逆に宮下さん曰くは、弥生ちゃんの室はキチッとし過ぎていて、見てて背中が痒くなるのだとか。

 だからあまりお互いの部屋には入らないみたいだよ。


「美智香姉は昔からです。 頭悪いし雑だし頭悪いし頭悪いし」

「ははは! 千沙っちはさすが幼馴染だ。 私の事を良くわかってるね!」


 頭悪いって3回も言われたのに怒るどころか笑い飛ばしちゃったよこの人。 多分自覚はあるんだろうけど頭良くなる気がまったく無いようである。


「そんなんじゃ彼氏さんに愛想尽かれるよ」

「大くんは大丈夫!」


 どこからその自信が湧いてくるのかはわからないけど、何だかんだ上手くいってるんだね。


 途中で皆とは別れて私と希望ちゃんで両親の家を目指す。 お母さんまた無理してないと良いけど。


 歩く事10分で到着。 インターホンを鳴らす。


「はいはいー。 あ、亜美に希望、いらっしゃい。 ん? おかえりでいいのかしら?」

「あはは、ただいま」

「ただいまなのかなぁ?」


 とりあえず中へ入ってお父さんとも挨拶を交わす。


「ごめんねぇ、急に来るって言うもんだから、大した物用意出来なかったのよ」

「良いよ良いよ」

「うんうん」


 食卓の上には、急に来ると言い出した私達の為にオムライスが用意されていた。 お母さんのオムライス久しぶりだねぇ。


「いただきまーす! んぐんぐ……美味しい!」

「母の味だね。 久しぶりに食べるけど、やっぱりお母さんの作る料理は美味しいよぅ」


 私も料理には自信があるけど、やっぱり母の味には勝てないなぁと思う。 単純な料理の良し悪しとかじゃなくて、何か特別な感じがするんだよね。


「んぐ。 そだ、お母さんあれから無理とかしてない?」

「してないわよ。 あれからお父さんも少しずつ家の事手伝ってくれるようになったし」

「おお! お父さんも頑張ってくれてるんだ? 夕也くんも見習って欲しいよ」


 夕ちゃんは洗濯物が畳めるようになった程度で満足しちゃってるからね。 洗濯機を動かすところから一通りマスターしてほしいものだ。

 この夏の間に洗濯を教えよう、そうしよう。


「でも少し安心したよ」

「ふふふ。 私はあなた達の方が心配よ? 2人ともしっかりしてるとはいえね私からしたらまだまだ子供みたいなものだし」

「はぅ」

「大丈夫だよ。 ちゃんとやってるし。 困った時は友人達が助けてくれるもん」

「そう。 皆良い子達だものね」

「うん」


 本当に皆、私達の最高の友人達だ。 ずっと仲良しでいられたら良いなぁと思うよ。


 今頃は奈々ちゃんと紗希ちゃんが夕ちゃんの世話を焼いてくれてるんだろうなぁ。

 そういえば紗希ちゃんは夕ちゃんに話があるって言ってたっけ? また柏原君絡みの相談事でもあるのかな?

 京都で上手くいってないとか? そんな事はないよねぇ?

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