第749話 ベストメンバー

 ☆亜美視点☆


 アメリカ代表さんとの練習試合も2セット目に入った。 私はベンチへ下がって試合観戦中だ。


「清水、体冷やすなよー」


 私がクールダウンでもしようかとしていると、小林監督に止められてしまった。

 まだ出番あるかなぁ? 替えの選手ならまだいるし私の出番はもう無いかと思ったけど。


「何や西條さんと監督の予想やと、もう1試合やる事になるみたいやで」

「もう1試合?」

「せや。 ベストメンバー同士でもう1試合」


 今ひとつ状況がわからない為、奈央ちゃんに話を聞いてみると、なるほどアメリカ代表さん側の事情という事みたいだ。 もちろん、奈央ちゃんや小林監督がそう考えているだけで、実際には試合はこれで終わるかもしれないとの事だけど。

 もし仮にもう1試合あっても、全力で勝ちに行く必要はないみたいである。


「ちなみにベストメンバーというのは?」


 気になるベストメンバーを小林監督に確認してみる事にしました。


「西條、藍沢姉、宮下、清水、蒼井、雪村、それから藍沢妹だな。 出来れば神崎と月島姉妹も使いたいが今日はまあ今出てもらってる試合で我慢してもらう」

「ウチは今日はメンバーから外せ言うた手前なぁ」


 大体が元月ノ木のメンバーである。 私達世界レベルのチームだった?!


「中々大変だね、世界大会って」


 希望ちゃんが何やらわかった風に頷きながら言う。 たしかに大変ではある。 お互い優勝候補なだけに相手のデータを何とか取ろうという腹の探り合いだ。

 面倒だしデータぐらい上げれば良いのにねぇ。


「お、2セット目もええ感じやな」

「何だかんだ皆、手を抜きながら良くやるわね」


 今のところ2点のリードを取っている日本代表。 麻美ちゃんが役に立っていない穴を上手くフォローし合いながら戦っている。

 チームワーク出来てるね。


「しかし、藍沢さんの妹さん、あれ大会までに仕上がるんかいな?」

「そればっかりはわからないわね。 もう2ヶ月も無いしどれくらいパワーアップするか……」

「無理して故障だけはしないでほしいね」


 今も足に重りを巻きながら、まともにブロックにもスパイクにも跳べないまま真剣な顔でプレーをする麻美ちゃんを見守る。

 麻美ちゃん、バレーボールに対しても凄く真剣なんだね。


 試合は進み、何とかリードをキープしたまま2回目のテクニカルタイムアウトを終えて帰ってくる。

 得点は16-14。


「どうだ、アメリカ代表2軍は」


 日本代表デビュー戦の紗希ちゃん達に向かって監督が手応えの程を確認する。


「あっちも手を抜いてる感はあるかしらねー」

「そんな感じー」

「2軍とはいえ、データは与えたく無いっちゅうことか」


 なるほど。 私も薄々そうじゃないかとは思ってたけど、相手もやっぱり手抜きしてそうだね。

 あの中から、本番では1軍になっている選手がいるかもしれないって事かな。


「麻美。 どう?」


 奈々ちゃんが簡潔に聞くと、麻美ちゃんはいつものように「なははー」と笑う。


「慣れては来たけどまだまだかなー。 大会本番までにはしっかりパワーアップしてみせるよー」


 と、力こぶを作るポーズを見せる。 麻美ちゃんは言った事は守る子だ。 大会の時には今までとは違う麻美ちゃんが見られるだろう。


「よし、とりあえず決めてこい。 その後どうなるかはあちらさん次第だ」

「はい!」


 テクニカルタイムアウトを終えてコートへ戻っていく皆。


「さて、この後もう1試合あると仮定して、そろそろアップしとけよー」

「はい」


 という事で、先程名前の挙がったメンバーはアップを始める。

 その様子を見たアメリカベンチサイドにも動きがあった。 監督さんがベンチに座るオリヴィアさん達に何やら指示を出すと、こちらへやって来たのだ。

 これは奈央ちゃんと小林監督さんの読み通りかな?

 小林監督と2人でひそひそと話している。

 よし、久しぶりに読唇術発動だよ!


「……ダメだ。 英語は読唇出来ないや」


 少し待っていると、小林監督さんが戻って来て話の内容を私達に伝える。

 内容は予想通りもう1試合追加。 試合は25点の1セットマッチ。 メンバーもあちらは1軍を出してくるとのこと。 小林監督はそれに対してこちらもベストメンバーを出すと約束したが、一つ条件を出した。 お互いここで得た情報を他国代表には漏らさない事。 こちらは全ての手の内は明かさないという事だそうだ。

 それに対してアメリカ代表監督さんは笑いながら了解し「こちらも最初から全て見せるつもりは無い」と答えたらしい。


「と、いうわけだ。 今やってる試合同様に負けても構わない。 相手がこちらに見せる以上の情報は見せるな」

「またまた難しい事を……」

「ま、適当にやりましょう。 熱くなって本気出さないようにね」


 また色々と加減してやらなきゃいけないんだね。 それでもオリヴィアさんをはじめ、アメリカ代表1軍と試合出来るのは楽しみだ。



 ◆◇◆◇◆◇



 練習試合1試合目が終了し、両チーム小休憩を取ることになった。


「さて、さっき言ったメンバーはいつでも行けるか?」

「はい!」

「なんで私がベストメンバーじゃないのよー」

「神崎はさっきまで試合してたからな」

「まだいけますー!」

「ダメだー」


 ベストメンバー入りしてない事に不服を申し立てる紗希ちゃんだが、監督曰く神崎はワールドカップではもう1人の隠れたエースとして期待しているとの事。

 それを聞いて仕方なく引き下がる紗希ちゃんだった。


「実際のとこ、スパイク決定率で言うたら亜美ちゃんと紗希はツートップやからな。 監督が期待しとるんは間違いあらへんで」

「まあ、紗希ちゃんスーパープレーヤーだからね! きゃははは!」

「意外とチョロいんやな……」


 持ち上げられて調子に乗る紗希ちゃんであった。


「さて、そろそろだな。 行ってこい」

「はい!」


 休憩時間もそろそろ終わり、2試合目開始の時間がやってくる。


「じゃあやりますか」


 コートに散らばり試合開始を待つ。 奈々ちゃんのエースナンバーはやっぱり似合うねぇ。

 アメリカ代表にはオリヴィアさんを始め1軍選手と思しき長身選手がズラリ。 こんなの本気でやっても勝てるか怪しいよ。


 さて試合開始の合図が出たよ。 サーブはアメリカ代表から。

 おそらく正セッターだろう選手のサーブ。


 パァンッ!


 相変わらず威力のあるジャンプサーブである。


「任せて!」


 それをまた物ともせずにあっさりとレセプションしてしまううちの正リベロ。


「ナイスカットですわ希望ちゃん」


 奈央ちゃんが同時高速連携のサインを出しながらセットアップする。

 この連携は世界選手権で見せているから隠す必要は無いからね。

 攻撃に参加出来る選手全員で助走し、跳ぶ。


「亜美ちゃん!」


 ブロッカーはエースの奈々ちゃんに2枚集まったので、逆サイドで跳んだ私にトスが来る。 ブロック1枚、オリヴィアさんだ。


「ていっ!」


 上手くオリヴィアさんを躱してスパイクを決める。

 ブロック1枚ならどうにでも出来るというものである。


「ナイスー」


 チームの仲間とハイタッチを交わしてローテーション。 さあ、私のサーブだけどどうしようね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る