第748話 代表デビュー
☆紗希視点☆
現在は日本代表チームとアメリカ代表チームの練習試合が行われているわよ。
だけどこの試合、ちょいと歪なのよね。
まずアメリカ代表チームのスタメンはどうやら2軍メンバーらしいということ。 理由は多分、アメリカの主力メンバーのデータを私達日本に取らせたくないから。
それを察した日本代表側もデータを渡さない為にあえて手を抜きながら試合を進めている。
「多分ですけど、アメリカの監督さんの目論見では2軍メンバーでも十分に私達に勝てる見込みがあると踏んでいたんでしょうね」
奈央は腕を組んで試合を観戦しながら話し始めた。
「私達はユース大会優勝メンバーがいるのよ? 舐めすぎじゃないの?」
その隣に座る奈々美が奈央に向かって返す。 奈々美の言う通り、日本ユースメンバーが揃ったチーム相手にその考えは舐めすぎだわね。
「まあそうですわね。 だから現に今、日本チームがリードしている。 あちらの監督さんのアテがハズレたってとこですわ」
「アテってなんや?」
「2軍相手にぼろ負けしそうになれば、こちらがベストメンバーを出して本気になるとでも思ったんじゃないですの?」
「なるほどぅ。 でも私達日本はそもそも勝ちに拘ってないし、アメリカ代表さんの作戦は完全に失敗だね」
「そうとも限らんぞ」
話を聞いていた監督さんが話に割って入ってきた。
「というと?」
「痛み分けですわね」
「そうだなぁ」
奈央の言った「痛み分け」という言葉に監督さんも頷く。
「痛み分け? どういうこっちゃ?」
「私にはわからないわよー」
宮下さんはハナっから話が頭に入ってなさそうだわ。
難しい話は右から左ってタイプみたい。
「良い? この練習試合はアメリカ側から申し出てきたもの。 そうまでしてでも私達日本代表のデータが欲しいってこと」
「ふむふむ」
「アメリカ側のデータを取られずに私達のデータが取れれば最高だったんだろうけど、それはどうも叶いそうにない。 となればアメリカ側も多少は傷を負う覚悟をしなければならないですわ」
「ぐにゃー」
宮下さんは早くも溶けていた。
ダメだわこりゃ。
「アメリカ側としては手ぶらでは帰りたくないはず。 だからあちらから提案してきますわよ。 ベストメンバー同士での試合を」
「つまり1軍を出して来るっちゅうわけか」
「ええ。 向こうも私達にデータを取られるのは覚悟の上で」
「なるほど、痛み分けだねー」
麻美が理解したように頷く。 つまり今行われている練習試合はまだまだ前座みたいなものってことかしら?
「アップしとけよー。 この1試合目が終わったら、あちらさんの監督が必ず2試合目の提案を持ち掛けてくる」
「言い切れるんですか?」
「わざわざ1軍メンバーも連れてきてるのが良い証拠だ」
こうなった時の為に連れてきたってわけね。
「もし1軍との試合になったらどうすんのや? やっぱり手の内は隠すっちゅうのは変えへんのですか?」
「いや、多分相手もそれなりには本気で来るだろう。 だからこちらもそれなりで相手する。 全部見せる必要はないからな」
「了解」
ふうむ。 ワールドカップはもう始まってるって感じね。 こんな盤外戦が行われていたとは。
「お、そろそろ1セット目が終わるな。 月島妹、藍沢妹、神崎、準備できてるな?」
「はい!」
私達は2セット目からコートへ入る事になっているわ。 日本代表としての初試合。 代表デビューね。
1セット目を終えた皆がこちらへと引き上げてくる。
「ふぅ……手を抜くのも大変だねぇ」
「ついつい本気出しそうになるなぁ」
「おいおい、頼むぞぉ」
「大丈夫ですよ」
ここまでは手の内を見事に隠しながらも1セット目を先取したスタメン達。 ここで私達と交替するのは……。
「清水、田中、蒼井は2セット目はベンチに下がれ。 代わりに神崎、月島妹、藍沢妹を入れる」
「あ、はい。 皆頑張ってねぇ」
「間違えて本気でやるなよ?」
「やらないわよ」
軽くストレッチをして準備OK。 さて、私の場合はアメリカさんもほとんどデータを持ってはいないはず。
ということは色々と封印する物が多いわね。 まずはジャンプ力。 本気で跳べばかなり高さを出せちゃうけど、高さのある選手だとバラすのも良くない。 程々に跳ぼう。
次に必殺スパイクであるメテオストライクとコメットインパクトね。 それもここでは封印と。
「ありゃ? そんだけ封印したら私めっちゃ普通の選手じゃん!」
まあそう思わせるのが狙いなんだけども。 なんかやりくいわね。
「重りが重いー。 ナチュラル縛りプレーだよー」
隣では軽くピョンピョン跳ねながら麻美がそんなことを言っている。 麻美の場合はもう足の重りの所為でまともに跳べないから、それだけでカモフラージュになるわね。 精々「何か騒がしいだけの選手」みたいな感じに捉われるでしょ。
「私は何に気を付けたらええやろかぁ。 やっぱりパワーは抑えた方がええよなぁ」
ぶつぶつと渚も注意するところを考えているみたいだわ。 渚はそうね。 パワーには定評があるし、隠すとしたらそこよね。
「さて2セット目開始ぃ」
というわけで黛妹ちゃんのサーブから始まるわよ。
パァンッ!
「ナイサー!」
データをある程度取られてしまっている黛姉妹は、比較的普通にプレーしているわね。 ただ、何かしら新連携があるらしい事は匂わせていた。 当然それはここでは出さないだろうけど。
黛妹ちゃんのサーブを拾いトスが上がる。
麻美と私でブロックに付くわよ。 ある程度ジャンプ力をセーブしてっ。
「せーの!」
パァンッ!
何とか手のひらに当ててチャンスボールに繋げる。 麻美はやはりというか高さが出せず、身長の高いアメリカ代表のスパイクには触れそうになかった。
「ぐぬぬー! 今に見てろー!」
今は仕方がない。 耐える時よ麻美。
さて、チャンスボールとなりそうなボールを新田さんが追いかけてしっかりと拾う。
「ええでおチビ」
「新田ですっ」
黛妹ちゃんは名前で呼ぶ気はないのかしら? とにかくボールの落下点へ移動して両手のひらを上に向けて構えながら、小さくジャンプしてトスを上げる。
「月島妹いったれ!」
渚へのトスに反応して渚が跳び上がる。 高さはいつもと変わらないぐらい跳んでいるわね。 問題はパワーを抑えられるかどうか。
「はっ!」
パァンッ!
ちょっと力抜き過ぎてる節のあるスパイクを打つ渚。 渚自身もちょっと顔を顰めている事から力加減を間違えたっぽいわね。
当然ながら気の抜けたスパイクは簡単に拾われてしまい、あっさりとカウンターを決められてしまった。
「す、すんません」
申し訳無さそうに謝る渚に、黛の姉さんの方が声を掛ける。
「どんまいや渚さん。 力加減は次で修正したらええんや。 大事なんは全力を見せへん事やで」
「そうだぞー。 私なんか見てみろー、役立たずの木偶の棒だー」
何だかんだチームワークの出来つつある私達日本代表。 仲間の声に励まされた渚は「はい!」と大きく頷く。
「負けても良いんだから肩の力抜いて、伸び伸び適当にやりましょ」
「おー!」
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