第711話 流れは渡さない
☆亜美視点☆
1セット目を七星大学に取られて2セット目も最初のテクニカルタイムアウトを迎えたところ。
7ー8となっている。
「あっちはミスしないわね」
「そうね」
バレーボールにおいてサーブミスや連携のミスというのは付き物である。
インターハイ全国レベルでもミスによって敗退していくチームはいた。
この東日本インカレに出てきている大学は、そんなにレベルの高い所ではないので、ミスはもうちょっとあるかなと思ったんだけど、七星大学さんはかなり堅実なプレーでほとんどミスをしていない。
お互いの攻撃が中々止められないこの試合、お互いのミスで試合の流れが変わりかねない。
「とにかくどんな形であれブレイクしないと話になりませんわ」
「そだねぇ。 このセットまで取られたらいよいよ後がないからね」
「新入生2人にばかり頼らないこと! 先輩の意地見せな!」
と、コーチから先輩達に檄が飛ぶ。
いやいや、先輩達もちゃんと決めてくれてはいるんだけど。
奈央ちゃんと私の高速連携という破壊力抜群の攻撃をチラつかせることにより、先輩達の攻撃も決まりやすくなっている。 だからこそこのシーソーゲームが成立している。
「はい!」
それでも先輩はコーチの檄にしっかりと返事を返している。
まだまだ自分達は足りていないと、そう思っているんだろうか? そんな事はないと思うんだけど。
いくらなんでも私と奈央ちゃん2人だけでは決勝まで来れない。 先輩達が頑張ってくれているからだ。
「行ってきなさい!」
「はい!」
コートへ戻る。
サーブは七星大学。 奈々ちゃんも私も前衛であり、攻撃力の高いローテーション。
問題はこの次のローテーション。
奈々ちゃんのサーブが回ってくる。
第1セットは奈々ちゃんに3本のサービスエースを取られて、結局それが元でセットも取られた。
2セット目1回目の奈々ちゃんのサーブは何とか凌いだけど、次も上手く凌げるかどうか。
パァンッ!
「任せて!」
先輩が声出しをしてサーブを拾う。 このように個々の技術はそんなに低くはない。
おっと高速連携だ。
奈央ちゃんがトスを上げる前に私はジャンプして腕を振る。
ブロック2人がついてきている。
私が囮になるかもしれないとわかっていても放置は出来ない為、どうしてもブロックが必要になる。
こうやって私が釣って先輩が決めるのだ。
パァンッ!
ピッ!
「よし8ー8!」
「ナイスキーです先輩!」
ネット前に立つ奈々ちゃんはそんな私を見て「本当に厄介だわそれ」と文句を言っていた。
大阪の黛姉妹と対戦した事を思い出す。
あれ厄介だったねぇ。 奈央ちゃんと同じチームで良かったよ。
その後のラリーは奈々ちゃんにあっさり決められてサーブは七星の奈々ちゃんへ移る。
ここが凄く大事な場面だ。 ここでエースを取られたらやばいよ。
奈々ちゃんがランニングジャンプから強烈なサーブを打ち込んで来る。
先輩頼むよ!
「うあ?!」
うわわ! 逸らした?!
やっぱり奈々ちゃんのサーブはわかってても中々上げられないんだねぇ。
「間に合いますわー!」
何て考えてる間に奈央ちゃんが凄い勢いで走っていく。
相変わらずわけわかんないぐらい初速が速い。
何とかボールに追いついてオーバーハンドトスを上げる奈央ちゃん。
「あんな離れた位置から?!」
普通はアンダーハンドで上げると思うんだけど、あの位置から私にトスを上げている。
これがまた良い位置にボールが返って来ているのだ。
「やるよ!」
助走をしジャンプ!
「てやぁ!」
パァンッ!
奈央ちゃんが何とか繋いだボールを何とか決め切る事に成功。
奈々ちゃんのあのサーブを1本で切れたのはかなり良い。
「何よあのダッシュ力! 反則でしょ」
「おほほほ。 私はスタートダッシュには自信あるのよ」
「そうだったわね」
奈央ちゃんは短距離走の時、とてつもないスタートダッシュを見せる。 初速は私より遥かに速いのである。
そのダッシュ力はバレーボールにおいても遺憾なく発揮されている。
「さてさて、私のサーブだねぇ」
ローテーションしてサーバーになる私。
さてどうしようかな。
奈々ちゃん経由で私のライン上に落とすピンポイントサーブはバレてるから全部拾われちゃうし使えない。
奈々ちゃん狙いのサーブも今のところ上手くはいってない。
どうも今日の奈々ちゃんは調子が良いみたいで、サーブ、スパイク、レシーブどのプレーもかなり良い動きを見せる。
奈々ちゃん狙いも無しだ。
じゃあ試しにセッターを狙ってみようか。
「よいっしょっ!」
パァンッ!
ランニングジャンプサーブでセッターさんの守備範囲ギリギリを狙い、レシーブミスを狙う。
パァンッ!
残念ながらミスは誘発させられなかったが、セッターのトスを封じる事は出来た。
これならどうだ。
セッターの代わりにトスを上げるのはミドルブロッカーさんのようです。
「はいっ!」
やっぱりトスはそんなに上手くない。
バックアタックの用意をしていた奈々ちゃんだけど、トスは打ちにくそうな場所に上がっているよ。
奈々ちゃんは体が流れるようなジャンプを強いられて、思ったような体勢でスパイク出来ていない。
これなら。
「任せてください!」
私が拾う。
「ナイス清水さん! チャンスボール!」
奈央ちゃんが走ってボールの下へ入る。
よし、私もバックアタックの準備だ。
「はい!」
バックアタックには走ったけど、私にトスは上がらず。 前衛の先輩にトスが上がりそれを見事に決めてくれた。
「おおお!」
「ナイスキー!」
「この試合初ブレイク!」
そうなのだ。 先輩の言う通りこの試合初めてのブレイク。
これは流れ来るかな?
「清水さんもナイスサーブだったよ。 次もよろしく」
「頑張ってみます」
よーし! このまま流れに乗るぞぉ。
と、意気込んでもう一度セッターさん狙いでサーブを打つも、ここは上手く繋がれて奈々ちゃんに決められてしまう。
これで10ー10になり、1ブレイク分リードだ。
「ですが、流れを取るには至りませんわね。 この後も気を抜けませんわよ」
「うん」
後衛に下がって守備的に立ち回るよ。
パァンッ!
相手側のサーブは私が捌くよ!
リベロがいない時の私のお仕事だからね。
「はいっと!」
よし、上手く拾ったよ。 奈央ちゃんに繋いで私はバックアタックの準備。
今度は私にトスが上がる。
「よいしょ!」
パァンッ!
ピッ!
これも決めて相手に付け入る隙は与えない。
しっかり決めてしっかり守る。
そうやってしっかりと流れを渡さない。 大事な事である。
「よし、まずはこのセットをしっかり取って振り出しに戻しますわよ」
「うん」
この試合に勝つ為にはそういったしっかりとしたプレーが命運を分ける。
そこから次のテクニカルタイムアウトまではそのままの流れで進み16ー15で迎えた。
このままじゃあセットを取れないし、どこかでもう一度ブレイクを取る必要がある。
中々難しいけど、何とかしないとね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます