第710話 息詰まる展開

 ☆奈々美視点☆


 今日は自分でも怖いくらいに絶好調だわ。

 運も味方につけて、これで勝てなきゃ一生あの子には勝てないってぐらいよ。


 とはいえ油断は禁物。 亜美の凄さは私がよく知っている。 それに向こうには私達の司令塔だった奈央もいるし。 これぐらいのリードじゃまだ安心出来ないわね。


「ここ1本で切るわよー!」

「おー!」


 チームの士気も上々。 まずは何が何でもこの1セット目を取る。

 その為にはこの亜美のサーブから始まるラリーを1本で切りたい。


「清水さんナイサー!」


 亜美が打てるサーブの数はかなり多い。

 どのサーブも凄まじいコントロールで狙った場所にピンポイントで入れてくる。

 

 ぽーん……


 今回はジャンプフローターを私目掛けて打ってきた。

 苦手なのよねフローターサーブの処理。


「よっ!」


 少し前進してオーバーハンドで拾う。

 我ながら上手くいったわね。 亜美の作戦敗れたり!

 って思ったけど、やっぱり下手な私。

 しっかりと高く上げなかったもんだから、その後の繋ぎがめちゃくちゃになり、スパイクも返すだけになってしまうのだった。


「ぐぬぬ。 せっかく良い流れなのに何てヘボプレーを……」


 いや、まだここで止めればチャンスはある。

 何せ今日の私は絶好調なのだ。 拾うわよ。

 とか思っていると、後衛の亜美が既に助走を開始していた。

 バックアタックの高速連携?!


 パァンッ!


 これまた際どいコースへ打ってくるが、飛びつけば届きそうなコースだ。

 ここは一か八か。


「はっ!」


 両手を伸ばして思い切り飛び込む。


 パァンッ!


 ギリギリのところで間に合い、拾う事に成功。

 しかし私は飛び込んだ体勢なので攻撃には参加できそうにない。


「ナイス藍沢さん!」

「先輩頼みます!」


 起き上がりながらボールの行方を目で追う。

 トスが上がり先輩がスパイクを打ってブロックアウトにしてくれた。


「よし! どうだ!」

「くぅ、今の拾われちゃあ仕方ない!」

「あぅ」


 絶好のチャンスを取れなかった白山サイドは精神的にかなりキツくなってきたようね。

 


 ◆◇◆◇◆◇



「はっ!」


 ピッ!


 そのまま流れを渡す事もなく、まずは第1セットを25ー22で先取する。

 亜美達白山大学から先にセットを取れたのは非常に大きい。

 決勝戦は5セット制の3セット先取になっているから、あと2セットね。

 ただ、私のエースや相手側のサーブミスでこちら側有利になっただけで、亜美のスパイクを止めて取れた点はあの1本だけ。

 つまり、力関係だけ見ればほとんど差がないという感じだわ。

 この試合、一つのミスで展開が変わる際どい試合になりそうだ。


「ふぅ……とりあえず先取」

「藍沢さんのおかげだわこれ」

「いえいえ……」


 たしかに今日は怖いぐらい調子が良いけど、それでもここまで際どい展開にされてしまうあたり亜美と奈央の怖さを痛感する。


「次セット取れれば優勝が一気に近付いてくる」

「ですね。 でも油断はできない展開です。 亜美と奈央の底力を知ってるんで、この先必ず何かやって来ると思います」

「さすがに同じチームでプレーしてただけあるわね。 たしかにあの2人は別格すぎるわ。 あなたもだけど」


 私は亜美と奈央に比べるとそこまでぶっ飛んでる気はしないんだけど、他の人から見たら私も相当ぶっ飛んでるのかしら?


「とにかく余裕は無いって事で。 出来る事をやっていきましょ! 結果はまぁついて来るでしょ」

「ですね。 このままいきましょう!」


 さて第2セットの開始よ。 サーブは白山大学のセッター、奈央から。

 あの子のドライブサーブ……亜美曰くパワフルサーブはそんじょそこらのドライブサーブとはわけが違う。 落ち始めるタイミングと落差が半端じゃないのよね。 普通にフロントラインに落としてくることもある。

 敵になってからその凄さを改めて理解した。


 パァンッ!


 来た来た。 鋭く落ちるサーブが私の目の前までやって来る。 ちょっとちょっと、私前衛よ?

 その威力のサーブが前衛の手元に来るってどんな軌道よ。

 しかも私狙いっぽいじゃない。 私がレシーブ得意じゃないのをよく知ってる。


「ええい!」


 パァンッ!


 何とかレシーブを試みる。 


「ナイスレシーブ!」


 どうやら上手く上げられたようね。 やっぱり今日は絶好調。 どんなプレーでも上手く行くような気がするわ。


「藍沢さんいけ!」

「はい!」


 スパイクに跳ぶと亜美も同時にブロックに跳んでいた。 高さだけは相変わらずだけど、ブロッカーとしての能力だけなら遥には劣る。

 以前、亜美本人も言っていた。

「私はオールラウンダーで、あらかたのポジションのプレーはできるけど、元々ずっとそのポジションを練習してるスペシャリストの技術には及ばない」って。


「止めるぅ!」

「諦めなさいっ!」


 パァンッ!


 亜美のブロックをパワーでぶち抜いていく。

 亜美は「うわわわわ」とか言いながら振り返るが、フォローもおらず私のスパイクは決まる。


「おのれー奈々ちゃんめぇ」

「おほほ。 あんたのブロックじゃ私のスパイクは止まんないわよ」

「むぅ。 絶対止めてやるんだからぁ!」

「私相手にムキになるのは良いけど、試合の方もちゃんとやりなさいよ」

「わかってるもん」


 とか言いつつ「絶対止めてやるぅ」と意気込んでいた。 大丈夫かしらねぇ?

 さて、今度は七星サイドのサーブ。

 先輩のサーブは簡単に拾われて、そのまま亜美と奈央の高速連携を囮にした他選手のスパイクを通されてしまう。 やっぱりあれは厄介な連携ね。


 第2セットも最初からお互い点の取り合いになっていく。 私のサーブは亜美が体を張って拾ったこともあり1本で切られてしまい、亜美のサーブも私狙いではあったけど何とか処理してスパイクを決めた。


 そんな展開がテクニカルタイムアウトまで続く。


 ピッ!


 気が抜けない試合展開ながら、7-8でテクニカルタイムアウトを迎えた。

 流れは取られてないけど中々引き離せないのは、相手もうちも攻撃を止めることが出来ていないからである。

 月ノ木の皆と対戦すると大体いつもこうなるわね。


「ふぅ……もうこういう息詰まる試合は勘弁してほしいわねぇ」

「昨日の羽山戦からこんなんばっかりね」

「あなた達がやばすぎるのよね」

「いやいや……」

「でもいい加減止められないといつか持っていかれかねないわよ」

「それは多分あちらさんも同じように思ってるんじゃないかね?」

「でしょうね」


 とはいえ、ブロックの上から打って来たり、高速連携で来たりと中々手強い相手だ。

 亜美と奈央に関してはミスすら期待できないから、他の選手がミスしてくれたりするのを期待するしかない。

 次に回ってくる私のサーブでまたサービスエースが取れればいいんだけど、ここまでくるとお相手さんもかなり慣れて来たみたいで、体勢を崩しながらもしっかりとレシーブを上げるようになっている。

 意地になってエースを狙ってミスりたくないから、サービスエースは結果的にそうなればいいな程度で打っていきますか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る