第697話 4強

 ☆希望視点☆


 現在は大会3日目、決勝トーナメント二回戦第一試合を観戦中です。

 コートには白山大学の姿もあります。

 開幕に見せた亜美ちゃんのスパイクは、インパクト直前に無理矢理コースを変えたように見えた。

 昨日私がやった亜美ちゃん対策を見て、亜美ちゃんが考え出した答えなんだろうか。


「あれ、結構難しいのよ」


 とは、隣に座る奈々美ちゃんの言葉。

 それは、リベロである私にはわからない感覚だ。


「スパイクする体勢に入った後で、リベロの動き出しを見てコースを変えるってのは、かなり猶予が無いのよ」

「なるほどぅ」

「あのリベロみたいに、他のバックを信じてある程度先読みで動いてくれるなら、まだマシだけど……希望みたいに相手の体勢を見てから動き出すリベロだと特にね」

「つまり、私が相手だと、あの咄嗟のコース変更はやり辛いってこと?」

「そゆこと」


 なら、まだ私の方が気持ち有利という事だ。

 とはいえさすがは亜美ちゃん。 すぐさま対策の対策を講じてきた。 油断ならないよぅ。


「準決勝、楽しみになってきたわね。 亜美が勝ち上がってきても、希望が勝ち上がってきても退屈せずに済みそう」

「おいおい。 その前に私達羽山体育大学だろ? 何を勝った気でいるんだい」


 奈々ちゃんの隣に座る遥ちゃんがツッコミを入れている。

 その前にまず今日の試合に勝つ事が大事なんじゃないかな?


 さて、亜美ちゃん達白山大の試合も終盤に入ったところで、次に試合をする私達青葉丘は客席をあとにして控室へ移動開始。

 私達だって負けてられないよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 ☆亜美視点☆


 試合終了──


 さすがにこんなところで負けるわけにはいかないよね。


「お疲れ様。 どうだった亜美ちゃん?」

「うーん……形にはなってると思う。 けど、リベロとしての実力が比較にならないから、参考になるかどうか……」

「結局明日はぶっつけ本番ってことね」

「そだね」


 希望ちゃんもこの試合を見ていた筈。 多分私のやっている事にも気付いたよね。

 一体どう考えたんだろうか?


「ま、考えても仕方ないわよ。 行きましょう。 今日は皆の試合観て行くんでしょ?」

「うん」


 とりあえずこのまま客席の方へ移動して、皆の試合を観戦してから帰る事にするよ。

 特に奈々ちゃんや遥ちゃんの試合はまだ観てないからね。



 ◆◇◆◇◆◇



「あ、奈々ちゃんに遥ちゃん。 やほ」

「やほ。 順当に勝ち上がったわね?」

「当然よ」


 さすがに皆と対戦する前に負けちゃうわけにはいかないからね。


 私は奈々ちゃんの隣の席に座り一息吐く。


「希望ちゃん何か言ってた?」

「難しい顔はしてたわよ」

「なるほど」


 やっぱり私の思惑には気付いたみたいだね。


「希望相手にさっきのアレやる気?」

「一応そのつもりだよ」

「希望相手だと、さっきの試合の数倍は大変よ?」

「わかってるよ。 でも、勝負に勝つ為にはやらないと」

にね」


 私は頷く。 もちろん、試合にだって負けてあげるつもりはない。


「お、出てきたぞ」


 遥ちゃんの声を聞いてコートに目を向けると、青葉丘教育大学が出てきていた。

 希望ちゃん、今日は普通にプレーするのかな?


「希望は昨日なんかやったんだって?」

「うん。 私対策を見せてたよ」

「あぁ、だから今日はあんたが希望対策を見せてたわけね」

「うん」


 奈々ちゃんは昨日、希望ちゃんと同時刻に別コートで試合があったから、直接は見てないんだね。


「今日もやるかしら?」

「どうだろうねぇ」


 さすがにベスト8にまで残ってきた相手に、リスクのあるプレーはしないとは思うけど。

 そうこうしていると、試合が始まりました。

 さて希望ちゃんはどうするのかな。


 サーブは青葉丘教育大学側から。 オポジットの松本さんだね。

 良いサーブを打つプレーヤーだ。 青葉丘のエースとしてチームの火力の柱を担っている松本さん。

 注目選手だね。

 サーブは上手くレセプションされており、攻撃が青葉丘に返ってくる。


「あ、今日はしっかりブロックも付いてるね」

「いつも通りって事ね」

「うん。 今回は私対策の練習はしないのかも」


 まあ、私はもう昨日見たから情報は必要ないのだけど。

 その後も希望ちゃん達は堅実なバレーボールを進めていくが、2セット目終盤で点差に余裕が出てきたタイミングになると。


「あ、やるみたいだよ」

「ん? 本当ブロックに誰も付かないわね」

「出るか亜美ちゃん対策」

「本当にとんでもないプレーヤーですわよ」


 希望ちゃんは相手のアタッカーの動きをギリギリまで凝視しつつ、軽くスプリットステップを踏む。

 先に左足で着地し、着地の反動を利用して右側へダッシュを始める。


「はいっ!」


 コートのコーナーギリギリに狙われたスパイクを、片手のダイビングレシーブで拾ってみせた。


「うわ、凄いわねあの子……」

「ありゃもう化け物だ」


 奈々ちゃんと遥ちゃんは冷や汗を流しながら驚嘆しているよ。

 正直私も困っている。 今のを見てわかったけど、希望ちゃんの守備範囲はもうコートのほぼ全体にまで渡っている。


「あれからどうやって点取っていくのよ」


 奈々ちゃんはスコアを見ながらつぶやく。


 第1セット25-8 第2セット現在スコア22-7というとんでもない差がついている。

 さっきから青葉丘のサーブが終わらないのだ。 

 失点もスパイクを決められたというよりも、サーブミスやブロックポイントによる失点の方が多いという展開。


「亜美ちゃん。 あれに勝つの無理かもしれませんわね」

「あはは……参ったねぇ」


 私の希望ちゃんの逆を突くスパイクがどれだけ精度を上げられるか。  それが希望ちゃんに通用するか。 

 試合の方は希望ちゃん達青葉丘がそのまま圧勝。 今日の試合で一気に優勝候補に名乗りを上げてくるのだった。

 その後も遥ちゃんの羽山、奈々ちゃんの七星の試合を観戦。 どのチームも危なげなく勝ち上がり、ついに私達白山、希望ちゃんの青葉丘、奈々ちゃんの七星、遥ちゃんの羽山の4チームがベスト4に残り、明日はついに準決勝でぶつかることになる。


「ついに明日だねぇ」

「ですわねぇ」


 ホテルへ戻ってきた私達。 明日の希望ちゃんのいる青葉丘との試合。 はっきり言って結構厳しい試合になりそうである。

 今日の試合でも、ほとんどスパイクを決めさせていなかったし、私も同じように全部拾われたりするかもしれない。


「夕飯食べに行きますわよ」

「うん」


 明日試合をする対戦相手だというのに、私達はいつも通りに一緒に夕飯を食べる。

 仲良しという事である。


 レストランへやって来た私達は、いつも通り和気藹々とした雰囲気で夕飯を食べる。


「ついに明日だな奈々美!」

「えぇ。 悪いけど勝たせてもらうわよ?」

「ふふん。 奈々美のスパイクなんて私がブロックで叩き落してやるよ」

「おお、熱いねぇ」

「私達だって負けないわよ」

「ふんす、私の青葉丘が勝つもん」


 希望ちゃんも今回ばかりは引き下がる様子はない。 本気で勝利を狙っている顔だよ。

 試合は明日。 私達の本気の対決が始まるのである。

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