第673話 チーム月ノ木

 ☆亜美視点☆


 合宿3日目の朝です。

 今日の練習は紅白戦をやるという事です。

 8人チーム1つと9人チーム3つを作り、総当たり戦でやるみたいだよ。

 まだチーム分けは発表されてはいない。 誰と組むのか今から楽しみです。


「元代表さんとかとも対戦出来ると良いなぁ」

「亜美ちゃんは強気だね……元代表なんて強いに決まってるよぅ」

「そりゃそうだよ。 だからこそ対戦したいよ」


 元日本代表の選手と対戦なんて、大学バレーやってても中々経験できないよ。

 貴重な機会である。

 もちろん、弥生ちゃんや宮下さん、黛姉妹とも対戦したいし、月ノ木メンバーとだって対戦したい。

 対戦したい人多すぎ問題である。


「私は亜美ちゃんと同じチームが良いけどなぁ」


 どうやら希望ちゃんは、私との対戦は望まないらしい。



 ◆◇◆◇◆◇



 ということで、やってまいりました体育館。

 何も言われずともウォーミングアップや自主練を始める各選手。 さすが世界戦に臨もうかという顔ぶれである。

 ある程度体が温まってきたところで、監督から呼び出しがかかり、一箇所に集合する。


「よーし、揃っているな? 今日はこれから紅白戦をやる。 チーム分けを発表する」


 ドキドキワクワク


「Aチームは月ノ木学園出身メンバー8人のチーム」

「えーっ?! いつもと同じメンバーですか?!」

「お、お、おう」


 しょぼーん……初めての人と組めるかと思ったのになぁ。


「あ、後からシャッフルもするから大丈夫だぞ……」

「あ、そうなんですね」


 じゃあいっか。

 まずチーム月ノ木の力を皆に見せてあげよう。

 

 チーム分けが終わり、Bチームには弥生ちゃんと新田さんが、Cチームには宮下さん、黛姉妹が入った。

 そしてDチームは、元日本代表メンバーが固まっている。

 これは何か意図でもあるんだろうか?

 さすがに、私達でも元日本代表チームは無理なのでは?


「じゃあまずはAチーム対Bチームだ。 待機チームの中から主審とラインズマンを出してくれ」


 最初はBチーム……。


「待っとったでこの日をー! 勝負や亜美ちゃん。 いや、月ノ木学園!」


 弥生ちゃんがやけに燃えている。 打倒月ノ木学園のチャンスが巡って来たわけだし、それも無理はない。

 新田さんや眞鍋さんもいるし、他のVリーガーもいる強敵チームだ。


「相手に取って不足無しですわね」

「やってやろうじゃないの」

「きゃはは、コテンコテンのパンパンにしてあげますどすえー」

「下手な京都弁はやめなはれや紗希」

「なははは! なはれなはれー」

「き、緊張感あらへんなぁ……」

「大丈夫かこのチーム月ノ木」


 な、何だかんだ言ってチームワークなら4チームの中ではダントツなはずである。

 大丈夫大丈夫。


 というわけで、私達はコートの中に入るよ。

 メンバーはいつも通り、私達大学生6人と希望ちゃんの交代要員の麻美ちゃん。

 途中から奈々ちゃんと渚ちゃんを交代させる事にする。


「何だか久しぶりな感じだわ」

「そうですわね」

「卒業前に集まってやったばかりだけどな」

「そうだったわね」

「とにかく頑張るよ」

「はぅはぅ」


 円陣を解いてコートに散らばる。 お馴染みのスターティングフォーメーションだ。

 サーブはお相手チームさんから。

 眞鍋先輩がサーバーのようだよ。

 あちらさんはスタメンに弥生ちゃんと新田さんもいる。 MBミドルブロッカーはVリーグでも随一と言われている橋田さんが立っている。 残りのOHアウトサイドヒッターも当然Vリーガーである。


 パァンッ!


 眞鍋先輩のサーブがゆらゆらと飛んできた。

 ジャンプフローターサーブだ。

 希望ちゃんが落下地点に入り、アンダーハンドで拾いにいく。

 通常、フローターはオーバーハンドで拾う方が安定するんだけど、希望ちゃんはオーバーハンドがそんなに得意ではない。

 練習してある程度は上達したけど、ここは自信のある方を選択したのだろう。


「はいっ!」


 難しいジャンプフローターを、アンダーハンドで上手く処理する。


「さすがですわね」


 即座に奈央ちゃんがセットアップに入り、遥ちゃんがいち早く助走を開始する。

 更に少し遅れて奈々ちゃんも助走を始め、奈央ちゃんがトスを上げると同時に私と紗希ちゃんも助走に入る。

 フォローを捨てた全員攻撃の構えだ。


 トスは奈々ちゃんの頭上を越えて紗希ちゃんの元へ。


「くらえー! 私の新必殺技、コメットインパクト!」


 うわわ、また変な名前のスパイクを開発してるよ。

 どうやらコメットなんちゃらは、クロスのインナースパイクのようです。

 しかもメテオストライクみたいに打ち下ろすスパイクなので、これまた取りにくそうなスパイクだ。


 ピッ!


「よしゃっ! どうよ奈々美!」

「知らないわよ……てか、ちゃっかり新技開発してたのね」

「進化を止めない女、紗希ちゃんよ!」


 何せよまず一本決められて良かった。

 あちらのブロッカーや新田さんも驚きの表情を見せているし、これは流れに乗るチャンスだ。


「さてさて、私のサーブだねぇ」


 相手のリベロは新田さん。 簡単にエースが取れる相手じゃないから手堅く入れていこう。


「はっ!」


 普通にドライブサーブを叩き込む。 相変わらず私のサーブの威力はへなちょこである。

 当然あっさりと拾われる。

 そして流れるように、眞鍋・弥生の元立華コンビが攻撃してくる。


「うらぁっ!」


 スパァンッ!


 相変わらず迫力満点のスパイクを打ってくる弥生ちゃん。


「はぅん!」


 そんな強烈な弥生ちゃんのスパイクを、コース予想していた希望ちゃんが拾う。


「あかんか!?」


 希望ちゃんは体勢を崩しながらも、ボールはしっかり上げている。


「さすがです雪村先輩!」


 何故か相手チームの新田さんが感動して目を輝かせている。 リベロ同士、何か思う事もあるのかな?

 おっと、それは置いといて……。

 ここはバックアタックに行く為に助走だ。


「はいっ!」


 トスが上がったのは奈々ちゃん。


「っ!」


 パァンッ!


 こちらも弥生ちゃんに負けず劣らずのスパイクを打ち込んでいる。

 あんな振りで頭叩かれたら首もげちゃうよ。

 ベテランブロッカーさんのブロックを物ともせずに突き抜ける奈々ちゃんのスパイク。

 新田さんが手を伸ばして飛びつくものの僅かに届かず。


「っし!」


 奈々ちゃんのガッツポーズが飛び出す。

 スパイクの威力、最後のインターハイの頃より上がってないかな?


「ちょいちょい。 あんさんら受験期間はバレーやってへんかったんちゃうん? 強なっとるやないか」

「知らないわよ。 バレーはやってなかったけど、基礎体力トレーニングぐらいは続けてたわよ」


 私もランニングや軽い筋トレは続けてはいたけどね。

 

「ほんま化け物ばかりやな……」

「ははは、これが黄金世代って呼ばれてる貴女達の中でも最強と名高い月ノ木学園さんか。 本当とんでもない強さね。 すでに代表チームクラスなんじゃないかしら?」


 相手チームにいるVリーガーさん達も苦笑いを見せるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る