第659話 久しぶりの藍沢家

 ☆亜美視点☆


 今日は朝から夕ちゃんと希望ちゃんがお出かけしていていないので、今は家に一人でございます。

 でももう17時30分だし、帰りの電車ぐらいには乗ってるんじゃないかな?


 ピロロー


「あ、夕ちゃんからだ」


 ちょうど夕ちゃんから通話がかかってきたのですぐに出る。


「夕ちゃん、もしもーし。 何時くらいに帰ってくるー?」

「あー、それなんだが、夕飯を食って帰ろうと思うんだ」

「外で食べてくるの?」


 しょぼーん……


「わかったよ。 ごゆっくりー」


 と、サクッと返事だけして通話を切り、マロンを抱き上げる。


「マロンー。 今日は2人でご飯だよー。 寂しいねぇ」

「んみゃ!」


 ふぅむ。 寂しいし、奈々ちゃんとかを夕飯にご招待しようかなぁ?

 

「うん。 そうしよう!」


 そう決めたら私の行動は速いのである。

 パパッと奈々ちゃんにメールを入れて、返信を待つのである。


「待つ事1分だよ」


 ピロリン!


「来た来た。 何々……せっかくだし家に来なさいよ。 母さんも父さんも歓迎だって。 あ、そうそう、マロンも連れて来る事!」


 という返信が来た。


「これは何て素敵な展開っ!」


 私は秒で返事して、すぐにお出かけする準備をする。

 ハムスターと海水魚さん達にはちょっと早いけどエサを上げておいて、マロンをキャリーバッグに入れて藍沢家へ向かうのでした。



 ◆◇◆◇◆◇



 マロンを連れて奈々ちゃんの家へ向かう途中の十字路で、ゆっくりとこちらへ歩いてくる女の子の姿が見えた。 いつも大体元気に笑いながら歩いている姿が印象的な彼女だけど、1人だと割と普通に歩いてるんだねぇ。

 その子が私の姿を視認するや否や、にぱーっと笑顔になり、元気に笑いながら走り寄ってくる。

 そうそう、これが彼女の姿だよね。


「あはははー! 亜美姉だー! どこか行くの?」

「うん。 今日は藍沢家で夕飯呼ばれるんだよ。 今から藍沢家に行くとこだよ」

「おー! おおー! やったー! 亜美姉と一緒だー!」

「んみゃー」

「あ、マロンもー」


 麻美ちゃんが凄く嬉しそうにしている。


「藍沢家で夕飯呼ばれるのも凄く久しぶりだね」

「小学生の時以来じゃないかな?」


 もうそんなになるのかぁ。 たまに遊びに行ったりはするけど、夕飯までは呼ばれていないなぁ。

 

 麻美ちゃんと一緒に藍沢家へ向かうのでした。



 ◆◇◆◇◆◇



「たっだいまー!」

「おじゃまします」


 藍沢家におじゃますると、おばさんが出てきてにっこりと挨拶を返してくれる。


「おかえり。 亜美ちゃんもいらっしゃい。 ゆっくりしていってね」

「はい」


 本当に久しぶりだなぁ、おばさんの手料理。

 

「奈々美は部屋にいるわよ」

「あ、はーい」


 奈々ちゃんは自室か。 ちょっと行ってみよっと。

 私は階段を登り2階の奈々ちゃんの部屋へと向かう。


 奈々ちゃんの部屋は2階に上がってすぐの部屋。

 ドアプレートに「ななみ」と書かれたものが掛かっている。


 コンコン……


「奈々ちゃんー」


ドアをノックして呼び掛けると、奈々ちゃんがドアを開けて顔を出した。

 部屋着姿も中々様になってるよ。


「いらっしゃい。 夕也達が帰ってこなくて寂しいって、あんたも可愛いわねぇ」

「あははは。 1人でご飯食べても美味しくないし」

「まあ、それはあるわね」


 奈々ちゃんはベッドに寝転び、マンガを読み出した。

 中々だらけた生活を送っているようである。


「家事とか手伝ったりしないの?」

「今日は洗濯と掃除したわよ」

「ちゃんとやってるんだね」

「ま、それくらいわねー」

「偉い偉い」

「子供じゃないっての……にしても、希望と夕也はデート満喫してるみたいね? 亜美としても気が気じゃないでしょ?」

「いやいや、そこまで心配はしてないよ。 夕ちゃんだって、ある程度は弁えてるはずだし」

「案外余裕あるわね」

「まあね」


 コンコン……


 奈々ちゃんとお話しをしていると、ドアをノックする音が。


「麻美でしょ? 入ってきなさいよ」


 ガチャ!


「やほー」

「亜美姉ー。 そういえばお昼くらいに夕也兄ぃと希望姉から通話かかってきたよ」

「え? 2人から?」

「何用があって麻美に通話なんかかけるのよ?」

「UFOキャッチャーの攻略を訊かれたー」


 なるほど。 そういうジャンルの事なら麻美ちゃんが適任だね。


「どんな様子だったのよ? イチャついたりしてた?」

「んー? UFOキャッチャーの事しか見てなかったからわかんないよ」

「役に立たないわねー」

「ひどいー!」

「あははは、奈々ちゃんさすがにその言い方は麻美ちゃんが可哀想だよ」

「そーだそーだ!」

「はいはい。 それは悪かったわよ」


 ここはあっさり認める奈々ちゃんなのでした。


「ところでさ、そろそろバレーボールどうするか決めた?」

「またその話か」

「亜美姉まだ迷ってるの?」

「んー。 だいぶ考えはまとまったよ。 とりあえずはバレーボールもやってみるつもり」

「そうこなくちゃ面白くないわ!」

「ただし、続けるのが困難だと思ったら辞めるよ? あくまでも大学では作家活動優先」

「亜美姉もとい音羽奏としてのお仕事も大変だろうからね」

「まあ……それは仕方ないわね」


 奈々ちゃんもそこには納得してくれるようだ。

 大学での勉強、作家活動に加えてバレーボールに家事。 かなりハードな日々になりそうだし、無理だと思ったらバレーボールは諦めるしかないだろう。

 やりたい事が一杯あるって大変だよ。


「1回くらいはあんたと対戦したいわね」

「そうだね。 私と奈央ちゃんが組んだら負ける気しないけど」

「化け物コンビー」

「人間だよ」


 麻美ちゃんに対してもいつものツッコミを忘れない私なのでした。



 ◆◇◆◇◆◇



 夕食時です。

 何年かぶりに藍沢家の食卓におじゃまさせてもらう私は、おじさんやおばさんから色々と根掘り葉掘り聞き出されるのでした。


 夕ちゃんとはどうなのかとか、白山大学に受かったらしいね? とか。


「母さんも父さんも、亜美が困ってるわよ」

「あはは、良いよ良いよ。 おじさん達とゆっくりお話しするの久しぶりだし」

「あははは! 賑やかにいこー」


 麻美ちゃんは普段からこんな感じなんだろうか?

 それとも、友達とかの前だけ?


「あ、そうだそうだ。 去年、美那が倒れたって聞いたんだけどその後はどう?」


 おばさんがそんな事を聞いてきた。

 そうそう、去年私のお母さんが過労で倒れて、私もしばらく東京へ行っていた時期があった。

 おばさんと私のお母さんは、小学生時代からの仲良しらしく、私と奈々ちゃんのような大親友だったみたい。

 子供も同い年の子を産む約束とかしていたみたい。


「あ、はい。 大丈夫みたいです。 週一は連絡取り合って話とかしてますけど、元気にしてます」

「そう、良かったわー。 あの子は昔から無理しいだったから心配なのよね」

「あはは。 そうなんですよねぇ」


 結構黙って頑張っちゃうタイプの人だから、私達が気付く頃には限界になってることもあるんだよねぇ。


「亜美ちゃんは無理しないようにね」

「き、気を付けます」

「あはは! 亜美姉も無理しいだからねー」

「そうそう」


 と、麻美ちゃんと奈々ちゃんに言われるのでした。

 私ってそんなに無理してるかなぁ?


 その日は久しぶりの藍沢家での夕食を賑やかに楽しませてもらうのでした。

 あ、そうそう。 マロンはおばさんとおじさんにも好評だったけど、飼うのは反対ということでした。

 奈々ちゃん、麻美ちゃんはどっちも残念そうだったよ。

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