第650話 銀河水槽

 ☆希望視点☆


 マリンパークニクスもほとんど見終わり、最後の場所へ向かう私達。

 最後は銀河水槽という物を見に行くらしい。

 何だか凄そうな名前だし、期待しちゃうよ。


「ここですわね」


 建物の中は薄暗くなっていた。

 そして、大きな大きな水槽の中には、まるで星のようにキラキラと光りながら動く物体が。


「何あれ?」

「どうやらイワシだな」


 亜美ちゃんの質問に宏太くんが答えた。

 イワシってあのイワシだよね?

 こんな綺麗なんだ。


「なるほど、薄暗い館内の水槽で群れをなして泳ぐイワシを銀河に見立てのね。 まさに銀河水槽だわ」


 奈央ちゃんがそう言う。


「綺麗ねー」

「そうね」

「凄いなー」


 あの紗希ちゃんや麻美ちゃんでさえ静かになるほどの美しい光景。

 しばしの間その光景に魅了されるのでした。



 ◆◇◆◇◆◇



 マリンパークニクスを存分に楽しんだ私達はその場を後にして、千歳市を目指す為にバスで移動を開始する事に。

 バスでの移動は約1時間ということ。

 バスに乗るという事は。


「じゃんけんぽん!」

「勝ったよぅ!」

「あちゃー。 希望姉に負けたかー」

「仕方ないねぇ」


 そう夕也くんの隣の席の争奪戦だ。

 じゃんけんに勝利し、私が夕也くんの隣の席へ。

 亜美ちゃんは座席を回転させ私の対面に、その隣の夕也くんの対面に麻美ちゃんが座る。

 こうして見ると、やっぱり夕也くんの隣の席にこだわる必要は無いような気がするよぅ。


「次はスノーランドだっけ?」

「そうですわよー。 その前にお昼にするけど」

「肉だな!」


 食べる事になると宏太くんは本当に元気になるね。


「で、そのスノーランドってのは何が出来るの?」


 奈々美ちゃんが訊く。

 行くからには何があるのか知っておきたいよね。


「色々ありますわよ。 楽しみにしてて下さい」


 しかし、奈央ちゃんは勿体ぶって教えてくれないのでした。

 行けばわかるし、ここは楽しみにしておくとしよう。


「楽しみだね、夕也くん」

「ん? そうだな」


 夕也くんとはデートでも屋内の人工スキー場へ行った事があったっけ。

 楽しかったなぁ。


「はぅ」


 思い出すと、今の立場を思い出して落ち込んでしまう私。 永遠の2番手とか呼ばれる日も近いよぅ。


「どうしたの希望ちゃん? いきなり1人で落ち込んじゃって?」


 そんな私の様子を見ていた亜美ちゃんが、首を傾げて心配そうな顔でそう訊いてきた。

 私は首を横に振り「ううん、何でもない」と取り繕う。

 そうだ。 私はまだ諦めたわけじゃないんだから、落ち込んでる暇はないよ。

 このお休み中に夕也くんとデートが出来るんだから、そのチャンスを活かしていかなきゃ。


「今度は1人で張り切り出したよ……」

「希望姉面白いー」


 亜美ちゃんと麻美ちゃんはそんな私を見て笑うのでした。


 バスが走り出して約30分が経過。

 亜美ちゃんは読書、麻美ちゃんはゲームといつもの光景になっています。

 私は私で音楽を聴きながら手芸に勤しんでいます。

 安い羊毛のフェルトでマスコット作り中だよぅ。


「希望も器用だな」

「手芸は得意なんだよ。 小さい頃にお母さんに色々教えてもらったからね。 人見知りで友達も居なかったから、幼稚園児の頃は1人で黙々と編み物とかしてたよぅ」

「何かちょっと悲しいエピソードが混ざってんな」

「あはは。 その頃は別に寂しくなかったよ。 今だと1人は耐えられないかもだけど」


 友達と一緒にいる喜びや楽しみを知ってしまった今は、きっと孤独に耐えられないんじゃないだろうか。

 そんな話を聴いていたのか、亜美ちゃんが本を読みながらも会話に入ってきた。


「絶対に希望ちゃんを1人になんかさせないよ。 他の皆が希望ちゃんから離れて行ったとしても、私はずっと一緒だからね」

「亜美ちゃん……」

「ひどいわね。 私が希望から離れるわけないじゃないの」

「そーよ」


 今度は奈々美ちゃんと紗希ちゃんが話に入ってくる。

 皆、やっぱり良い友達だよ。

 亜美ちゃんは「たとえだよ」と弁明している。


「良かったな希望。 どうやら1人になる心配は無さそうだぞ」

「うん」


 私は手元で作っているマスコットに目をやる。


「ところで希望ちゃんは何を作ってるの?」

「これは亜美ちゃんのマスコットだよ」

「え、私?」

「うん。 皆の分を作ろうと思ってるんだけど、一番はやっぱり亜美ちゃんかなって」


 私を幸せにしてくれたお姉ちゃん。

 とても感謝している。 私にとっては誰より大切な人なのです。

 それはもう、夕也くんよりも。


「嬉しいねぇ。 完成が楽しみだよ」

「期待して良いよぅ。 凄く可愛いの作るから」

「期待してるよ」

「あははは! 私のも出来たら見せてねー」

「うん」


 とはいえ、亜美ちゃんの次は紗希ちゃんに決めている。 仲良しだし、あと数日で京都へ行っちゃうからね。 それまでに完成させて渡さないと。


「ちなみ俺は?」

「夕也くんは5番目ぐらいかな?」

「意外とランキング低いな?!」

「あはは。 ごめんね」


 私は軽く笑いながら謝るのでした。


 

 ◆◇◆◇◆◇



 更にバスは走り、そろそろ1時間が経過しようとしています。


「もうすぐで到着しますわよ」

「お、やっと肉が食えるな」

「肉ー!」

「まったくあんた達は……」


 宏太くんと遥ちゃんはいつもの事だからもう慣れたよ。

 でもお昼からお肉って一体何なんだろう?


 千歳市に入り少し走った先でバスは停車。

 どうやら今日の昼食処に到着したようです。

 時間は12時15分。 測ったように良い時間。


 私達は順番にバスを降りていく。

 お店の看板を見ると、牛料理専門店と書かれている。


「牛料理一本のお店なんですのよ」

「へぇー! とりあえず入ろうぜ!」


 宏太くんは待ち切れないといった様子でウズウズしている。

 奈央ちゃんは「はいはい」と苦笑いしながらお店へと入っていくのだった。


 席に案内してもらいメニューを開くと、牛、牛、牛。

 牛料理がずらりと並んでいた。

 私と亜美ちゃんはお昼からがっつりは辛いという事で、あっさりしたローストビーフをチョイス。

 奈々美ちゃんと麻美ちゃんは2人で牛しゃぶを食べる事にしたみたい。

 恐ろしい事に、宏太くんと遥ちゃんは昼からステーキを食べるらしい。

 ちょっと信じられないです。

 夕也くん、奈央ちゃん、春人くん、紗希ちゃんは牛すきを食べるみたいです。

 それぞれ注文が決まったところで雑談タイム。


「もう少しで終わりね。 皆、今回は私の計画した卒業旅行楽しんでくれたかしら?」


 奈央ちゃんがそんなわかりきったことを訊いてくる。


「もちろんだよ」

「あんたには本当に感謝してるわ」

「ぅんぅん」

「ふふ、そう言ってもらえると計画した甲斐があったわ。 後スノーランドと温泉だけだけど、楽しみましょう」

「おー!」


 北海道で食べる最後の食事を、皆でワイワイと騒ぎながらゆっくりといただくのでした。

 最後のスノーランド、名前からして雪遊びができるんだろう。

 皆との卒業旅行最後の観光スポットだよぅ。

 目一杯楽しむよぅ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る