第645話 心配

 ☆亜美視点☆


 さて、3日目の観光を終えた私達は、本日宿泊予定の旅館へと戻ってまいりました。

 夕飯は19時という事らしいので、私は奈々ちゃんと2人で少し散歩でも行く事にした。

 約束してたしね。


「じゃ行ってきまーす」

「夕飯までには戻ってくるわ」

「辺り暗いから気を付けてね」

「いってらっしゃーい!」


 という事で旅館から出るのであった。


「寒い」

「それに暗いよ」


 まあ時間も時間だし仕方ないか。 寒いのはもう慣れつつあるよ。

 雪もちらついてるし、あまり長い時間散歩は出来そうにないね。


「明日で終わりね」

「そうだね。 まだ観光残ってるみたいだし最後まで楽しもうね」

「ふふ、そうね」


 なんて他愛無い話から始まる。

 奈々ちゃんがわざわざ誘ってきたんだし、こんな話をする為じゃないよね。

 一体何の話だろう?


「あんたさ、夕也との結婚は考えてないって言ってたわよね?」


 どうやら本題に入ったっぽいよ。 それにしても急な話だね。


「今はってだけだよ。 大学も始まるし、作家活動だって本格的にやるし、バレーボールだって続けるかもしれないし。 だから結婚だとか考えてる余裕ないんだよね」

「ふぅん、なるほどね……」

「奈々ちゃんだってそうじゃないの?」

「私、最近考えてたんだけど、宏太から結婚しようって言われたら迷わず頷くと思うわ。 学生結婚もアリかなとかね」


 と、奈々ちゃんは言った。 奈々ちゃんはもう結婚を考えてるんだ。 凄いなぁと思う。


「ま、あいつ次第だけど。 ちなみに夕也からプロポーズされたら断るわよ。 多分無いでしょうけどね」

「あはは、断っちゃうんだ? これから4年間、同じ大学通うんだし何がどうなるかわかんないよ? 夕ちゃんからプロポーズされるような何かが起きるかもしれなじゃん?」


 私達4人の関係は、そういう際どいバランスで成り立っている。

 いつ何時、どう天秤が傾くかわからない。 そんな関係なのである。

 最たる例が、奈々ちゃん妊娠疑惑の時である。

 あの時、奈々ちゃんが本当に妊娠していたら、今頃は夕ちゃんと奈々ちゃんが婚約していたに違いない。

 私達4人の間では、何が起きてもおかしくない。


「無いわよ。 あってもやっぱり断るわ。 それこそデキちゃってなければね」

「そっか。 デキちゃったらさすがに?」

「それはまあ仕方なくね……まあ、そうならないように気を付けていくわよ」

「大体、親友の彼氏と浮気しないでよねぇ」

「うっ……時々つい衝動が……」

「はぁ……」

「私はさ、こんなんでもあんたの幸せを願ってんのよ?」

「私の?」

「えぇ。 私はあんたに色々助けられて生きてきたし、あんたを助けて生きてきたって思ってる」

「うん。 私もだよ」

「私の半身みたいなもんなのよ。 あんたが幸せなら私も幸せだし、あんたが苦しんでたら私も苦しい」

「うん。 私もだよ」

「だから幸せになってほしいわけよ」

「奈々ちゃんの為に?」

「バカ。 あんた自身の為に決まってるでしょうが」


 コツッと優しく小突かれる。 かなり手加減したのか、全然痛くなかった。 やれば出来るんじゃん。


「心配してんのよ、これでも」

「心配?」

「結婚は考えてない。 他の恋敵に対してのガードは甘い。 おまけに彼氏とのデートも許しちゃうし」

「あ、あははは……これは性格と言いますか」

「わかってるわよ。 あんたの性格なんて1から100まで。 だから心配なの。 いつか、自分から幸せを手放すんじゃないかって」

「奈々ちゃん……」


 奈々ちゃんは本当に私の事を心配してくれているようだ。 私自身、これは性格だし仕方ないかなって思ってて、治そうにも中々治せなくて。

 多分、ズルズルとこのまま行くんだろうなって思っている。


「あんたの性格上、希望や麻美が夕也と結婚したいって言い出したら許したりしかねないんじゃないかしら」

「あぁ……どうかなぁ?」


 その時、夕ちゃんとの結婚を考えていなかったらどうだろう? もし私より夕ちゃんを好きなんだろうなって思ったら、許してしまうかもしれない。


「悩むな」

「いやぁ……ありそうなんだもん」

「はぁ……」


 奈々ちゃんは溜息をついて呆れていた。


「あんた夕也の事愛してるのよね?」

「それはもちろんだよ!」


 そこは間違いない。 夕ちゃんを誰よりも愛してる自信ありだよ。


「わかんないわー。 長年一緒にいるけど、亜美の考えがわかんないわー」

「あー」


 まあ、それも仕方ないかな?

 私は多分、他の人より考え方がかなりズレているのかもしれないし。

 奈々ちゃんですらわからない事もあるだろう。


「私はねぇ、私が選んだ道の先が幸せだと思ってるんだよ。 自分に正直でいれば幸せになれる。 いつかの占い師さんがそう言ってた」

「?」


 奈々ちゃんは首を傾げる。


「例えば、夕ちゃんとは結婚しないってなるじゃない? でもそれは、夕ちゃんと結婚しなかったから幸せになれないんじゃなくて、夕ちゃんと結婚しなかったその先に幸せがあるんだって思ってる」

「結婚しなかった先に幸せが……?」

「うん。 きっとその選択をする時の私には、何かそういう幸せな未来が見えてるんだよ。 もちろん、夕ちゃんと結婚する事が幸せなんだったら、迷わず結婚するよ」

「やっぱりわかんないわー」

「あはは。 心配しないでよ奈々ちゃん。 私は自分が幸せになれるように生きていくから。 もう2度と自分から不幸になるような選択はしないよ」

「亜美……わかったわ。 あんたがそう言うなら私は信じるわよ。 絶対幸せになりなさいよ?」

「らじゃだよ!」


 私は元気良く敬礼ポーズを取り、奈々ちゃんに応える。


「帰りましょうか」

「うん。 寒くて仕方ないよ」


 私達は踵を返して来た道を戻り始めた。


「ちなみにさ、今亜美が思い描いてる幸せってどんな感じなのよ?」

「そだねぇ。 今と変わらず、夕ちゃんと希望ちゃんの3人で仲良く同居して暮らしていく事かなぁ? 結婚とかしなくても、それだけで充分だよ」

「なるほどね」

「あとね。 お隣さんは奈々ちゃんと宏ちゃん夫妻が住んでるかな」

「良いわねそれ。 未来予想図に入れちゃいましょ」


 奈々ちゃんは笑顔でそう言った。



 ◆◇◆◇◆◇



「ただいまだよー。 あぅ、寒いよう」

「冷えたわね」

「おかえりー。 夕飯前に部屋の露天風呂で軽く温まったら?」


 と、奈央ちゃんの提案があったけど、どうせ夕飯食べたら大浴場の方へ行くからという事で今は我慢する事にした。



「夕ちゃんー、寒いから温めてー」


 と、少し甘えた感じで夕ちゃんの膝の上に座る。

 

「冷てぇ! せっかく温まった体が冷えるじゃないか」

「うわわ! ひどいよ! 彼女が温めてって言ってるのにー」

「きゃははは! 亜美ちゃん嫌われてやんのー」

「いや、別に嫌ってはいないが」

「もう良いもん。 希望ちゃんー」

「はぅっ! 冷たいよぅ」

「希望ちゃんぬくぬくだよー」


 と、夕飯が部屋にやっで来るまでの間、希望ちゃんに抱きついて体を温めるのであった。

 ちなみに希望ちゃんは、私の冷たくなった体に熱を持っていかれ「はぅ、寒い」と、震えていたよ。

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