第644話 忍者屋敷

 ☆希望視点☆


 私達は登別にある時代村という場所に遊びに来ています。

 貸衣装で江戸時代気分を味わいながら、今はからくり屋敷迷路へとやって来ている。

 迷路の中は薄暗く、忍者屋敷さながらの仕掛けが満載という事。

 槍が飛び出して来たり、矢が飛んできたりしないかと心配しながら、恐る恐る進む。

 私は亜美ちゃんの後ろをついて歩いているよ。


「足下気を付けてね。 なんか床傾いてて滑るわよ」


 奈央ちゃんが先頭を歩きながら注意喚起してくれている。

 たしかに足下滑るね。


「これも忍者屋敷の仕掛けかなー?」

「多分そうだろうねぇ」

「は、はぅっ、滑るぅ!」


 私は足を滑らせて転けそうになる。

 そこを夕也くんが咄嗟に掴んで支えてくれた。


「は、はぅ、ありがとう夕也くん」

「危ないから気を付けろよー」

「希望は鈍臭いわね」

「あ、あはは……」

「うわわぁー……」


 夕也くんや奈々ちゃんと話していると、今度は亜美ちゃんの悲鳴が聞こえて来た。

 亜美ちゃんも滑ったのかと思って前を向く。


「あれ? 亜美ちゃんは?」

「亜美姉が消えたー!?」


 悲鳴を上げたはずの亜美ちゃんが、私達の前から忽然と姿を消していた。


「きゃははは! 亜美ちゃんも忍者だったかー?」

「わ、笑い事じゃないよぅ! 亜美ちゃーん!」


 大きな声で呼びかけてみると、何やら壁の向こうから声が聞こえてくる。


「なるほどー、壁が隠し扉になってるんだねぇ」


 という声と共に壁がぐるりと回転して、向こうから亜美ちゃんが現れた。

 どうやら亜美ちゃんは壁に手を付いた瞬間、壁が回転して壁の向こうに行ってしまったらしい。


「急だったからびっくりしたよ。 気を付けなきゃね」

「ケガしないようにしねーとなぁ」


 遥ちゃんの言う通りだね。

 とはいえ観光スポットのアトラクションだし、安全面については大丈夫なはず。

 あ、でもさっき滑って転けそうになったっけ。


「それにしても暗くて狭いね」

「うん」


 暗くて狭い通路を、ゆっくりと確実に進んでいく。

 ダミー扉の仕掛けがあったり床が変に傾いていたりと、迷路としても中々クオリティが高い。

 時間をかけて、ちょっと迷いながらも迷路を脱出する事ができた。


「中々面白かったな」

「そうですね。 ただの迷路とは違って仕掛けもあって中々楽しめました」


 男子達の評価は上々だ。 私も何だかんだ楽しかったよ。


「んーと、次はそこの劇場に入りましょ。 何か劇が見られるみたいよ」

「お、良いじゃん。 休憩がてらに劇でも観ましょ」


 皆も賛成という事で、すぐ近くにある劇場へ入る事になった。

 時代劇が見られるのかなぁ?


 中に入り適当な席に座って待機する。

 劇が始まると、何だか可愛らしい着ぐるみが舞台に現れた。


「か、可愛いよぅ」

「あれ何?!」


 私と紗希ちゃんは、その着ぐるみさんに反応していきなり興奮する。

 白い体にちょんまげを結った猫さんの着ぐるみだ。

 あまりにも可愛い過ぎるよ。

 ボケねこさんに通ずる物があるよ。


「あのボケねこよりマシね」

「まあ、可愛いんじゃないかしら」

「なはは」


 他の女子からも中々の高評価を得ているようだよ。

 さて、この劇の内容はというと、ある所にとある夫婦がいるのだけど、お互い喧嘩ばかり。

 別れようとするけど本当はお互い想いあっていて、その夫婦の縁結びを猫侍さんが頑張るという内容だった。

 私は内容より、猫侍さんに夢中だったけど。

 約30分の劇を堪能した私達は、劇場を出て外へ。


「可愛いかったね、紗希ちゃん!」

「うむ! ここのお土産屋さんにグッズ売ってるかしら?」

「あるんじゃないかしら? 後で見に行くわよ」


 グッズがあったら買い漁ろう。

 

 その後も忍者さんの劇や、妖怪屋敷なるものに入り時代村を楽しむ。

 妖怪屋敷を出た後は、皆小腹を空かせたのでお団子を食べようという事になり、お団子屋さんへ移動してきた。


「んむんむ。 みたらし美味しいねぇ」

「うん。 んむんむ」


 江戸時代風の街並みで、江戸風衣装に身を包みお団子屋さんでお団子を食べる。 まるでタイムスリップした気分だよ。


「んぐんぐ。 この後どうするのよ?」


 紗希ちゃんがお団子を食べながら奈央ちゃんに次は何処へ入るか訊いている。


「そうねー」


 マップを見ながら考える奈央ちゃん。


「この後は資料館や庭園なんかの見学でもしましょうか」

「お、良いねぇ! 庭園は見たいよ」


 亜美ちゃんは庭園に反応した。 亜美ちゃんそういうのを見るのが好きだからね。

 他の資料館は、刀や忍者についての資料館があるらしいよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 という事にで、サクサクッと資料館を見て回った後は、亜美ちゃんお待ちかねの庭園へと向かう。

 時代村には美しい枯山水の日本庭園があるみたいだよぅ。


「ここね。 おー、これはまた美しいわね」

「うわわ、写真写真」


 時代村が誇る日本庭園へとやって来た私達は、あまりの美しさに見惚れる。

 雪化粧をした枯山水の庭園は、実に幻想的で綺麗だ。


「修学旅行の京都で見た庭園も凄かったけど、日本庭園って綺麗よね」

「昔の人は凄いねぇ。 今みたいに重機も無かった時代に、こんな凄い庭をいくつも作ったんだもんね」

「たしかになぁ」

「人間その気になれば何でも出来るものなのね」


 庭園をゆっくりと一周して満足した私達。

 最後にお土産屋さんを見て時代村を後にする事にした。

 まだまだ見れていない場所もあるにはあるけど、時間も無いので仕方ないよね。


 数あるお土産屋さんを梯子して行くよぅ。


「紗希ちゃん! あったよ、さっきの猫侍さんグッズ!」

「おー! 本当だ!」


 私と紗希ちゃんはとにかくグッズを買い漁る。

 もしかしたら2度と来れないかもしれないからね。

 買わずに後悔なんかしたくないもん。


「希望ちゃん、程々にしなよー」


 と、亜美ちゃんに言われてしまうも、私は我関せず。

 グッズを買えるだけ買ってしまうのでした。

 亜美ちゃんは呆れたように「まったく……」と言いながら笑うのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 時代村から出る頃には、すでに17時前となっていた。

 かなり遊んだようだよ。

 バスに乗る頃には皆も少しぐったりしていた。


「さすがの皆もお疲れね」

「なははー……今日はもうこれで終わりー?」

「ええ。 後は旅館に戻るだけですわよー」

「ちょっと寝るー」

「私もー」


 元気が取り柄の麻美ちゃんや紗希ちゃんもお疲れみたいだ。

 私ももうダメだよぅ。 おやすみなさいー。



 ◆◇◆◇◆◇



「……ちゃん。 希望ちゃん。 着いたよ」

「はぅ……」


 バスに乗るや眠ってしまった私を、亜美ちゃんが起こしてくれた。

 もう旅館に着いたみたいだけど、時計を見ればもう18時を回っていた。


「んんー! はぅ! よく寝たよぅ」

「いびきかいてたわよ」

「嘘っ?!」

「嘘よ」


 奈々美ちゃんはケラケラと笑いながら私をからかうのだった。

 これで観光3日目も終わり。 明日には千葉へ帰る事になる。

 空港までの間にまだ観光するとの事だし、最後まで楽しもう。

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