第643話 時代村
☆亜美視点☆
さてさて、クマ牧場を堪能した私達は、ロープウェイで下へ降りてバスに乗りこむ。
運転手さんは何をしていたのか訊いてみたところ、私達の少し後から中に入って、同じくクマ牧場を観光していたらしい。
意外と楽しんでいるのかもしれないね。
「希望ちゃん、クマさんどうだった?」
「うーん。 最初は怖かったけど、見てると愛嬌あって可愛く見えてきたかな?」
「まあ、おっかない生き物には変わりないわな」
「って言っても、世の中にはクマと共存している人もいるらしいですわよ」
「へー、そうなのね」
世界は広いという事のようだ。
現に目の前の奈央ちゃんは、家でトラを世話しているぐらいだからね。
「次は時代村だったかしら?」
「えぇ、少し時間がかかりますわよ」
江戸時代の日本をテーマにした観光スポットという事らしい。
少し時間がかかるという事なので、ゆっくりとしようかな。
私は鞄から本を取り出して、読み耽る体勢に入る。
ちなみに隣に座るのは奈々ちゃんである。
夕ちゃんの隣争奪じゃんけんに負けたからねぇ。
「亜美って本当に本読むの好きよね」
「うん」
本は良い物だ。 色々な知識を得ることも出来るし、作品の参考にもなる。
ただ読むだけでも楽しいよ。
「私もたまには読むけど、そこまで熱中はしないわね。 あ、亜美の本はちゃんと読んでるわよ」
「私のはー?」
話を聞いていたらしい麻美ちゃんが入ってくる。
奈々ちゃんは笑いながら「もちろん読んでるわよ」と応え、それを聞いた麻美ちゃんも満足そうにしていた。
「ねぇ、亜美」
「ん? どしたの奈々ちゃん?」
「今日旅館に戻ったら、ちょっと散歩にでも行かない?」
「んん? 良いけど」
どうしたんだろ? 今朝は夕ちゃんとも散歩してたみたいだけど。 何か話でもあるのかな?
「サンキュ」
「うん」
まあ、その時になればわかるか。
さて、本読も。
◆◇◆◇◆◇
バスにどれだけ乗っていたかは知らないけど、バスは目的地である時代村に到着したようである。
私は読んでいた本を閉じて、バスを降りる準備をする。
「では皆さん、バスを降りて時代村に入りますわよ!」
「はーい」
「さてさて、どんな所なのかねぇ」
「お侍さんとかいたりするのかな?」
と、希望ちゃん。
江戸時代だし、その可能性も十分あるね。
貸衣装とかもあるかもしれないし楽しみである。
奈央ちゃんが入村券を買い私達に手渡す。
いざいざ入村だよ。
まず最初に村内のマップを確認。
「うわわ、結構広いよ」
「だな」
これは中々楽しめそうなテーマパークだね。
中を見ると、舞妓さんの姿をした人や、町娘のような衣装を着た人、お侍さん等が歩いている。
おそらく貸衣装だろう。
「まずは衣装を借りましょう。 せっかくだから江戸時代気分を味わいながら楽しまないと損よ」
「賛成だよ!」
奈央ちゃんの言う通り、せっかくだから形から入らないとね。
という事で、貸衣装を借りて着付けてもらったよ。
私は無難に町娘を選択。
紗希ちゃんと奈々ちゃんは舞妓さんだ。
他の女子は私と同じく町娘を選んだようだ。
男子は侍しか無かったみたいで、皆お侍さんだ。
「夕ちゃんも宏ちゃんも、それに春くんも似合わないねぇ」
「うるせー」
正直に言ったら宏ちゃんに怒られてしまったよ。
それと違い、紗希ちゃんの舞妓姿の似合う事似合う事。
普段からどちらかと言うと和風美人なところもあるし、こういった和風衣装が凄くマッチする。
「紗希はなんていうか良いわよね」
「そーかしら? 奈々美も似合ってると思うわよ?」
「うんうん、似合う似合う」
「適当に言ってない?」
「いやいや、滅相もない」
奈々ちゃんはたしかに和風美人って感じじゃないけど、何を着ても何故か似合っちゃう羨ましい女の子だ。
もちろん舞妓さんも似合っている。
「まあ、信じましょ」
他の皆も町娘衣装がよく似合う。 奈央ちゃんは舞妓さんだと思ったんだけどねぇ。
「さ、行くわよ! いざ、江戸時代の町へ! 私についてまいれー!
「御意ー!」
奈央ちゃんの謎テンションに釣られて、皆も謎テンションで返事をするのであった。
◆◇◆◇◆◇
まず最初に体験コーナーへやって来たよ。
「ここでは何が出来るのでござるか?」
「え、まだそのテンションなの?」
宏ちゃんがせっかくノッてくれているのに、奈央ちゃんは既に普段通りに戻っていた。
宏ちゃん可哀想。
「で、ここでは何が出来るんだ?」
わざわざ言い直すあたり宏ちゃんも律儀だね。
「パンフレットには、弓矢とか手裏剣の体験が出来るんだそうよ」
「手裏剣? 忍者さん?」
「みたいね」
希望ちゃんは「手裏剣危なくないかな?」と、心配している。 心配性だね。
私達は体験コーナーへと足を踏み入れる。
なるほど、小型の弓矢や手裏剣を的に向かい投げるんだね。
忍者やお侍さんに扮したスタッフさんがレクチャーしてくれるようだ。
「あははは! 忍者麻美見参ー! あははは!」
「町娘でしょうが……」
町娘衣装で忍者になりきる麻美ちゃんと、呆れたようにツッコミを入れる奈々ちゃん。
2人は手裏剣のレクチャーを受けている。
私は弓矢にしよっと。
「夕ちゃんは?」
「俺は弓かな」
「一緒だねぇ」
「私も弓矢にするよぅ」
希望ちゃんも弓矢の方へやって来た。
町娘風希望ちゃんも可愛いね。
他には奈央ちゃんと春くんも弓矢のようだ。
「勝負よ亜美ちゃん」
「え? ここで?」
「当然!」
まったく奈央ちゃんてば。 まあ、挑まれたら全力で勝負するけども。
レクチャーを受けて的の前に立つ。
矢は1人5本。
「この辺かな?」
シュッ!
とりあえず感覚を掴むために1本射ってみる。
的には刺さったけど、真ん中というわけではない。
奈央ちゃんも同じような感じみたいだ。
「ここからが勝負ね」
「うん」
お互い感覚を掴んだ2本目からが勝負。
私は3連続で的の中心を射抜く。
奈央ちゃんも同じく、3本連続中心だ。
「最後は同時に」
「らじゃだよ」
2人並んで鉉を引き……
「せーの」
シュッ!
同時に矢を放つ。
2人の放った矢は、的のど真ん中を射抜いた。
この勝負はどうやら引き分けのようだ。
「さすが亜美ちゃんね」
「奈央ちゃんもやるね」
と、お互いの健闘を称え合う。
「はぅ! やった! 全部真ん中に当たったよ!」
「希望やるなぁ!」
「な、なぬー……」
「の、希望ちゃんに負けた」
意外な伏兵に敗れる私と奈央ちゃんでした。
手裏剣組の皆を待ち、合流してから次の場所へ移動する事に。
「次はこの迷路に行きましょう。 からくり忍者屋敷を模した迷路ですって」
「おー、面白そうだね」
「槍とか矢とか飛んで来ないよね?」
「飛んで来るわけないでしょ……本当に希望は」
「ははは、希望らしくて可愛いじゃないか」
「きゃはは」
希望ちゃんは事ある毎に心配するね。 想像力豊かというか思考が子供っぽいというか……まあ、そういうところが可愛いんだけどね。
「ここね。 入るわよー!」
というわけで、迷路屋敷に足を踏み入れるのだった。
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