第632話 小樽を楽しむ

 ☆希望視点☆


 美味しいお寿司を頂いた後、私達はバスに乗って小樽運河クルーズへと向かっています。

 時間的には後15分ぐらいで着くと思われるよ。


「亜美ちゃんはクルーズ楽しみにしてるね?」

「うん。 景色とかゆっくり見るのが好きだからね」


 そういえば小学生の頃からそんな感じだっけ?

 旅行へ行くと、とにかく景色が綺麗な所とか見てテンション上げてたっけ?

 昔から子供っぽくないというか何というか。


「小学生3年生ぐらいの時に旅行行った時も、景色の写真ばっかり撮ってたわよね?」


 と、奈々美ちゃんが話してくれた。

 そんな小さな頃に……変わった子供だったんだね。


「別に良いじゃん……」


 亜美ちゃんは可愛らしく頬を膨らませながらそう言うのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 という事で、運河クルーズの乗船場所へと到着。

 既に予約してしてあるみたいで、時間まで近くで待機する事に。


「しかし、晴れてるけど周りは雪景色ねー」

「なははー、すごく積もってるー」

「うんうん」


 バスで長靴に履き替えないと靴がびしょびしょになるよ。 こんな状態でもクルーズ船はちゃんと出るらしい。 ありがたいよぅ。


「13時発の船に乗船される方ー!」


 どうやらもうすぐ出るようだ。 私達10人は発着場の前に集合する。

 チケットを確認してもらい、順番に船に乗り込むよ。


「希望ちゃん、船とかは平気なんですのね」

「うん」


 ちょっとぐらいの揺れならなんて事は無い。 でも飛行機とかはダメなんだよね。


「では出ます」


 と、合図と共に運河クルーズがスタートした。

 

「これから小樽運河を40分かけてゆっくりと堪能してもらいます」

「おー、40分!」


 結構楽しめるみたいだよ。 運河から見る景色は、左右共に雪化粧をしていてとても綺麗だ。

 運河の左右にはどうも古い感じの建物が並んでいる。


「本クルーズは運河と繋がる小樽港を経由して北運河の方を周ります。 すぐに潮の香りがしてきますよ」


 どうやらこの運河のすぐ先には海が広がっているようだよ。

 なるほど、たしかに少し潮の香りが漂っている。

 橋の下をくぐると、そこから先は広く開けていた。

 どうやらこの先が小樽港らしい。

 色々な船が停泊しているのが見えている。

 

 一緒に乗ってくれているガイドさんが、小樽港や運河の歴史について話してくれる。

 明治頃に繁栄し、多くの船が行き来して賑わっていた小樽港。 次第に荷物の運搬が増えてきた為、スムーズに運搬する為に小樽運河が整備されたみたいだよぅ。

 周りに見える古い建物は、そういった荷物の倉庫だったそうだ。

 なるほど、小樽運河はそうやって出来たんだ、


「ほうほう! 明治かー」


 亜美ちゃんはガイドさんの話を聞いて頷いている。 知識欲が満たされて満足度メーターが上がったようだよ。

 小樽運河も時代が進むにつれてその役目を失くし、埋め立てられるという話になったそうです。

 でも、それに市民が大反対し、その結果南運河エリアはほとんどが埋め立てられたが、これから向かう北運河は当時のまま残されたという経緯があるらしい。 そのおかげで今もこうやってクルーズを楽しめるんだね。

 北運河の方へと入ったらしい船。 大きな建物が建っているよぅ。


「こちらは食料館などを製造している工場です。 結構古い工場ですが、今でも稼働中ですよ」

「はぁー。 凄いねぇ」

「結構周りにはこういった古い建物が多いのね」


 その他にも、130年近く前に作られた石造りの倉庫など、歴史を感じさせる建物が一杯建っていたよ。 

 北運河を抜けて南運河を進む船は、最後のスポットである浅草橋という端へとやって来た。

 絶好の撮影スポットという事で、皆して写真をパシャリ。

 40分があっという間に感じられた、楽しいクルーズだったよぅ。



 ◆◇◆◇◆◇



「ふむん! 私は大変満足しているよ!」

「きゃはは、亜美ちゃんのテンションおかしくなってるわ」

「まぁ、亜美ちゃんはこうなるだろうと思ってましたわ」


 亜美ちゃんこういうの本当に好きだもんね。 これが落ち着くまでにはもう少し時間が掛かるだろうね。 とにかく次の場所へ移動する為にバスに乗り込むよぅ。

 夕也くんの隣の席争奪戦のじゃんけんを今回制したのは麻美ちゃん。

 ぐぬぬーだよぅ。


「なははー、勝利ー」

「というか隣に拘り過ぎよ皆?」


 と言うのは紗希ちゃん。 じゃんけんには参加せず、夕也くんが座る席の前の席をすぐに取っていた。

 どうせ席を回転させるんだから、隣じゃなくて回転させれば夕也くんの正面になる席を真っ先に取ってしまえというのが紗希ちゃんの戦略だったらしい。

 強かだよぅ。


 そうして、夕也くんの正面が紗希ちゃん、対角に座るのが亜美ちゃん、通路を挟んで隣に座るのが麻美ちゃんとなった。

 いつも通りの夕也くん包囲網が形成されている。 夕也くんもこのハーレム状態には大喜び。


「ぬーん、疲れる」


 ということもなく、少々お疲れのご様子。 夕也くん的には私達の醜い争いを見るのは少々うんざりという感じなのかもしれない。 かと言って何もしないというのはあり得ない。

 亜美ちゃんから夕也くんを奪おうと思ったら、常に隙を窺って攻めに転じる機会を見逃さないようにしなくてはいけない。

 特に、この旅行の後に予定されている夕也くんとのデートなんかは絶好のチャンスです。 亜美ちゃんのいない所で夕也くんに猛アタックを仕掛けるよぅ。


「さて、次は硝子製品の製造販売をしているお店に行きますわよ」

「はーい」

「ここから少し遠くなりますが、40分程で到着します。 それまでごゆっくりー」


 ここから40分だそうです。 亜美ちゃんはそれを聞いて鞄から本を取り出して読書を始めてしまう。

 これなら別に夕也くんの隣に座ろうとしなくても良いのでは?


「硝子ってどんなのだろうー?」

「館内はたくさんの石油ランプによる優しい明かりで照らされていて、そんな中で綺麗なグラス等の硝子製品を観たり、軽食を頂いたり出来るようになってるみたいね。 もちろん販売もしてるから気に入った物があれば買えますわよ」

「硝子かー」

「あと、グラスにオリジナルの模様を彫れる体験なんてのもやってますわよ。 今回はその体験もさせてもらいます」

「おおー!」

「オリジナルグラスが作れるって事だね?」


 亜美ちゃんも顔を上げて反応している。 

 私もこれは楽しみだよぅ。 ボケねこさんの模様のグラス作っちゃおう。


「私は不器用だからなー……」

「俺も」


 夕也くんと遥ちゃんは私達の中でも不器用な方だ。 ちゃんと出来るか心配そうにしている。

 初心者ばかりのはずだし、そんなに難しい事はないだろうと奈央ちゃんが言う。

 だと良いんだけど。


「まぁまぁ、不器用だとかそういうの気にせず、小樽を楽しもう」


 と、紗希ちゃんが良い事を言ってくれているよ。 さすが私達のムードメーカー。

 そうだよ、とにかく楽しむことそれが大事だよぅ。

 

「よーし、最高のグラス作るぞー」

「その意気よ遥ー!」

「うんうん、私も頑張って作ろっと」


 私も気合いを入れるのでした。

、 

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