第630話 ショータイム
☆夕也視点☆
今日は北海道旅行2日目。
小樽へと移動して来ている。
まず最初にやって来たのは水族館だ。 昨日見た千歳水族館とは違い、普通の水族館といった感じのようだ。
希望、麻美ちゃん、紗希ちゃんの3人はかなりはしゃいでいる。
「貴女達ー。 水槽鑑賞も良いけど、今日はショーを見るのがメインよー!」
「ショー!」
奈央ちゃんの言葉に3人が反応してこちらへ戻って来た。 何でこう、興奮したら突っ走る奴ばかりなんだ。
「ショーはイルカから始まって、休憩時間を挟みながらたっぷり2時間あるわよ」
「映画か何かかしら?」
「なははー! すげー!」
かなりのボリュームがあるショーのようだなぁ。
希望達のテンションは大丈夫だろうか? もうほぼ振り切っていると言っても過言じゃないが。
◆◇◆◇◆◇
てなわけで、ショーが行われるというステージへやって来た俺達だが、イルカが出て来るまでの間はさすがに静かになる3人。
「まだかな?」
「もう少しよ」
開始時間は10時からとの事。 あと5分といったところだな。
「今回はさすがの宏ちゃんもレインコート借りたんだね」
「いつかはびしょ濡れのイケメンになっちまったからな」
「その自信は何なのよ……」
あの時のはびしょ濡れのただのバカだっただろうに。
等と話していると、ステージに水族館のスタッフの人が現れる。
そろそろ開演か?
「あ、イルカさん出てきたよぅ!」
「ふわぁ!」
「可愛いー!」
例の3人のテンションが爆上がりする。
イルカのショーやアシカのショーなんて、何処で見ても似たような芸しかしないだろうに何でそんな興奮出来るんだ。
「こっちに来たよぅ!」
「ヒレで手を振ってるみたい!」
「おー!」
イルカなりのお客さんに対しての挨拶なのだろう。
まあ、たしかに可愛いものではあるな。
「可愛いねぇ」
「そうね。 こういうのは何度見ても癒されるわ」
そういうもんかぁ。
おっと、そろそろショーも始まる頃か。
イルカ達がトレーナーの前に集まり始めた。
「皆さんー! これから可愛いイルカちゃん達のショーが始まりますよー! さあ! イルカちゃん達ー! 皆に挨拶ー!」
イルカ達が立ち泳ぎしながらヒレを振って挨拶をしている。
頭も良いし器用な奴らだなぁ。
宏太より頭良いんじゃないか?
「可愛いー!」
「こっちに手を振ってるよぅ!」
「頑張れー!」
一通りのイルカが挨拶を終えた後は、一つ一つ芸を披露してくれる。
恒例のジャンプやフープ潜りを見せたり、鼻先でボールをリフティングしてみせたりと、中々訓練が行き届いている。
「ではこれからイルカさんには、フリースローをしてもらいます」
「ほう」
「イルカにそんな事が出来るのかよ」
元バスケ部の俺達の前で、イルカがフリースローを見せるという。 これは中々楽しみだな。
イルカの前にバスケのゴールが現れる。 なるほど、ちゃんとしたゴールだ。
さすがにバスケットボールとはいかないようで、ゴムボールを鼻先でリフティングしながらタイミングを窺っている。
トンッ!
イルカが少し強めに突いたゴムボールは、吸い込まれるようゴールへ。
スパッ!
「おお!」
「凄い!」
パチパチパチパチ!
やるなイルカ。 俺達で言えば頭でリフティングしながらヘディングで決めるのと同等の芸だ。
「こりゃ参ったな夕也」
「あぁ、あれは俺達でも無理だ」
ここは敗北を認めるとしよう。
その後、更に他のイルカ達も挑戦。 中には外してしまう奴もいたが、皆とても上手くてついつい俺もはしゃいでしまうのだった。
一通り芸の披露が終わると、おなじみのあのコーナーがやって来る。
「それではお客様達の中で、この子達と遊んでみたい人ー!」
「はいっ! はーい!」
「はい!」
「遊びたい!」
俺達の集団の中で元気にアピールする女子が3人。
希望、紗希ちゃん、麻美ちゃんの3人だ。
希望の奴、アガリ症のくせにこういう場面では発動しないんだよな。 以前のイルカショーの時もだが、他の事に夢中だと大丈夫なんだろうか?
トレーナーさんに呼ばれて、3人はステージの裏へと向かう。
「んー、可愛いねぇ3人共」
「そうだなぁ」
まあ、あんな美少女集団もそうはいないだろう。
「希望はアガリ症大丈夫なのかしら?」
「ああいう時は一つの事にしか目が行かないから、周りの事は気にならないんだと思うよ」
亜美も俺と同じ見解らしい。
「あれぐらいの前向きさを普段から発揮してほしいものだよ」
「たしかに」
ステージで希望はイルカと握手を交わしながら目をキラキラと輝かせていた。
可愛い奴だなぁ。
◆◇◆◇◆◇
休憩を挟みはしていたが、2時間ぶっ通しでショーを見ているのはさすがに疲れたな。
ただ、アシカやトド、ペンギンといった色々な動物のショーを見れて満足はしている。
特に希望達は、ショーが終わった後もあの子が可愛かった、あの芸は凄かったと盛り上がっている。
「まるで子供ね」
「可愛いじゃない」
奈々美と亜美がそんな会話を交わしている。
「さて、予定通り先にお昼を食べに行きましょうか」
「お、昼飯か! 今日は何だろうな?」
「早く食わせろー」
食事となると急にはしゃぎ出すのが宏太と遥ちゃん。
「まるで子供ね」
「あんまり可愛くないよね」
2人を見て奈々美と亜美がそんな会話を交わしている。 希望達との扱いの差たるや。
「着いてからのお楽しみってね」
今日もやけに勿体ぶる奈央ちゃん。 さぞかし良い物が食べられるのだろう。 俺も腹は減ってきているし楽しみだ。
バスに乗り込んだ俺達は、しばしゆっくりする事にした。
「今回隣をゲットしたのは希望か」
「うん。 ようやく夕也くんの隣の席取れたよ」
「んー、負けた」
「希望姉も強いー」
何だかんだバランス良く回っているみたいだな。
俺の隣に座ったからって何かあるわけでも無かろうに、毎回争奪戦なんてやってご苦労な事だ。
「ね、亜美ちゃん?」
「ん?」
座席を回転させて対面に座る亜美に話しかける希望。
亜美は読んでいた本から視線を外す。
「あのね、相談があるんだけど……」
「相談?」
希望の話に亜美が首を傾げる。 俺と俺の対面に座る麻美ちゃんは、黙って話の成り行きを見守る。
「その、この旅行が終わったらで良いんだけど、夕也くん貸してほしいなぁ……なんて」
俺を借りる? 何だ?
「んー……借りるって、デートか何かしたいって事?」
「う、うん……あ、あはは、ダメだよね?」
「んー」
と、亜美は少しの間考えるように目を閉じる。
数秒程で目を開けると……。
「結構我慢したねぇ。 良いよ、貸してあげよう」
「良いの?!」
「うわー、希望姉良いなー!」
「麻美ちゃんも良いよ。 事前に私に話してくれれば」
「やったー!」
何かまた勝手に話が進んでるぞ。
まあ、亜美が良いってんなら仕方ないか。
楽しみにしている希望や麻美ちゃんを悲しませることもあるまい。
「まったく亜美は甘いわね」
後ろの席からはそういった声も聞こえるが……。
「ま、好きにしなさいな」
どうやら止めるつもりはないらしい。
まあ今はそれは忘れて、とにかく旅行を楽しむとしよう。 まずは昼飯だ。
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