第624話 少年よ

 ☆奈々美視点☆


 動物園を見て回った私達は、次の目的地へと向かう事になった。

 次の目的地は奈央曰く羊ヶ丘展望台だったわね。

 あの有名なクラーク博士像がある観光スポットみたいよ。


「でよ、そのクラクラ博士って頭悪そうな博士は何した人なんだよ?」

「クラーク博士だよ」

「亜美ちゃん、蘊蓄よろしくー」


 こういう知識の披露は亜美にお任せ。 動物蘊蓄はバカの宏太がやってくれる。

 便利な幼馴染を持って楽ちんだわ。


「こほん、クラーク博士はねアメリカの教育者で札幌農学校、今の北海道大学の開校者であり初代教頭だった人だよ。 クラーク博士の残した言葉、Boys, be ambitious(少年よ、大志を抱け)っていう言葉は有名だよ」

「知らん!」

「きゃははー! 佐々木君はやっぱバカねー遥?」

「私も知らんかった」


 私達のグループのバカ2人はこんな感じなわけよ。

 亜美の説明を聞いてもよくわからんし何が凄いんだ? って感じの反応を見せている。

 まあ、この2人は別にこれで良いか。


「何もクラーク博士像だけじゃないわよ? お土産屋や雪まつり資料館なんてのもあるのよ」

「なるほど。見るところは色々あるって事ですね」

「まあ、良く知らないおっさんの像見て帰るだけじゃ観光スポットにもならんからな」


 宏太は本当にクラーク博士に失礼な奴ねぇ。


 その後もバスは走り続けていく。 すると、大きなドームが見えてきた。


「ここは札幌ドームか!」


 と、興奮気味に声を上げるのはスポーツ観戦が好きな遥であった。 この子はこういうのに反応するのね。 雑学博士に動物博士、スポーツ博士も増えたわね。


「うおおお! 野球とかサッカーの試合観たいなぁ!」

「ふふふふのふふふー」

「うわわ、奈央ちゃんが変な笑いを」


 こういう時の奈央は大体において、私達の反応が予想通りでそれを先回りして立てた計画が上手くはまっている時なのよね。


「実は今日サッカーの試合が19:00からありますわよねぇ?」

「まさか?」

「観戦に来ますわよー!」

「うおおおおお!」


 遥1人だけ興奮していた。 とはいえ、私達も別に興味がないわけじゃあない。 特別サッカーが好きってわけじゃないだけで、スタジアムで観戦するのってのは興味があるわ。

 他の皆も、それなりに楽しみにしているようよ。


「ま、それは夜のお話。 今は羊が丘展望台よ。 ここからすぐだからもう少しゆっくりしててね」


 奈央の言う通り、バスはものの10分もしない内に停車し、私達を降ろした。


「ここよー。 クラーク博士像はあっちねー」


 ここも奈央に先導してもらいながら観光をするわよ。

 大人が子供に先導されてるかのような絵面になってるだろうけど、まあ気にしなくて良いわよね。


「おー、これがクラーク博士!」

「頭良さそうじゃないか」

「実際良さそうじゃなくて良かったんでしょ」

「そうね。 農学校を開いて教えてたぐらいだし」

「ね、皆で前に並んでクラーク博士像のポーズして写真撮ってもらおうよ」


 クラーク博士像の前で記念撮影する人の9割がやってそうね。

 という事で、近くの観光客さんに写真撮影をお願いして皆でクラーク博士像を囲むように立って、遠くを指さすポーズをとる。


「ありがとうございましたー!」


 写真撮影をしてくれた見知らぬ観光客さんにお礼をして、クラーク博士像を再度眺める。


「さて、じゃあオーストリア館へ行きましょうか」

「オーストリア館?」


 紗希が気になって奈央に訊いた。 たしかに北海道に来てオーストリアというのも違和感バリバリよね。


「フードコートやお土産屋が入った建物よ」

「ほーん、なるほどねー」

「じゃ、行きましょう」


 またもや奈央に続いて歩いていく。 すると、やたらと傾斜の付いた屋根が目立つ建物が目の前に現れた。


「ここよー」

「羊ヶ丘オーストリア館。 ほうー」

「ね、北海道の建物みてて思ったんだけどさ、どこもこう屋根の傾斜が凄くない?」

「北海道は雪国だからねぇ。 積雪で屋根が押しつぶされないように、雪が滑り落ちやすいように傾斜をきつくしてあるんだよ」

「さすが亜美ちゃんだぜ!」

「えっへんだよ」


 ちょっと偉そうに胸を張る亜美。 厚着してても胸を張ると胸が強調されるわね。

 私より身長低いから余計に目立つのよねこの子。


「さ、入りますわよー。 1階ではソフトクリームも食べられるわよ」

「この寒いのにソフトクリームなんか食うのかよ」

「当たり前じゃないのー! スイーツに季節も熱いも寒いも無いのよ」


 宏太は女子から非難を浴びていた。 いつも余計な事を言うのよねこいつ。 亜美もよく「空気読めない」と言ってるわ。 その点夕也はある程度空気を読むのか、余計な事は口走ることが少ない。

 とにかく、オーストリア館に入館。 中は1階にソフトクリームやフードコートなんかがあり、2階にお土産屋があるみたいよ。

 まずはお土産を見に行くことになったわ。


「ほわー! 希望ちゃんこれ見てこれ!」

「はぅっ?! か、可愛い!!」


 紗希と希望が2人して手に持っているのはなんだかモフモフしたぬいぐるみ。

 どうも羊みたいね。


「これ買おう!」

「買おぅ!」


 そして2人はその羊のぬいぐるみを手に持って、もの凄い勢いで会計に向かっていった。


「あ、あはは。 本当に可愛いものに目が無いねあの2人は」

「私達も何かないか見ましょう」

「そうね」


 私達女子はお土産を選ぶためにバラバラに分かれる。 Tシャツやコーヒーなんかも売っているけど、これと言って欲しいものが無いわねぇ。

 遥はTシャツを、夕也はコーヒー、亜美は手提げバッグを買っていた。

 私はいいかしらねぇ。


 お土産を見終えた私達は、1階に降りてきてソフトクリームを頂くことに。

 私はメロンにしたわ。


「んむ。 冷たくて美味しいわね」

「寒いときに食べるアイスも乙な物よねー」

「そうだねぇ」


 私達女子が美味しそうにソフトクリームを食べているのを、ぶるぶると震えながら男子が見ているのであった。


 

 ◆◇◆◇◆◇



「さて、ここはこれぐらいにして次へ行きますわよ。 バスバスー」


 羊ヶ丘展望台の観光はここまでで、次へ移動するという事らしい。

 次はたしか白い恋人パークっていったかしら?

 一体何なのかしら?


「ね、白い恋人パークってのはどういうとこなの?」

「北海道土産の定番、白い恋人の製造工程を見学したり、お菓子作りの体験が出来たりするわよ」

「へぇ」

「スイーツも食べることが出来ますわよ!」

「スイーツ!」

「お前らさっきからスイーツばっか食ってないか? さすがに太……」


 ドカバキ!


 宏太が何かを言いかけた瞬間に、女子から総攻撃を受ける。 亜美と希望はさすがに加わってはいないみたいだけど。

 本当に余計な事をいう奴ねぇ。


「東にスイーツがあれば食べに行くし、西にスイーツがあればやっぱり食べに行くのよ」

「そうよー! スイーツは何事にも優先されるのよー!」

「おー!」


 女子の結託は凄いのよねぇ。

 皆は「スイーツ!」と叫びながらバスに乗り込んでいく。 運転手のおじさんは何事かと言った顔でこちらを見やっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る