第618話 北へ来た

 ☆亜美視点☆


 現在、私達は空の旅を満喫中です。

 離陸時にはぶるぶると震えていた希望ちゃんも、安定飛行に入ってからはいつも通りに戻っているよ。


「北海道まではすぐに着くから、それまではゆっくりしててね。 着陸準備に入ったらまた連絡します」

「ほーい」

「夕也兄ぃー、暇ー」

「暇って言われてもなぁ」


 飛行機の中では遊べる様な物は何も無いからねぇ。

 麻美ちゃんが退屈がるのはわかるよ。


「あんたはじっとしてたら死ぬの? 少しは大人しくなさい」


 と、ここは姉である奈々ちゃんが麻美ちゃんに言い聞かせる。

 でも麻美ちゃんは唇を尖らせて、いつもの「ぶー!」で反抗する。

 やっぱりじっとしているのは性に合わないらしい。


「はぁ……」

「うー、仕方ない」


 と言って麻美ちゃんはリュックの中から本を取り出して読み始めた。


「本読ませておけば大人しいからそのままにしときましょ」

「ぶー。 お姉ちゃん嫌い」

「あ、あはは……」

 

 仲が良いんだか悪いんだか。

 さて、他の人はどうしているかというと、希望ちゃんは夕ちゃんの隣にちょこんと座り、本を読んでいるし、紗希ちゃんは髪を弄っている。

 奈央ちゃんはというと春くんと話しをしているみたいだね。

 遥ちゃんは音楽を聴いているよ。

 宏ちゃんはといかと、奈々ちゃんの隣で寝てしまっている。 早起きは辛かったらしい。


「ねぇ、亜美。 あんたさ、大学でバレーやるかどうか決めた?」

「ううん、まだ……奈央ちゃんはやる気みたいだけど」

「そう。 あんたと勝負してみたいんだけどね」

「あはは」


 奈々ちゃんと真剣勝負をした事ってほとんど無くて、練習試合とかそんなのばかりだからね。


「亜美ちゃんが大学でバレー続けたら、月島さん多分悔しがるよぅ?」

「どして?」

「だって、Vリーグと大学バレーじゃ試合出来ないもん。 『大学進学すれば良かったでぇ!』ってなるよ」


 微妙に似ていない弥生ちゃんのモノマネを織り交ぜる希望ちゃん。

 でもそっか。 私との勝負に拘る弥生ちゃんなら、そんな感じで悔しがるだろうね。


「ま、私としても亜美には続けてほしいと思うわけよ。 大学の講義や小説の方もあるし中々大変だろうけど」

「そうなんだよねぇ」


 バレーボールを続けたいとは思うものの、勉強や小説、家事と、全てをこなせるかどうか。


「亜美のやりたい様にやれば良いさ。 家の事はまあ、何とか3人で力合わせてやってこうぜ」


 黙って話を聞いていた夕ちゃんが、私にそう言ってくれた。


「ありがとう。 もうちょっと考えてみるよ」


 まだ答えは出せそうにない。



 ◆◇◆◇◆◇



 飛行機に乗り込んでどれくらい経ったかわからないけど、もうそろそろ着く頃の筈である。


「向こうに着いたら寒いから、皆防寒着は用意しておいてね」


 奈央ちゃんの注意喚起だ。

 私もリュックの中から防寒着を取り出して膝に掛けておく。

 何故か宏ちゃんは最初からフル装備だけど。


「準備万端だぜ」

「そ、そだね」

「さて、そろそろ着陸の準備に入るみたいよ」


 奈央ちゃんがそう言うと、さっきまでのほほんとしていた希望ちゃんが、ビクッとしてガクガク震えだした。

 ちょっと面白い。


「あ、あ、亜美ちゃぁん……」

「大丈夫だよ。 手握ってるからね」

「はぅー」


 可愛いなぁもう。

 

 飛行機は少しずつ高度を下げていき、少しすると車輪が陸に接地した衝撃がやってくる。


「怖いよぅ!」

「大丈夫だよぉ」


 希望ちゃんの手を強く握りながら、もう片方の手で希望ちゃんの頭をぽんぽんと軽く叩いて安心させてあげる。

 帰りもこんな調子になるんだろうなぁ。


「皆、お疲れ様! 無事着陸したみたいよ」

「は、はぅ。 生きてるって素晴らしい」


 何言ってるのこの子。


「降りる準備してね」


 というわけで、ベルトを外して荷物を持って、指示があるまで待機するのであった。

 それにしても、自家用ジェットで新千歳に着陸って、西條グループはいよいよわけがわからない事になってきたね。



 ◆◇◆◇◆◇



 飛行機を降りて、空港から外へと出るとそこは白い雪の街であった。


「なははー! 北へ来たー! なんちゃっ……寒いっ!」

「寒っ!?」

「寒いねぇ」


 北海道は3月下旬でも氷点下になる事もあるらしく、千葉の気温に慣れている私達には中々に堪える。


「ここからはどうするの?」


 紗希ちゃんが奈央ちゃんに、ここからどうやって移動するのかを訊いている。

 まあ、大方予想出来るけど。


「バスを待たせてあるのよ。 西條グループが経営するバス会社の観光バスを貸し切ってるので4日間はそれを使うわよ」


 うん、やっぱりそんな事だろうと思ってたよ。 さすがの私もだいぶわかってきたよ。


「そうだろうとは思ってたけど、やっぱり凄いわね、奈央の家は」

「怖いよぅ」


 本当に怖くて仕方がない。

 もしかして裏で日本を支配してるんじゃないだろうか?


「行くわよー」


 奈央ちゃんは気にした風もなく、バスを待たせている場所へ向かって歩き始めた。

 私達もじっとしてると寒いので、奈央ちゃんの後について歩く。 地面が滑りやすくなってるから注意して歩かないとね。


 歩いて行くと、これまた豪華な観光バスがターミナルに停車していた。


「はぇー、凄いわねー」

「もうちょっと普通ぐらいのは無かったのか?」


 遥ちゃんは豪華過ぎる観光バスを見てそう口走った。

 どうもこの観光バスは奈央ちゃんが選んだらしく、どうせなら一番良いやつという事でこれを頼んだようだ。

 何か、中はパーティーとか出来そうな内装になっているよ。


「さ、荷物は下のトランクにしまってバスに乗りますわよー」

「お、おー」


 とにかく荷物を入れてバスに乗り込むのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 バスに乗ると、奈央ちゃんがバスガイドさんよろしく一番先頭に立って、マイク片手に話を始めた。


「皆さん、飛行機の旅お疲れ様でした。 当バスはこれより、観光スポットを回りながら、本日宿泊予定の旅館へと向かいます」


 何でだか知らないけど、バスガイドさんが様になっているね。


「まず最初に向かいますのは、千歳水族館となりまーす」

「水族館!」


 ほうほう、水族館か。 どんなとこなんだろ?

 ワクワクするねぇ。


「ここからバスで約10分程で到着いたします。 しばしの間、お静かにご乗車願います」


 と、一通り説明を終えた奈央ちゃんが席に座ると──。


「お静かにとは言ったけど、他の乗客もいないし普通にいつも通りしてて良いわよー」

「いぇーい!」

「やっふー!」


 いやいや、いつもそこまでハイテンションじゃないじゃん?

 騒がしいのは騒がしいけど。


「楽しみだね、北海道旅行」


 隣に座る奈々ちゃんにそう話しかける。

 ちなみに夕ちゃんは宏ちゃんと一緒に座ってるよ。


「そうね。 中々来れる場所じゃないし、3泊4日の北海道旅行、目一杯楽しみましょ」

「うん」


 毎度の事ながら、大型の旅行を企画してくれる奈央ちゃんには感謝感謝である。 今回も楽しむよ!


 私達を乗せたバスは、一路千歳水族館へ向かって走り出した。

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