第608話 合格発表

 ☆夕也視点☆


 欧州村から帰って来てから約1週間が経過した。 今日は3月11日だ。

 明日12日には俺と奈々美が受験した七星大学、希望が受験した青葉丘教育大学、紗希ちゃんの受験した京都の芸大の合格発表がある。

 俺と奈々美、希望は大学まで行って発表を見るのだが、紗希ちゃんは京都まで行くのは無理だという事でインターネットで合格発表を見るとのこと。 合格していればそのままネットで入学手続きも済ませられるらしい。 便利な世の中だ。

 希望はというと、1人で見に行くのが心細いという事で亜美について来てもらうようだ。 

 その亜美達が受けた大学は13日が合格発表の様だ。


「はぅ……ドキドキだよぅ」

「試験の方は出来たんでしょ?」

「うん。 でも、はぅ」


 自分の夢がかかっている大事な大事な場面。 ここでダメだったらと考えてしまうと緊張してしまうものなのだろう。 俺なんかは夢だなんだって大それたものがあるわけではないのでそこまで緊張してるわけではない。

 そして緊張しているという点では紗希ちゃんも同じなようだ。

 先程からそわそわしている。


「あーもうー! 早く結果見て楽になりたいー」

「紗希はずっとそこを目指してきたからね」

「裕樹は緊張しないの?」

「してはいるけど、高校受験でも経験してるからね」


 それは俺達も同じだが、やっぱり難関を受験しただけあってその緊張感はただものではなかったのだろう。


「うぅ、裕樹のくせにぃ」


 紗希ちゃんは柏原君の頭をぽかぽかと叩いている。 緊張とかとは無縁だろうと思っていたが、珍しく緊張しているようだ。


「人事を尽くして天命を待つ。 今更じたばたしてもしかたがないわよー」

「そうだよ」


 逆に落ち着いているのは最難関と言われる白山大学を受けた内の女子2人、亜美と奈央ちゃんだ。

 この2人の場合は人としての能力が上限を振り切っているところがあるから余裕があるのだろう。


「2人は達観してるなぁ……」

「しすぎでしょ」


 宏太と奈々美の2人は、そんな亜美と奈央を見て溜息をつきながら言った。

 いやまったくである。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌日──


 今日はいよいよ合格発表の日だ。

 昼頃にキャンパスに張り出される事になるが、まずは紗希ちゃんの合格発表だ。

 俺達は広間に集まり、奈央ちゃんのノートパソコンで紗希ちゃんの合格発表を見る所だ。


「ごくっ……やばっ、緊張する」


 固唾を飲む紗希ちゃん。 手が少し震えているようにも見える。


「私が代わりに見てあげても良いわよ?」


 奈央ちゃんがそう言うと、紗希ちゃんは首を横に振る。


「だいじょぶ。  すーはー……よしっ、いくわよ!」


 カチッ……


 紗希ちゃんは恐る恐るマウスをクリックしてページを進める。

 合格者発表のページを開き、自分の受験番号を確認した後、ページを少しずつスクロールさせていく。

 俺達も黙ってそれを見守る。


「……30591、30593、3059……7! あった! あったわ私の番号!」

「おおっ!」

「やった! 紗希ちゃんやった!」


 希望が紗希ちゃんに抱き着いて一緒に喜んでいる。

 紗希ちゃんも涙を流して頷いた。


「よし、まずは1人だな」

「次は私達ね」

「ぅん」


 紗希ちゃんの合格を見届けた俺達は、出かける支度をして、それぞれの合格発表を見に行く為に屋敷を出るのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ☆希望視点☆


 紗希ちゃんの合格が決まったところで、次は私達の番だよぅ。

 夕也くんと奈々美ちゃんは七星大学へ、私は亜美ちゃんについて来てもらい、青葉丘教育大学へと合格者発表を見に行くよ。


「紗希ちゃん良かったよね」

「ぅん。 私も嬉しくなったよ」


 紗希ちゃんが泣く程喜んでいるところなんて初めて見たからね。

 私も同じように喜んで泣ければ良いけど。


「紗希ちゃん来月からは京都かぁ」

「青砥さんも受かってたって連絡もあったみたいだし良かった良かっただよ。 京都組は後は柏原くんだね。 明日通知が家に届くみたいだから、今日は一旦実家に帰るって」


 柏原君は京都の外国語大学を受験した。 受かってると良いけど、まずは私だよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 電車に乗り青葉丘教育大学のキャンパスへやって来た私と亜美ちゃん。

 周りには同じように合格者発表を見に来た人達が、歓喜の声を上げて泣いていたり、肩を落として帰って行く姿が見受けられる。


「天国か地獄か……明暗がハッキリと分かれてるね……」

「希望ちゃんは大丈夫だよ! さ、見に行こう!」

「うん」


 貼り出されている掲示板の前へとやって来た私達。

 どんどん怖くなってきて、中々上を向いて掲示板を見れない。


「希望ちゃん?」

「あ、亜美ちゃん……か、代わりに見て?」


 私は自分の受験番号が書かれた受験票を亜美ちゃんに渡して下を向く。

 自分で見るのが怖くて怖くて怖くて仕方ない。


「……わかったよ」


 亜美ちゃんは受験番号を確認して掲示板の方を向いた。

 ドキドキするよぅ。 しばらく亜美ちゃんは黙ったまま掲示板を見上げている。

 どうなんだろう……もしかして、私の番号が無くて私に掛ける言葉が無いんじゃ?


「希望ちゃん! あったよ希望ちゃんの番号!」

「はぅ! 本当?!」

「うん、ほら3列目5行目!」


 亜美ちゃんに言われた場所を見て、自分の受験番号を確認する。


「C18995……雪村希望! うぅっ……亜美ちゃぁぁん! 私やったよぅ!」

「うんっ! うんっ! 良かったね! 夢への道が開けたじゃない!」

「よがっだよぉぉ」


 私は亜美ちゃんに抱きついて大泣きした。

 紗希ちゃんが泣いたのもわかるよぅ。


「ぐすっ! やったよぅ!」


 後は七星大学へ向かった夕也くんと奈々美ちゃんだ。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 ☆夕也視点☆


 

 俺と奈々美は七星大学のキャンパスへとやって来た。

 既に掲示板の前には大勢の受験生が来ており、結果を見て一喜一憂している。


「さっき亜美から連絡があったわよ。 希望受かってたって」

「おお。 良いじゃないか。 やっぱりあいつは受からないとな」


 俺と違い、夢を追って受けた大学だから、何としても受かりたかったはずだ。

 家事で忙しい中でも空いた時間に勉強してたし、努力が報われて本当に良かった。


「じゃ、私達ね。 ね、私と夕也、受験票入れ替えてお互いの番号があるかどうかを見て、後でどうだったかを教え合いまょうよ」

「つまり俺は奈々美の受験番号を探せば良いんだな?」

「イエス。 はいこれ、私の番号」

「あいよ。 んじゃこれな」


 お互いの受験票を交換して掲示板の前に立つ。

 これでもし奈々美の番号が無かったりしたら、俺はどう報告すれば良いんだ?

 いやいや、そんなことは考えるな。

 奈々美の番号奈々美の番号……。


「……お? おお?」


 受験票の番号と掲示板に書いてある番号を見比べる。

 合ってる!


「奈々美は合格だな!」


 心配は杞憂に終わり安心した。

 俺が落ちてるかもしれないとか、そんなことより奈々美が受かっていた事が素直に嬉しい。


「さて、合流場所はっと……」


 奈々美と打ち合わせた合流場所へと足早に向かう。

 早くこの結果を伝えてやらないとな。


 先に合流場所に到着した俺は、奈々美がやって来るのを待つ。

 しばらくすると、人の山の中から奈々美が這い出て来るのが見えた。


「ふぅ……あちこちで泣くわ叫ぶわ賑やかだわ」

「おう、お疲れだな」


 奈々美は「本当よ」と、近くのベンチに腰掛けた。

 俺は早速奈々美に結果を伝える事にした。


「奈々美。 お前は受かってたぞ。 やったな」

「本当? よし! 紗希と希望に続けて良かったわ」


 ガッツポーズを見せて喜ぶ奈々美。

 こいつも頑張ってたもんな。


「夕也の方も受かってたわよ。 最初見つからなくて焦ったけど、見てた学部間違えててね。 あはは」


 だから少し遅かったのか。


「これで春からは同じ七大生ね? よろしく夕也」

「おう!」


 今のところ全員合格という事で、幸先良く合格発表初日を終えた俺達。

 翌日は白山組3人、遥ちゃん、柏原君の合格発表だ。

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