第577話 サプライズゲスト

 ☆夕也視点☆


 今日は勉強の合間の休息日だ。

 女子組は何故か皆揃って出掛けてしまい、屋敷に残ったのは男3人トラ2頭猫1匹ハムスター6匹となっている。

 俺はかなり暇しているが、休息日に勉強をしようという気にもならず、ただただテレビをボーッと眺めるだけである。

 そんな中、スマホにメッセージが届いた。

 相手は、同じように暇しているらしい宏太からだ。 メッセージは「遊びに行こうず」だ。


「ま、部屋にいても退屈は退屈だしな」


 俺は即OKの返事をして部屋を後にした。

 広間には宏太に加えて春人とトラ2頭が座っていた。

 

「まさかトラも一緒に出掛けるわけじゃあるまいな?」

「バカかお前は。 こんなもん連れて街中歩いてみろ。 警察呼ばれて大騒ぎだ」

「常識もないんですか、夕也?」


 こ、こいつら……。


「ほれ、行くぞバカ」

「早くして下さい」


 ぐぬぬ……どうも俺はこの2人に組まれるとこういう扱いを受ける事が多いようだ。

 こういうのは宏太の役目だろ。

 

「人と待ち合わせしてんだ、早くしろ」

「待ち合わせ? 誰だ?」

「僕にも教えてくれないんですよ」

「ま、着いてからのお楽しみってやつだ」


 宏太はニヤリと怪しい笑みを浮かべるのであった。

 一体誰なんだ?



 ◆◇◆◇◆◇



 屋敷を出て駅の方面へと向かう宏太。 買い出しの荷物持ち組としてこの辺りの地理には多少詳しくなった俺と宏太。

 駅までの道のりはもう余裕だ。


「その待ち合わせ相手は駅にいるのか?」

「いや、隣駅で待ってるらしい。 ただあまり目立ちたくないらしいから、トイレに隠れてるらしい。 着いたら連絡してくれってさ」

「変わった人なんですね」


 目立ちたくなくてトイレに隠れてるとか、どんな男だよ。 早くそのご尊顔を拝みたいものだ。

 しかし、宏太にそんな知り合いがいるなんて聞いた事ねぇな。 しかも、俺達の街から離れたこんな所に。

 宏太の奴も心なしか楽しみにしている感じだ……。

 一体何者なんだ?


 電車に乗り込みすぐ隣の駅へと向かう俺達。

 前回の休息日に亜美達が隣駅に遊びに行ったらしく、中々大きな街だという。

 そのうちに休息日デートしようと亜美が言っていた。


 隣の駅なので、電車はすぐに到着した。

 駅のホームから見る景色だけでも、かなりの都会だとわかる。


「凄いな」

「俺達の街って田舎なんだなぁ」

「アメリカの都会には敵わないですが、かなりの規模ですね」

「っしゃ、行くか」


 宏太が先陣を切って歩き出すも、ホームから階段を上がったところで足を止めた。


「……迷路だ」


 構内はやたらと複雑で、出口が複数あるらしい。

 宏太の頭では少々荷が重いらしい。


「まずは待ち合わせ相手がどの出口方面のトイレに隠れているのか聞いてみたらどうですか?」

「そ、そうだな」


 宏太はスマホで相手に連絡を取っている。

 やがて西出口だという事がわかり、俺達は案内板を頼りに西出口へと向かう。

 改札を出たところで、宏太がスマホで再度連絡を取る。

 ようやく何者かがわかるな。


「もうすぐ来るってよ」

「うむ」

「誰なんでしょうね?」


 俺は、じーっと男子トイレの出入り口に視線を向ける。

 しかし、男子トイレからは誰も出てくる気配がない。

 女子トイレから2人程出てきたが?


「おーい」

「お、来たぞ」

「は?」


 声を掛けて来たのは可愛いらしい女の子の声だった。

 宏太の待ち合わせ相手って男じゃないのかよ。

 しかし誰だ?


「久しぶりかな? クリスマスパーティー以来だ」

「そうっすね」


 んん? クリスマスパーティー?

 って事は奈央ちゃんの家のクリスマスパーティーに来ていた人って事に……。

 クリスマスパーティー……女の子の知り……合い?


「あー! ゆり……」

「しーっ!」


 俺が名前を叫びかけたところで口を押さえ込まれてしまう。

 それもそのはず。 今目の前にいるのは日本のトップアイドル姫百合凛ことゆりりんその人だからである。

 変装までしているのだから、騒ぎになるのを避けたいということらしい。


「マジかよ宏太……」

「まぁな」


 連絡先の交換をしたらしい事は知っていたが、まさかこんな風に会う約束をする程の仲とは……。


「しかし、よく出てこれましたね」

「あー、あはは。 実はこの近くのスタジオで新曲のレコーディングがあったんだよ。 それが終わったから抜けて来た」

「ぬ、抜けて来たって、大丈夫なのか? マネとか心配してるんじゃ?」

「大丈夫! 置き手紙してきたから!」


 何が大丈夫なのかは知らないが、どうやらかなり問題児なアイドルだということがわかった。

 こりゃ関係者も一苦労だろう。

  

「ところで、ガールズ達は? 一緒じゃない?」


 と、キョロキョロと周りを見渡す仕草をするゆりりん。

 もちろん、ガールズはこの場にはいないのだか宏太の奴は話してなかったのか?

 こんなのがバレたら奈々美にボコボコにされるぞ。

 と、思ったのだが。


「女子達なら東出口の方で待ってるから、そっちに移動しようぜ」

「は?」

「ほう?」


 何も聞かされていない俺と春人は、素っ頓狂な声を出してしまう。

 ゆりりんはそんな俺達を見て「クスクス」と可愛らしく笑った。


「じゃ行くぜ」


 と、宏太はそう言って歩き始めた。

 こういうことは予め話しておいてくれよなマジで。


 東出口の方へ行くと、本当に女子達が待っていた。

 それぞれの手には紙袋を持っていることから、何処かで買い物でもしていたのだろう。


「あ、来たよ! おーい!」


 こちらに気付いた亜美が手を振って呼んでくる。

 あまり目立たない方が良いんだがなぁ。

 女子達と合流した俺達は、駅を出て広い場所に移動する。


「久しぶりですわね、凛さん」

「はい。 クリスマスパーティーでは楽しい時間をありがとうございました」


 と、先程とは一変して大人な会話を繰り広げるゆりりんと奈央ちゃん。

 お互い、大人も混じる社交の場での人付き合いも多いからであろう、大人っぽい立ち振る舞いも様になっている。


「今日は遊びに誘ってくれてありがとう」

「たまたま近くに来てるって聞いたからなぁ」

「宏太にしちゃ、気が利き過ぎじゃない。 てか、私に黙って結構連絡取り合ってるのね? あとで覚えておきなさいよ?」

「ひぃ?!」


 案の定、奈々美に怒られている宏太を見て、ゆりりんが止めに入る。


「ま、まあまあ、佐々木君は悪くないから。 結構私の方から連絡する事多くて」


 と、意外な事を言う。

 奈々美もトップアイドルに止められては致し方なしといった感じで怒りをおさめる。


「楽しく遊びましょう! 私、あまり同年代の女子達と遊ぶ機会が無いから楽しみにしてたの」

「きゃはは、楽しく楽しく」

「うんうん。 あれ? 凛さんっておいくつ?」

「大学1年だから、皆より1つ先輩です。 えっへん」

「おー、そうなんだねぇ」


 ゆりりんが大学生な事ぐらいは、芸能人についてちょいとでも興味があれば誰でも知ってるんだが、亜美はあまり芸能人については興味がないらしい。

 ま、とにかく今日はトップアイドル様と遊ぶ事になったわけで、楽しみである。


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