第557話 亜美と子猫

 ☆亜美視点☆


 今日もお昼から皆で勉強会。

 麻美ちゃんと渚ちゃんの後輩ズは春高で京都へ行ってしまっているため、非常に静かな日々である。

 バレー部は順調に勝ち上がっていると連絡があり、私達が引退した後も頑張っているようだ。

 決勝まで行ったら皆でテレビ観戦する予定である。


「ふんふんー♪」


 そんな私は午前中の内に、色々と買い出しを済ませておこうと思いお出かけ中。

 買い出しを一通り済ませた私は、近場のペットショップへ海水魚用の餌と人工海水を買いに来ています。


「うわわー……猫さん可愛いなぁ」


 私は大の猫さん好きである。

 よくペットショップへ足を運んでは、子猫さんを見て癒されている。

 時には猫カフェに足を運んだりもしている程である。

 そんな私が、何故猫さん飼育に踏み切らないかと言うと単純な話であり、夕ちゃんの家にお世話になっている身だからである。

 海水魚は良いのかって? 良いんだよ!


「はぁん……でも飼いたいなぁ」

「何してんの亜美ちゃん?」

「って、うわわ?! 何だ紗希ちゃんかぁ」

「やほー。 て、猫のケースにへばりついて何してるの?」

「あはは……可愛いなぁって思ってね」

「可愛いわよねー。 ほれほれほれほれ」


 紗希ちゃんが指を左右に振ると、子猫ちゃんが反応して猫パンチを繰り出す。


「うわわ、可愛い。 はわぁん」

「うわ、亜美ちゃんキャラ崩壊してる」

「飼いたいなぁ……」

「今井君に相談すれば良いじゃない? 優しいからすぐOKしてくれるんじゃない?」

「海水魚やハムスターと違って、お世話大変だし家の中動き回るしどうだろう? ダメって言いそうだよ」

「それにお高いしね」

「そうだねぇ」


 とはいえ、お金には幾分余裕がある。

 やはり問題は夕ちゃんなのだ。


「よーし、ものは試しだよ」



 ◆◇◆◇◆◇



 というわけで、勉強会が終わった後の夜。

 私はいよいよ夕ちゃんに切り出す事にした。


「夕ちゃん、猫飼っちゃダメかな?」

「はぅ? 亜美ちゃんついに我慢できなくなった?」

「あ、あはは……」

「猫か……あれはハムスターや海水魚とはわけが違うからな……」

「だ、だよねぇ」


 やはりというか、少し難色を示す夕ちゃん。

 このままゴネても良いけど、夕ちゃんの家にお世話になっている身である以上は無理を言えない。

 諦めよう……。


「……ごちそうさま」


 私は食べた食器をまとめて流し台へ。

 はぁ、猫さん。


「大体よ、海水魚だって世話してるし、家の事や受験まであって猫の世話どころじゃないんじゃないか?」

「……そんな事無いけど」


 たしかに大変だけど、受験ならもう言ってる間に終わるし、海水魚だって水槽の手入れの頻度はそこまで高くないし出来る自信はある。


「んー……」

「夕也くん。 亜美ちゃんは実家にいた時から結構我慢してるんだよ。 お父さんからダメって言われて」

「それは知ってるがな……」

「い、良いよ希望ちゃん。 私、まだ我慢できるし。 いつか自分で家借りて、そこで飼うよ」

「亜美ちゃん……」

「……」


 その日はそれで猫さんの話を切り上げて、私は自室に篭りひたすら勉強に打ち込んだのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 しかしその翌日の午前中の事である。


「亜美。 猫見に行くか?」

「猫さん? 見に行くって?」

「昨日、飼いたいって言ってただろ?」

「言ったけど、夕ちゃんダメだって……」

「いや、言ってないが……」


 はて? 昨日の会話シーンを思い返してみる。

 たしかに、難色を示してはいたけど「ダメ」とは一言も言っていなかったようだ。


「え、え。 じゃあもしかして?」

「あーまあー。 お前が昔から我慢してるのは知ってるし……ずっと俺に遠慮してたのも気付いてはいたし。 そんなお前が我慢出来ずに俺に話してきたんだからよっぽど欲しいんだろうと思ってな……」

「はわー! 良いの?! 猫さん飼っても?!」

「ちゃんと魚も猫も世話するんだぞ? あと大丈夫だろうけど受験の方も」

「約束するよ!」


 夢のようだよ。 あれ? もしかして夢なんじゃ?


「夕ちゃん! ほっぺつねって!」

「夢じゃないっての……」

「やったー! 準備するね! やったー!」


 私は子供のようにはしゃぎながら出かける準備を始めた。

 夕ちゃんはやっぱり優しいなぁ。 大好き!



 ◆◇◆◇◆◇



 というわけで、希望ちゃんとペットの事ならという事で宏ちゃんも呼んでペットショップへと向かっています。


「わくわく」

「しかし、よくOKしたなお前」

「まあな」

「亜美ちゃん、凄く喜んでるよ」

「本当に我慢してたんだな……」


 後ろを歩く3人の話し声はほとんど耳に入っていない。 わくわくし過ぎてそれどころじゃないのである。


「たしかに、前に亜美ちゃんと出かけた時も猫欲しがってたな」

「こうなるんなら海水魚は我慢させるべきだったかもなぁ」

「うわわ! 嫌だよ今更諦めろだなんて」

「言わないって。 俺だってお前や希望がいなきゃ何も出来ないし世話になってるんだ。 お前達に色々と返さなきゃならんと思ってんだからよ」

「はぅ。 そんなの気にしなくて良いのに」

「好きでやってるんだしね。 それに、夕ちゃんの家にお世話にならせてもらえてるだけで十分だよ」

「そうか。 じゃ猫はやっぱり無しか」

「うわわわーっ! 嫌だよぉ!」


 夕ちゃんは爆笑しながら「冗談だ」と私の頭をぽんぽん叩く。

 意地悪だよ。


 ペットショップへ到着した私は、早速猫さんコーナーへ足を向ける。


「うわわー! どの子も可愛いなぁ」


 もう猫さんの姿が目に入ると我を忘れてしまうよ。


「宏太。 こういうのを選ぶ時のコツとか教えてやってくれ」

「ん、そうだな。 まずは人に懐くかどうかだな。 ケースの前に立ってこっちに興味を……」

「この子にする!」


 宏ちゃんが何か一生懸命に語っていたような気もするけど、私はすでに昨日の時点で目星を付けていた子がいるのである。

 クリクリしたお目目に短い足。 凄く可愛い容姿で私の前でずっと猫パンチを繰り出しているその子に私は決めた。


「マンチカンか。 最近人気の種類だな」

「可愛いよぅ」

「ちっこいな」

「割と温厚で人にも懐く品種だって聞いたことがあるぞ。 身体もそこまででかくはならんらしいが」

「あ、店員さん! この子抱かせもらいたいんですけど!」

「聞いちゃいねぇ……」


 宏ちゃんの話はちゃんと聞いてはいるが、そんなことより早くこの子をお迎えしたい気持ちが抑えきれないのである。


「どうぞ」

「はわわー……軽い」

「まだまだ子猫ですから」

「私、この子連れて帰りますっ」

「ふふふ、懐いてますもんね」

「ほわわーん」

「亜美ちゃんって猫がいるとキャラ変わるよな? 本当に大丈夫か?」

「だ、大丈夫だろ……」


 私はカウンターへ向かい、色々と手続きや説明を受ける。

 定期的に健診やワクチン注射なんてのもあるらしい。

 ついでにキャットフードのオススメやケージなんかも一式購入。

 全部キャッシュでポンっと払ったよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 そんなこんなで我が家……夕ちゃんの家に戻って来た私は、早速ケージやら何やらセットして猫さんを入れてあげる。


「夕方から晩御飯までの時間は外に出してあげまちゅからねー」

「やっぱりキャラ変わるなぁ……」


 こうして私達に新しい家族がまた増えた。


「名前どうするんだ?」

「亜美ちゃんの事だからまた甘い物の名前だよ絶対」


 私は一緒に帰ってきた猫ちゃんの姿を見て「うーむ」と考える。

 この毛色なら……。


「マロン! モンブランのマロンクリームっぽいからマロンだよ!」

「ほら、やっぱり甘い物だよぅ」

「ま、良いんじゃねえか?」

「亜美ちゃんらしいな」

「えへへ、今日からよろしくねマロン!」

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