第540話 今年の聖夜は

 ☆夕也視点☆


 12月24日金曜日。

 今年の授業も全て終了し、今は毎度おなじみの学園長の有り難いお話を聞かされているところだ。

 3年ともなると、学園長の話は右から左へ聞き流す。

 退屈しのぎにやることももはや尽きてしまい、ただボケーッと突っ立っているだけだ。

 中には器用なやつもいるもので、顔を下に向けて寝ている奴もいる。


 学園長の有り難いお話が終わった後は、教室へ戻りHR。

 こちらも毎度おなじみ、休み中の諸注意等。

 聞き飽きた話を右から左へ聞き流し、早く終わらねぇかなぁ……なんて事を考えるのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 HRも終わりめでたく解放された俺達生徒は、一斉に立ち上がり帰り支度を始める。

 高校3年、受験生ともなれば年末年始返上で勉強浸けになる者も多いと思われる。

 だがしかし、俺達のグループは割りかし例年通りに過ごす予定となっている。

 明日は奈央ちゃんの家で行われるという、クリスマスパーティーに参加し、年末はしっかり大掃除。

 年明けは初詣に行き合格祈願もする予定だ。

 3年生は2月頃から卒業式までの間、長い休みに入る。

 その頃には共通テストも終わっており、中には浪人が決まっている奴もいるかもしれない。

 2月末からは各大学の入試も始まる。

 

「夕ちゃん夕ちゃん。 早く帰って出かける支度するよ」

「お? おう」


 ちなみに今日は、亜美、希望に加えて奈々美、宏太、麻美ちゃん、渚ちゃんの皆で遊びに出かける予定になっている。

 当初は亜美と2人で聖夜デートの予定であったが、亜美が希望を誘い3人で出かける事になった。

 しかし亜美はそれだけでは飽きたらず、何故か奈々美と宏太も誘った。

 そしてそれを聞きつけた麻美ちゃんと渚ちゃんも参加すると言い出したというわけだ。


「今日明日は賑やかになるねぇ」

「うん」

「ま、亜美がそれで良いなら何も言うまい」


 亜美は賑やかなのが好きだから、恋人の俺と2人で遊ぶ事には拘らない。

 

「奈々美達は?」

「先に帰ったよ? だから早く帰るよ」

「おう」

「おー」


 今日は外で昼飯を食べる事になっているので、さっさと帰って待ち合わせ場所へ向かわねばならない。

 という事でさっさと帰る。



 ◆◇◆◇◆◇



 帰って来て慌ただしく用意を済ませて素早く出かける。

 亜美も希望もそこまで化粧に時間をかけないタイプなので、用意が早い。

 待ち合わせ場所はいつも合流する十字路。

 

「なんだ、まだあいつら来てないじゃないか」

「あはは、本当だね」

「もう少しゆっくり出来たね」


 亜美や希望と違い、奈々美はどちらかというと化粧等出かける準備に時間をかけるタイプだ。

 多分その差だろう。


 少し待っていると、宏太を引き連れて奈々美と麻美ちゃんがやってきた。

 奈々美はまたオシャレに決めてやがるな。

 多分だが、今日は奈々美も元々、宏太と2人で出かける予定だったのだろう。

 亜美の誘いを断る選択肢もあっただろうに、何故わざわざOKしたのだろうか?

 それを奈々美に直接聞いてみると。


「まあ、恋人と過ごす聖夜も良いけど、幼馴染と過ごす聖夜も楽しそうじゃない?」


 という事だそうだ。 まあ、たまには良いのかもしれないな。

 さて、次は駅前へと移動する。

 今日はちょっと遠出をする予定なので、電車で移動する為である。

 そして駅前では渚ちゃんが待っているので、拾っていくのも忘れないように。


「こんにちはです」

「こんにちは渚ちゃん。 全員揃ったね。 よーし行くよー」


 全員が揃ったところで亜美が仕切り出し、ファミレスへと入っていった。

 電車での移動が少し長くなるため、ここで昼食を食べておいた方がが良い。

 ちなみに今日は夕飯も外食の予定になっている。

 つまり、1日遊び倒す事になる。

 その為に今は腹ごしらえだ。


「久しぶりにここのオムランチセット、デザートパフェ食べるよ」

「そういえば、ここ来るの久しぶりね」


 外食する時は大体出先である事が多いため、近場である駅前のレストランにはあまり足を運ばない。

 しかし、約1名はポイントが貯まっているという程に通っている者がいた。


「私はマンションがすぐそこやから、夕飯とか作るのが面倒な時はよく来るんですよ」


 渚ちゃんだ。

 駅前のマンスリーマンションに暮らしている渚ちゃん。

 一人暮らしだし、たまには飯を作るのも面倒な事があるのだろう。

 今でこそ、亜美と希望が一緒に住んでいるから困らないが、以前は2人の都合で飯を作りに来れない日があった。

 そんな時は専ら外食かコンビニ弁当だったものだ。

 ちなみ俺は炊事は出来ない。 掃除も洗濯もだ。

 洗濯物は畳めるようになったぞ。 最近奈々美が教えてくれたからな。


「んむんむ。 美味しい〜」


 亜美はオムライスを頬張り幸せそうな顔をしている。

 最近ダイエットを始めたらしく、カロリー制限をしていると聞いたが、しっかりパフェも注文している。

 それをツッコむと。


「今日と明日は特別な日だからね。 解禁だよ」


 という事だそうだ。

 他の奈々美や希望も同じようにダイエットを始めたらしいが、同じ理論で今日はセーフだと言っている。


「3人ともダイエットが必要な程、気にするような体型じゃないと思うがなぁ」

「わかってないなあ、夕也くんは」

「そうだよ」


 非難された。


「女の子はね、体重計の数値に一喜一憂するものなのよ。 ちょっと増えただけで、精神的ダメージを受けるわけ」

「俺にはわからん……」

「同じく」


 俺達男にはわからない世界なのかもしれない。

  

「んぐんぐ。 夕也兄ぃー、愚痴聞いてよー」

「愚痴? 何だ?」

「お姉ちゃんね、私を道連れにしようとするの」

「人聞きの悪い」


 麻美ちゃんの言葉に反応する奈々美。


「道連れとは?」

「私は別にダイエットするつもりも無いのに、無理矢理ダイエットに付き合わされてるんだよー」


 なるほど。 そりゃ道連れだな。

 奈々美は「違うのよ」と、弁明を始めた。


「ダイエットしてる横で、麻美が美味しそうにお菓子とか食べてるの見ると辛いでしょ? だから我慢しなさい」

「横暴だよー!」

「ははは! 奈々美、そりゃさすがに麻美が可哀想だぜ」


 宏太は麻美ちゃんの肩を持つようだ。 

 まあたしかに、この件に関しては麻美ちゃんがあまりに不憫だしな。

 

「うっ……わかったわよ。 その代わり、お菓子とか食べる時は私の目の届かない所でね?」

「約束するー!」


 どうやら和解したらしい。 姉妹って大変なんだなぁ。 亜美と希望はあまりそういう類の争いは見受けられない。 むしろ、片方がダイエット始めたらもう片方も仲良く始めてしまうぐらいの感じだ。


「ちなみに、体重どれくらいあるんだ?」


 ダイエットが必要な程とは思えないので、一応皆に聞いてみると、女子勢はおろか宏太にまで呆れられてしまった。


「お前な……」

「夕ちゃんそれはねぇ」

「な、なんだ?」

「地雷踏み抜きすだよぅ」

「その質問は女性にしちゃいけない質問トップ3に入る最悪レベルの物よ?」

「あ、え?」

「あはははー! 夕也兄ぃデリカシー無さすぎかー?」

「はぁ……先輩最低ですよ」


 全員から猛攻を受け縮こまるしか無いのであった。

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