第531話 湯の街

 ☆亜美視点☆


 私達は東京スカイツリー周辺を満喫中。

 ショッピングモールで色々と物色しながら、ふと千葉県にいる夕ちゃん達の事を思い出す。

 そういえば、今日は奈々ちゃんが夕ちゃんを貸してくれって言ってた日だね。

 一体何をしてるんだか……。



 ◆◇◆◇◆◇


 

 少し時間は戻って千葉県では──


 ☆奈々美視点☆


 本日は土曜日。 亜美には前もって了解を得ているので夕也と皆で出かける事にするわ。

 行き先は以前に夕也と亜美がデートに行った事があるという日帰り温泉よ。

 食べ歩きも出来るらしいわ。


「ほら、行くわよー」

「おー!」

「何で奈々美が仕切るんだよ」

「あはは……」

「藍沢先輩はリーダーシップありますよね」

「これでも中学時代はバレー部キャプテンだったしね」

「そういえばそうだったなぁ」


 まあ、それはどうでもいいんだけどね。


「時間が惜しいし急ぐわよ」

「そんな慌てなくても大丈夫だろ」

「わかってないねー夕也兄ぃ。 亜美姉が帰ってきたら皆で遊びに行くの許してくれないかもじゃんー」

「いくらなんでもそこまでキツくはないと思うよぅ」


 亜美はちょっと審査をキツくはすると豪語していたけど、果たしてどれぐらいキツくなるやら。


「さて、駅に着いたわよ。 夕也、目的地への切符はおいくら?」

「360円だったかな」

「結構遠いんですね」

「なははー360円ー! ピッ!」


 ゲラゲラと笑いながらさっさと切符を買って改札を抜ける麻美。 相変わらず元気ね。

 さて、私達もそれに続いて切符を買って改札を抜ける。 夕也から目的地を聞き、電車を待つ。

 日帰りとはいえ温泉。 勉強勉強で疲れた体と頭を癒すのにはちょうどいい。

 最近はよく遊んでるだろうって? 黙ってなさいよ。


「お、電車来たぞ」

「よーし乗り込むわよー」

「いや、だからなんでお前が仕切るんだよ」

「だまらっしゃい」


 文句を言う宏太を引いて電車の乗っけて、私達は一路温泉街へと向かうのであった。

 少々目的地までは距離があるので空いている席に座って少しゆっくりとする。


「ふぅ……」

「お姉ちゃん、年寄りくさいよー」

「何?」


 ギラッ……


 私は失礼な事を言う麻美を睨みつける。 すると麻美はビクッと肩を震わせて「な、何も言ってないよー……」と、言い直す。

 この間、私に叩かれるとめちゃくちゃ痛いから止めてほしいと言われたので、出来るだけ手は上げないように気を付ける事にしたわけよ。

 私としては今まできっちり手加減していたつもりだったんだけどそれでも痛いらしい。

 あの希望でさえ「凄く痛いよぅ」と正直に答えていた。


「奈々美は年寄りくさいって言ったんだよな?」

「ふんっ!」


 ドスッ!


「うぐぉぉぉ……」


 宏太には容赦なく攻撃するわよ。 こいつの体はそりゃもう頑丈に出来てるから、多少攻撃しても大丈夫なのよね。


「こ、宏太兄ぃ大丈夫? 思いっきりリバーブロー入ってたけど?」

「ふるふる」


 脇腹を押さえながら首を横に振る宏太。 あ、あら……大丈夫じゃない?


「奈々美ちゃん、ちょっと強過ぎたんじゃないかな? 宏太くんだって人間だし、痛いものは痛いと思うよぅ?」

「先輩、彼氏を目一杯殴るのは止めた方がええんやないですか?」

「む、むぅ……」


 止めちゃうと私のストレス発散法の1つが無くなっちゃうのよね。


「奈々美。 お前は宏太の事を未だにサンドバッグか何かだと思ってるのか?」

「え? ま、まさかそんなわけないじゃない。 おほほほ」


 取り繕うも、正直な事を言うと少し、本当に少しだけサンドバッグみたいに思ってたり……。

 これからは気を付ける事にしましょう。



 ◆◇◆◇◆◇



 さて、色々あったけど電車は目的地である温泉街に到着。 正直な話、電車一本で行ける場所にこんな場所があるなんて知らなかったわ。

 亜美が調べた場所らしいけど、あの子は本当にマメな子ね。 普通のデートでも色々凝ったプランを立てているらしい。


「おー! おおー! 温泉の匂いするー!」

「硫黄の匂いやね」

「ささ、まずはその辺見て回りましょう」

「そうだな」

「はぅはぅ」


 早速お土産の店に入り色々物色を始める私達。

 温泉街の割にこの街の推しは蕎麦らしい。

 夕也曰く、この街の蕎麦はかなり美味しいらしく、今日のお昼も既に蕎麦を食べようという風に決まっている。

 にしてもこのマスコットキャラはどうなのかしら?

 蕎麦の束にタオル鉢巻をして手足が生やした、何とも奇妙なキャラクターだわ。


「バカねこ並のセンスを感じるわ」

「ボケねこ」


 と、私が名前を間違えると、何処からともなくやってきてすかさず訂正してくる希望。

 曰くボケねこファンにはボケねこイヤーというものが備わっており、名前を間違えている人の存在を察知するとすぐに駆けつける事ができるらしい。

 眉唾だけど、今のを見せられるとちょっと信じたくなるわね。


「はぅ、このマスコット可愛いよぅ」

「は?」

「へ?」

「なはは」


 希望はこのマスコットを可愛いと評するも、希望以外の皆は首を傾げていた。

 希望のセンスは少しズレているところがあるわね。


「でも、ボケねこさんには敵わないなー」

「は?」

「へ?」

「なはは」


 もう希望のボケねこ好きは筋金入りというかなんというか。

 

「ん? これ、奈央がたまに付けてる髪飾りじゃない? この街で買った物なのかしら?」

「蕎麦の花だよぅ」


 どうやら蕎麦の花をモチーフにした髪飾りらしい。

 夕也曰く、亜美が奈央にこのデートコースを紹介した事があるらしい。

 なるほど、それでこの髪飾りを持ってるわけね。

 でも中々可愛らしい髪飾りだわ。


「おー。 夕也兄ぃ買ってー!」

「あ、麻美ずるいで」


 ここで夕也争奪負け組の麻美と渚が、夕也に髪飾りをねだり始める。


「自分のお小遣いで買いなさいよ。 本の印税でたんまり貯め込んでんでしょ?」

「ぶー! 好きな人に贈ってもらうのが良いんだよー!」

「ですです」


 と、2人から物凄い圧をかけられる。 夕也の事になると妙に強気になるのよねこの子達。

 渚なんて告白してから人が変わった様に積極的になっちゃって。


「構わないぜ。 これぐらいなら安い物だし、買ってやるよ」

「夕也……はあ、あんたが良いなら良いけど」

「わーい」

「おおきにです!」


 2人は嬉々として髪飾りを手に取ると、夕也の手を引いて会計へと向かう。


「本当にもう……」

「希望はいらねーのか?」


 宏太が希望に訊ねると、希望は首を縦に振る。

 希望は髪飾りは使わないからいらないと答える。


「そういえば希望は小さい頃からそのでっかい白リボンだよな」

「そうね。 大事にしてるわね」

「うん。 これはね、幼稚園の頃に本当の両親から貰ったリボンなんだよぅ」

「そうか。 そりゃ大事な物だわな」

「うん」


 出会った頃には当たり前のように付けていた白いリボン。 そんな大事な物だったなんて知らなかったわね。

 まだまだ知らない事があるようだわ。


 髪飾りを買って戻ってきた3人と合流して、お土産屋を後にしお昼ご飯を食べに行く事にする私達であった。

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