第512話 努力

 ☆希望視点☆


 私は凄く人見知りをします。 あと、アガリ症です。


「はぅ。 こんなのアピール欄に書けないよぅ」


 というわけで、この悩みの種である人見知りとアガリ症を何とかして治したいのですが。

 たまに亜美ちゃんや奈々美ちゃんが色々な場所に連れ出してくれるんだけどこれが結構な荒療治で……。

 前回はいきなりデパートのファッションショーに参加させられた。

 しかも受付から何から何までやらされて、私はへとへとになったのを覚えている。


「さぁ今日はどうしようねぇ」

「腕が鳴るわねぇ」


 そして今日は受験勉強もお休みという事で、久々に私の人見知り&アガリ症克服の為に亜美ちゃんと奈々美ちゃんとお出かけです。

 今日は何をやらされるやら。


「前回は中々に傑作だったわよね」

「あはは、ステージの上でロボットみたいになってたもんね」


 と、2人は爆笑しながらあの時の話をしている。 本当はこの2人、楽しんでるだけなんじゃ?

 いやいやそんなはずないよね。 2人は私の親友だしちゃんと私の事考えてくれてるよ。


「そういえば市内の方でコスプレ大会やってるらしいわよ」

「ほぉ」

「はぅぅっ?!」


 ファッションショーよりさらにハードルが上がってるよぅ。

 2人はもう市内に行く気満々になっている。 これはもう逃げられそうにない。

 どんなコスプレさせられるんだろうか。



 ◆◇◆◇◆◇



 市内へやって来た私達は、イベントが行われているというお店へとやって来た。

 大きなアニメグッズショップらしい。 こういうお店は初めて来たんだけど、独特の雰囲気だよ。

 既にイベントの受付は始まっているらしい。


「ささ、希望ちゃん受付をしてきなよ」

「やっぱりそうなるんだね……」


 とほほ……。


「あれれー? 希望ちゃんと亜美ちゃんと奈々美じゃーん、 どったのー?」

「はぅ?」


 受付の前でまごまごしていると、聞き知った声が聞こえてきた。 私達3人はその声の主を振り返る。

 そこにはすらっとした高い身長、同世代とは思えないほどのナイスバデーの女子が。


「あれ、紗希ちゃん?」

「あんたこんなとこで何してんのよ?」


 そう、私達の友人でありムードメーカーの紗希ちゃん。

 まさかこんなところで会うなんて。


「何ってコスプレイベントに参加しようと思って」

「あぁ、そういえばあんたの趣味だったわねそれ」

「そゆことー。 あんた達は?」

「希望が参加するのよ」

「マジ?」


 私の方を見てきょとんとしている紗希ちゃん。 私は半泣きになりながら亜美ちゃんの方を見ると、こくこくと頷く。

 もうどうにでもなれ。


 紗希ちゃんと2人で受付へと向かう私。 紗希ちゃんはサクサクと受付を済ませていく。

 あわわわ……。


「希望ちゃんだいじょぶ? 私が代わりに受付してあげよっか?」


 震える私を見て心配してくれたのか、そう言ってくれる紗希ちゃん。 しかしこれは私の人見知り、アガリ症を克服する為の特訓。

 人任せにするのは違う。


「だ、大丈夫」

「おりょ? そう?」

「うん」


 私は小さく頷き、勇気を振り絞り受付へ。


「いらっしゃいませー。 コスプレショーに参加される方ですか?」

「ひゃ、ひゃひっ! よろひくほねがいしまふっ!」


 噛み噛みになってしまった。

 本当に情けないよ。


「ではこれに必要事項を記入して下さい」

「ひゃいっ!」

「きゃはは」


 隣では、私を見てケラケラと笑う紗希ちゃん。

 うぅ……。

 わたしは半泣きになりながら必要事項を記入していく。

 本名、ニックネームやコスプレの内容、自己紹介文などなど。 わけがわからない。


「コスプレの衣装はお持ちでしょうか?」


 私は首を横に振る。 そんなもの持ってないよ。 どうすれば良いんだろう?


「レンタル衣装がありますよ」


 どうやら逃げられないようだ。

 隣にいる紗希ちゃんも今日はレンタルで参加すると言う。

 普段は自作のコスプレを用意するらしいけど、今は受験勉強に集中する期間という事で自作してる時間はないとの事。


「じ、じゃあレンタルで……」

「はーい。 レンタル衣装代8000円になります」

「は、8000……」


 結構な金額である。 私は涙を流しながら亜美ちゃんの方を振り向く。

 亜美ちゃんはてくてくと歩いてきたかと思うと、私に10000円札を握らせる。

 はぅ……。

 亜美ちゃんはにこにこしている。

 仕方なくお金を支払ってレンタル衣装を選びに行く。

 何やら見たことのあるアニメキャラの衣装も並んでいる。 私は比較的普通そうな衣装を選ぶことにしよう。


「ふんふーん。 お、これ魔法少女ミラの衣装じゃーん。 これにしよっかなぁ」

「ええ、紗希ちゃんそんなフリフリに露出一杯のにするの?」

「これぐらい普通よん?」

「う、嘘でしょ……」


 紗希ちゃんは普段から恥ずかしげもなく脱いじゃうような子だもんね。

 私には無理だよぅ。


「私は無難にこの制服衣装にしよぅ」


 なんか学園恋愛物のアニメに登場する学園の制服らしい。 よくわからないけど、これなら恥ずかしくは……。



 ◆◇◆◇◆◇


「どうかな?」

「可愛いじゃんー。 わたしはどう?」

「凄いフリフリだよぅ」


 さすが魔法少女コスチューム。 いつもの紗希ちゃんと全然違うよ。

 魔法のステッキなんかも持って完璧に魔法少女だ。


「で、このコスプレイベントって何をするの?」

「え? この格好でステージに立って皆に見てもらうのよ? んで、写真撮影タイムがあるから、ポーズの要求に応えてポーズを取ったりするのよ」

「はぅぅ……辛い」


 アガリ症の私にはかなりハードな内容のようです。 うう、覚悟を決めよう。


「結構ハマっちゃったりするかもよー?」

「しないよぅ」



 ◆◇◆◇◆◇



 ということでまずは紗希ちゃんの順番がやって来た。 ステージの上でもいつもと変わらない元気な様子でポーズを取ったりセリフをしゃべったりしている。 これは凄い。


「脇チラお願いしまーす!」

「はーい。 チラッ」


 そんな要求もされるの? 何だかなぁ。

 紗希ちゃんの順番は終わり、次は私の出番になった。


「のんたんさーん!」

「ひゃいっ!」


 呼ばれたのでガチガチになりながらステージに上る。


「おおー! 花恋の制服!!」

「可憐だー! 素のままでも髪型とかタレ目がそっくりだ」

「うおー」


 パシャパシャ!


 と、いきなり撮影が始まった。 私は内股で小さくなりガクガク震える。 はぅぅ、やっぱりだめだよぅ。


「おお、仕草も完璧だ」

「あの臆病な感じ、完璧に再現してる!」


 パシャパシャ!


 どうやら私とよく似たキャラクターらしい。 その後も色々なポーズを要求されて何とか応えつつ、気付けば私の出番は終了していた。

 な、何とか乗り切れたよぅ。



 ◆◇◆◇◆◇



「お疲れ様のんたんー」

「亜美ちゃん……疲れたよぅ」

「何か知らないけど結構盛り上がってたじゃない」

「希望ちゃんのなりきり完璧だったのよ」


 と、紗希ちゃんが後ろからやって来た。 完璧だったと言われても……。


「あれは素なんだけど」

「わかってるわかってる。 たまたま選んだキャラが良かっただけよん。 また一緒に出ようねー」

「はぅ……もういいよぅ」

「あはは」


 と、私以外の皆は爆笑するのだった。


「でもでも、確実に成長してるよ! 努力の成果出てるよ希望ちゃん! さあ、次行ってみよう」

「ま、まだ何かやるのぅ?」

「何か面白いから一緒に行こっと」


 紗希ちゃんを加えて次なる特訓の地へ向かう事になるのでした。

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