第497話 とんだ置き土産

 ☆亜美視点☆


 西條邸のお庭を案内してもらい、ぐるっと回ってくる頃には良い時間となっていた。

 弥生ちゃん、宮下さんもそろそろ戻らないといけないとの事なので、少し寂しくはあるが駅まで見送りする事に。


「いやー、ほんまええもん見せてもろたし、美味いもん食べさせてもろたわ。 おおきにやで西條さん」

「本当。 あんな豪華なランチ、今後一生食べる機会ないかも」


 歩きながら、奈央ちゃんに礼を言う2人。

 そんな2人に「大した事はしていない」と返す奈央ちゃん。


「また来るといいわよ。 いつでも歓迎するわ」

「機会があれば是非」

「せやな」


 うんうん。 こうやって、他県の学校の子達とも仲良くなれる。 バレーボール様様だよ。


「次に会うのは来年にある日本代表合宿だなぁ」

「そやな。 あんさんらは受験勉強で練習時間取られへんやろ?」

「そだねぇ」

「今のうちに差を埋めておかないとね。 いつまでも2番手3番手なんて言わせないわよ」

「そやそや!」


 弥生ちゃんと宮下さんは受験等も無いことから、引退せずに今もバレー部に所属して練習を続けているとの事。

 春高にも出るのかと訊いてみたところ。


「選手としては登録されてへんよ。 大会は後輩達に任せるで」

「私もー」


 ということの様だ。

 それを聞いてホッと胸を撫で下ろしたのが、麻美ちゃんと渚ちゃん。


「よかったー。 2人が出てきたらさすがに勝ち目無いもんねー」

「ほんまやで」

「ウチや宮下さんが居らんからって、ナメてたら足元掬われるで?」

「そだぞー」


 高校バレーは、新たな世代がこれから鎬を削る事になるのだ。

 巷では黄金世代が終わった等と言われているらしいけど、まだまだ凄いプレーヤーが下からどんどん出てくることを期待しているよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 駅前へとやって来ると、夕ちゃん達男子も見送りに出て来ていた。

 中には珍しい人も……。


「あら? あれって三山じゃない?」

「いやはは、今日帰るってメールしたら見送りに来るって言うもんで」


 と、昨日連絡先を交換したばかりの宮下さんがそう言った。

 あれあれ? これは案外上手くいくのでは?


「見送りサンキューやで」

「おう」

「まあ、気にすんな」

「三山君もありがとうね」

「なんか凄い勢いで連絡先聞かれてなぁ……」


 あ、宮下さんは結構強引に行ったみたいだね。


「ごめんねごめんね! 君、競争率高そうだったからー」


 と、宮下さんが両手を合わせて謝ると「そんな事無いと思うけどなぁ……こいつらに比べたら」と、隣に並ぶ夕ちゃんと宏ちゃんを指差した。

 

「また連絡するねー?」

「お待ちしております」

「何よ? 三山も結構ノリ気じゃん」

「ふむ。 まだお互いの事全然知らんし、これからだがな」

「そうねー」


 うんうん。 ゆっくりゆっくり。


「さて。 ほなウチはそろそろ行くで。 新幹線逃したら寮入られへんようになってまうからな」

「じゃあねぇ! また来年!」

「おー。 皆も元気でな!」

「お姉ちゃんもやで!」

「ウチはいつも元気やー」


 手を振って改札を通過していく弥生ちゃん。

 最後にこちらを振り向いて、私に一言だけ残していくのであった。


「待ってるで! Vリーグのコートでー!」


 それだけを残して、去って行くのであった。


「本当に弥生っちは寝ても覚めても打倒清水さんね」

「あら? 私もそうですわよ?」

「あはは……奈央ちゃんもなんだ……」


 私は周りに敵を作り過ぎなのかな?


「んじゃ、私も行くねー。 また遊びに来るよ。 東京と千葉だし、そんな遠くないからね」

「そうね。 今度は私達が遊びに行くってのもありね」

「ははは! 是非是非。 歓迎するよん」


 最後まで元気な人である。

 最後に三山君と一言二言交わした宮下さんは、元気に手を振りながらホームへと向かって行った。


「静かになったねぇ」

「そうかしら?」

「なはははー! 美智香姉さらばだー!」

「おーさらばー麻美っち!」


 姿は見えないが、麻美ちゃんの声に反応して返事をする声が聞こえて来た。

 んー、やっぱりどこか似てる。


 弥生ちゃん、宮下さんを見送って、秋のメインイベントである月ノ木祭が終わったのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 それから数日経ったある日の事である。

 もうすぐ11月になろうかというこの時期、私達受験生は1月中旬にある大学入試共通テストおよび、大学個別試験に向けて猛勉強中……。

 だった筈なんだけど……。


「はぅーっ……」

「うわわ……40℃超えてるよ……」


 希望ちゃんが高熱を出して寝込んでしまった。

 どうやら麻疹に罹ったらしい。

 弥生ちゃん達を見送った翌日に一度発熱したが、すぐに解熱した為ただの風邪だと思ったらしいのだが、今日になって更に高熱を出したので病院に行った次第である。

 今日は私も学校をお休みして、希望ちゃんの看病である。

 私は既に麻疹に罹った事があるので、感染る心配は無いのだ。


「はぅー……大事な時期なのにぃ……」

「受験当日とかじゃなかっただけ救いだよ」

「そうだね……」

「んー、顔の辺りの発疹が目立ってきたねぇ」

「はぅ……不細工な顔を夕也くんに見られたくないよぅ……けほっ……」


 相当辛そうである。 私は赤ん坊の時に罹ったらしく全然記憶にないので、この苦しみはわからない。


「不細工ではないと思うけど……そんなぐらいで夕ちゃんは希望ちゃんを嫌いにならないよ?」

「はぅ……」


 夕ちゃんは今、学校に行っていて居ない。

 夕ちゃんが看病してもロクな事にならないからね。


「何か欲しい物ある?」

「ジュースぅ……」

「らじゃだよ」


 普段からあまり風邪をひいたりしない子だけに、一回倒れるととことん弱るのが希望ちゃんの特徴である。

 まあ、私も人の事は言えないけども。

 

「じゃあジュース入れてくるね」

「はぅー……」


 さてさて、この麻疹だけど……一体誰が持って来たのかというと……。


「そっちはどう? っと」


 私は麻疹の元凶にメールを入れる。

 すると、怒りマークをつけながら短い返事が返ってきた。


「死にそうや」


 そう、弥生ちゃんである。 どうやら寮生の間で少し前に罹った子がいたらしいのだが、そのウイルスに罹った弥生ちゃんが月ノ木祭に来たものだから、希望ちゃんが感染ってしまったというわけだ。

 とんだ置き土産である。

 弥生ちゃんが麻疹だと発覚した際に、こっちは誰か感染っていないかを聞いてきてくれたのだが、その時には既に希望ちゃんもこの有様だったわけだ。

 幸にして、希望ちゃん以外は皆麻疹に罹った事があるらしく、被害は最小限に収まっている。

 希望ちゃんに関しては熱が引くまでは私が付いていてあげないといけなさそうだ。

 明日も学校はお休みかなぁ。


 冷蔵庫からジュースを取り出してコップに注ぐ。


「希望ちゃんー」

「はぅー」


 苦しそうなのでストローを挿して、手で持ってあげる。


「ん……ありがとぅ」

「どういたしましてだよ。 困った事があったらすぐに呼ぶんだよ? 私は部屋にいるから」

「うん……」


 ひとまず私は部屋に戻る事にした。

 希望ちゃん、大丈夫かなぁ?

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