第470話 楽しかった
☆夕也視点☆
奈々美は相変わらずわけがわからない。 この後ラブホに行っても良いだのなんだのと……。
嫌というわけじゃないが、そういうことは恋人の宏太とすれば良いのに、俺の事も特別な相手だしとか言い出してやたら誘ってくるし、ようやく諦めたと思ったら「麻美や紗希とは良いくせに~」とかネチネチと文句を言ってくる。
困った奴である。
「ほれ、出るぞ」
「はいはーい……」
と、少々不貞腐れたように立ち上がり、空になったトレイを持って移動。 トレイ置き場に空トレイを置きファストフード店を出た。
「んで、次はどこ行きましょうかしらねー……」
「何でそんな不機嫌になる……」
「別にー? 行くとこないならもう帰る?」
と、デート終了の提案まで出る始末。
時間的にはまだ15時を過ぎたところで、デートを終えるにはまだ早いような気もする。
何より、このままでは奈々美も機嫌が直らないだろう。 せめて最後まで楽しい思いをさせてやらんと、せっかく誘ってくれたのに可哀想だ。
「何か見たいものとかなにのか? 行きたい場所は?」
「別に……」
さっきまで今日のデートは楽しいとか言ってたのに、ちょっと思い通りいかないとこうなるのか。
宏太の奴、苦労してそうだな。
「あのな、やっぱそういう事は恋人とするもんだろ?」
「麻美と紗希」
「あれは向こうから襲ってきたんだ!」
「拒否しなかった時点でどっちも一緒でしょ」
と、もっともなことを言われてしまいどもってしまう。
たしかどちらもその気になれば拒否できた事ではある……そうできなかったのはひとえに俺の流されやすい性格故だろう。
「はぁ、もういいわよ。 私もちょっと言ってみただけだし。 拒否されてちょっと女として傷ついただけよ。 せっかくの楽しい雰囲気に水差しちゃってごめんなさいね。 どっか行きましょ?」
と、手を差し出してきた奈々美。 どうやら今度こそ諦めてくれたようで、謝罪と共に笑顔を見せてくれた。
普段きつい目つきをしているしあんまり微笑んだりしない奴だが、こうやって優しく微笑むと可愛いんだよな。
「普段からもっとそういう表情したらどうだ? めっちゃ可愛いぞ」
「っ?! バ、バカ」
顔を赤くして俺の手をガシッと握る。
グキグキ……
「ぐおおおおお! 痛い痛い!! 砕ける!!」
「あ、ごめんつい」
握力強くなってないかこいつ……。 本当に手が握り潰されるかと思った。
多分宏太はしょっちゅうこんな目に合ってるんだろうな……あいつよく五体満足でいられるな。
「大丈夫?」
「あぁ、なんとかな。 で、どこ行くよ?」
「そ、そうねぇ。 どっかこの辺で映画館とかないかしらね?」
「映画か。 ちょっと調べてみるか」
スマホを出して周辺のスポット情報を出す。 すると、少し歩くが、映画館があることが確認できた。
「ちょっと歩くがあるぞ」
「本当? 行きましょ。 観たい映画あるのよ」
「おう」
どうやらもう機嫌は直っているようだ。 奈々美はまた手を握ってきて歩きだした。
「どんな映画だ?」
「アクションよアクション」
空いた方の手でシュッシュッとパンチを繰り出している。 やっぱそういうのが好きなんだなこいつ。
「恋愛映画とかは興味ないのか?」
「あるけど、今は観たいの無いわね」
「そうか」
「何? 私とそういうの観て良い雰囲気になりたいの?」
「何言ってんだバカ」
「何よ、ちょっとぐらいデレなさいよ。 私はこんなにデレデレしてあげてるのに」
「むしろお前は何でそんなに甘えてるんだよ」
「良いでしょ別に。 好きだからに決まってんでしょうが……ぶつぶつ」
と、小声で何か言ってるがよく聞こえない。 でも、何かが違えば俺と奈々美は普通にこうやって付き合っていた可能性もあるんだよな。
「ここかしら?」
「ん? おう、そうだな」
2人で駄弁りながら歩いていると、気付けば映画館の前に来ていた。
奈々美が観たいという映画がやっているのを確認して中に入る。
「お、ちょうどいい時間じゃない?」
「だな。 さっさとチケット買って待とうぜ」
「えぇ、そうね」
2人でチケット購入して劇場が開くのを待つ。
亜美や希望とも良く映画に来るが、皆それぞれ観る映画の傾向が違うんだな。
奈々美はアクションが好きか。
「開いたみたいよ」
「おう、んじゃ行くか」
奈々美と並んで劇場へ入り隣の席に着く。 結構客が入っているようだなぁ。
良く知らないが話題作なのかもしれない。
映画はバリバリの格闘アクションものであった。
主人公はとある宗派の天才拳士という設定で、世界一の男を決める大会に出場する為に旅に出るところから始まる。
いろんな出会いやライバルの登場などを経て、さらに成長を重ねた主人公は大会に参加し勝ち進んでいくが、その大会の裏には何やら黒い影が蠢いており、その陰謀に巻き込まれていく。
大会で出会ったライバル達と力を合わせて、巨大な陰謀に立ち向かいそれらを解決。 再開された大会で見事優勝して晴れて世界最強の男となり幕を閉じる……わけなんだが。
ドカッ! バキッ! ドゴッ!
「……」
ガンッ! ボコッ!
アクションシーンがやって来るたびに隣に座る奈々美の拳が俺の頭やら腹を殴ってくる。 あぁ、こいつは映画に夢中になって熱くなると手が出るタイプなのか……。
俺はこの時、もう2度と奈々美とアクション映画を観ないようにしようと心に誓った。
◆◇◆◇◆◇
「ご、ごめんってば……」
「……お前、無意識か」
「う……はい……」
なんつー厄介な奴だ。 無意識ではあるがちゃんと友人である俺だけを攻撃していたところはまあ不幸中の幸いだ。 全く知らない人を殴ったりしたら大変だ。
「大丈夫? ケガしてない?」
「ああ、大丈夫だ」
どうやら力は加減されていたようだ。 一応映画に集中していたのでその分殴る力は入っていなかったらしい。 こいつに本気で殴られてたらただじゃ済んでないだろう。 何せゲーセンのパンチングマシンでカンストを出す奴だからな。
「さて、そろそろ帰りましょうか?」
時計を見ると時間は18時を回っていた。 たしかに良い時間だ。
「よし、帰るか」
デートはこれで終了。 色々あったりもしたが、やっぱ新鮮で楽しいものだな。 奈々美何だかんだで楽しかったと言ってくれたし、これはこれで良いデートだった。
いつもの駅まで戻って来た俺達は、ゆっくりと家路へとつく。
「ねえ、またデートしましょうよ」
「何?」
「だって楽しかったでしょ?」
「そりゃまあそうだけどよ」
「じゃあ良いじゃない。 そだ、今度はWデートにしましょ。 夕也と私、宏太と亜美で入れ替えWデート」
「何だよそれは……」
何でわざわざ入れ替える必要があるんだよ……。 普通に恋人同士でWデートすりゃいいような気もするんだが?
それを奈々美に訊くと「それが面白いんじゃん」と言い出した。
「はぁ……まあ、皆で遊びに行くのは賛成だよ。 とりあえず受験終わってからな」
「そうね。 今はそこ優先ね。 デートしながら言うと説得力ないけど」
「違いないな」
奈々美を家まで送り届けて、別れ際にキスまでされてしまう。
奈々美は「また明日」と手を振って家に入っていくのであった。
「はぁ、まあこういうのも悪くはないな」
家に帰ると亜美と希望に根掘り葉掘り聞かれるのを避ける事は出来なかったのであった。
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