第471話 就職試験

 ☆亜美視点☆


 9月も中頃に差し掛かり、少しずつ涼しくなってきた今日この頃。


「出席取るぞ。 藍沢!」

「はい」


 と、今日も今日とて授業があります。

 

「佐々木……は、今日は欠席だな」

「……」


 そう、今日は宏ちゃんはお休みである。

 体調が悪いとかそういうわけじゃなくて、今日は宏ちゃんの就職試験の日だからだ。

 今日までずっと就職試験対策を頑張ってきた宏ちゃんなら、きっと大丈夫だろう。

 私は授業を受けながら、試験会場となるペットショップにいるであろう宏ちゃんにエールを送るのであった。



 ☆宏太視点☆


 現在、俺は就職試験会場である西條グループ傘下のペットショップへやってきている。

 我が校に求人は来ていなかったが、西條の口聞きで試験を受けさせてもらう事が出来るようになった。 西條に感謝だ。

 今は試験開始まで待つ時間である。 

 今日まで皆が受験勉強で忙しい中、時間を割いて面接対策等に協力してくれた。

 失敗だけは出来ないな。

 希望からは必勝祈願のお守りまでもらったしな。

 リラックスして周囲を見てみる。 俺以外に5人、就職試験会場にはいるようだ。 ペットシッターという事で、少し女子もいるようだ。 皆、緊張した面持ちで試験開始を待っている。

 皆、俺と同じように動物に携わる仕事に夢を持った人達なんだろうか。

 同じ志を持つ仲間ではあるが、負けるわけにはいかない。

 就職試験には定員というものがある。 今回採用されるのは3名。 つまり倍率2倍であり半分が落とされるのである。

 世知辛いな。


 座って待っていると、試験官らしき人が入室して来た。 何やらプリントを持っているが、筆記試験用紙であろう。

 大学受験みたいな難問は無いだろうが、常識レベルの問題は出されるはずだと、亜美ちゃんが言っていた。 その対策も亜美ちゃんが勉強メニューを組んでくれたのでバッチリだ。


 用紙が裏向けで2枚配られた。

 

「10時から筆記試験を開始します。 時間は1時間。 問題は簡単な物ですので、慌てずに解いてください。 終わった方は用紙を裏向けに置いて退室して頂いて結構です。 時間ですね。 始めてください」


 その一声でプリントを表向け、問題を確認する。 パッと見てわかるレベルの常識問題だ。

 しかも、亜美ちゃんが出してくれたような問題が多い。

 さすが亜美ちゃんだぜ。

 

 カリカリ……


 算数レベルの問題等、至って簡単な問題や、簡単な英単語や英文を問題。 小学生でもわかる漢字の読み書き等、正に実力を測るというよりは最低レベルの常識がわかるかどうかを試しているような試験だ。


「……ん」


 漢字を終えて早々に2枚目に入った俺は、筆をピタッと止めて問題の内容を確認する。

 

「……」


 生物か。 なるほど、さすがペットショップの採用試験だ。 扱う生き物に対する知識は必要だからな。

 俺の生物の知識、ナメるなよ?


 カリカリ……


 

 ◆◇◆◇◆◇



 筆記試験を終え、隣の待合室で時間が来るまで待つ。

 2回も見直しをしたし、筆記は問題無さそうだ。 やはり問題は面接。 亜美ちゃんや西條が色々と対策や質問への返事なんか一緒に考えてくれて、練習にも付き合ってくれたし。


「大丈夫だ」


 自分に言い聞かせてその時を待つ。


 筆記試験終了後には少しの休憩時間があり、その後から面接試験があるとの事。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 さて、面接試験が始まり、受験者が順番に呼ばれている。

 そして次は俺の順番になる。


「……」

「佐々木さんどうぞ」

「はい」


 ついに呼ばれたので、ゆっくりと面接が行われている部屋の前へと移動した。

 

 息を整えて、練習を思い出す。

 よし!


 コンコンコン……


「どうぞ」

「失礼します!」


 いざ、難関の面接へ!


 

 ◆◇◆◇◆◇



 面接は15分に及んだ。 亜美ちゃんや西條が言っていたような質問もあれば、逆にこちらから質問する事は無いかも聞かれたりした。

 さすが相手も面接の試験官として場数を踏んでいるだけあり、相手の緊張を解すのも上手かった。 かなり手応えを感じる内容だったので、結果がついてくる事を祈るのみだ。


「最後に1つ良いですか?」

「はい?」


 先程面接はこれで終了だと言っていたが、まだ何かあるのだろうか?


「これは皆さんにお聞きしてるのですが……当店で働く上で最も必要な事があるのです」

「……」


 黙って面接官の質問を待つ。

 すると、真剣な顔でこう訊いてきた。


「動物は好きですか?」


 何だ……そんな事を今更聞くのか。

 俺は笑顔で自信満々に応えた。


「大好きです!」


 

 ◆◇◆◇◆◇



 翌日──


 学校へやって来た俺は、友人達に囲まれていた。


「どうだったの佐々木ー!」

「何かやらかしたか?」


 神崎と蒼井は俺のやらかし話を聞きたいらしいが、生憎とそういうやらかしは1つも無かった事を告げると「つまんないけど、良かったじゃん! 採用待った無し!」と言った。


「本当、皆のおかげで無事に乗り切れた。 サンキューな」

「私は何もしてないぞ」

「俺もな」


 と、本当に何の役にも立たなかった蒼井と夕也が言う。 まあ、応援してくれたしそういうところに感謝だ。


「亜美ちゃんと、特に西條には本当に色々世話になったな」

「いやいや」

「まだ気が早いですわよー? 手応えをは良かったみたいですけど、倍率2倍でしょ?」

「まあな……後は祈るだけだ」

「はぅはぅ……必勝の神様ー宏太くんに採用通知をー……」


 と、意味のわからない神頼みを始めたのは希望。 こいつも色々力になってくれたな。

 大体神頼みとかお祈りしかしてなかったが。


「通知はいつ届くのよ?」

「月末には結果を通知するって言ってたぜ。 まだしばらく胃が痛む時間が続くな」

「あんたの体ってそんなナイーブに出来てたかしら?」

「うっせー! まじ緊張するんだぞ!」


 やりたい仕事に就けるかどうか。 そう考えると今までに経験したことのない様な緊張や不安がのしかかっていた。

 今は一つ山を越えた事で、正に肩の荷が降りた様な感覚だ。


「でも良いな。 これで内定貰えたら、いち早く就職試験や受験勉強から解放されるんだろ?」

「それな」

「あのねぇ宏ちゃん……ちゃんと卒業しなきゃ意味無いんだからね?」


 と、亜美ちゃんは呆れた様に言い「これはまだまだ家庭教師の亜美ちゃんが必要だよ」と、何処からか伊達メガネを取り出して掛けるのであった。


「まあ、月末には皆に良い報告が出来る事を、俺も願うぜ」

「内定取れたら皆でパーティーしましょうよ」

「賛成だよ!」


 と、気が早いのは俺だけじゃなかったようだ。

 まだ開けるかもわからないパーティーの話で盛り上がる友人達。

 月末には皆で騒ぎたいものである。



 ☆亜美視点☆


 何とか宏ちゃんは就職試験を乗り切ったようだ。 手応えもかなり感じているらしいし、これは期待出来るねぇ。

 私達も貴重な勉強時間を使って協力した甲斐があったよ。

 後は良い結果が聞けるのを待つのみである。


 さて、1つ山を越えたところで話題は次なるイベント。

 月ノ木祭の話題だよ。

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