第460話 発破

 ☆麻美視点☆


 今年の夏祭りはお姉ちゃん達のグループに混ざることにした。

 渚も無理矢理に混ぜたので、計7人で行動することとなったよー。 亜美姉は車椅子に乗り、後ろから夕也兄ぃに押してもらって移動している。

 その後ろに私と渚は位置取っているよー。


「夕也兄ぃ、大変だねー」

「ん? 亜美の方が大変だぞ」

「あー、そっかー」


 足が使えないと歩いたりするのも大変だねー。 松葉杖で歩いてるのを見たからわかるよ。


「亜美姉ー、この経験もお仕事に活かすんだよ!」

「おおー! そだねぇ!」


 お仕事っていうのは、私と亜美姉の共通のお仕事である小説家の事だ。

 人生経験の少ない私達は、色んなことを経験してそれを活かしていかなければならない。

 亜美姉は才能でカバーしているところもあるみたいだけど。

 何でも出来る亜美姉が羨ましいねー。


「んで? まずどこ行くのよ?」

「そりゃお前、腹ごしらえだろ」


 お姉ちゃんが聞くと宏太兄ぃが即答する。 さすが宏太兄ぃだね。 食べる事しか考えてないよー。

 でも、皆お腹が空いているようだったのでそれに賛同。

 次は何を食べるのかという話になると……。


「それならやっぱり、焼きそばだよ」


 即答したのは亜美姉。 焼きそば屋台というと、毎年八百屋のおっちゃんがやってたっけ。

 あのおっちゃん、この辺の人の顔を皆覚えてたりして凄いんだよねー。

 私達は亜美姉の提案に乗り、八百屋のおっちゃんがやっている焼きそばの屋台を探した。

 少し歩いたところで「焼きそば」と書かれた屋台を発見。 遠目に見てもわかる八百屋のおっちゃんの姿。


「あったあった」

「よし行くか」


 私達7人でぞろぞろと屋台の前に移動する。

 おっちゃんは私達の姿を確認するとニカッと笑みを浮かべる。


「お、来たなー! 毎年来てくれてありがとよっ!」

「あはは、おじさん元気だねぇ」

「ぬお?! 亜美ちゃん、車椅子に乗ってどうしたんだい!?」


 亜美姉の姿を見て大声を上げるおっちゃん。 亜美姉って、駅前通りの辺りではお姫様扱いだからねぇ。 おっちゃんは亜美姉の怪我の事知らなかったのかー。

 亜美姉はケガをしたことをおっちゃんに説明している。

 おっちゃんはその話を聞きながら、手際よく焼きそばを焼いている。


「そうかい……大会中にケガかい。 奈々美ちゃんのその右手と同時にねぇ。 いや、青春だがケガには気を付けんとなー」

「あはは……はい……」

「奈々美がケガするなんてびっくりだよなおっちゃん」

「おう、そうだなー!」

「宏太だけならまだしもおっちゃんまで……」


 ゴゴゴゴォ……


 お姉ちゃんが黒いオーラを出しながらプルプル震えるのであった。

 お姉ちゃん怖いんだから怒らせちゃダメだよー。


 ジュージュー……


「渚ちゃんもいつも野菜買ってくれてありがとうよ」

「いえいえ!」


 渚もおっちゃんの八百屋の常連らしい。 美味しいんだよねー、おっちゃんの店のお野菜。

 私達は、人数分の焼きそばを買ってその場を後にした。


「これからもうちの八百屋をごひいきに~!」


 しっかり宣伝もしていくおっちゃんだった。

 私達は近場の休憩所のベンチに座り、焼きそばを頬張る。


「ズルズル……美味しいー」


 おっちゃんの焼きそばは絶品だ。 何でこんなに美味しく焼けるんだろー?

 お野菜もお店の物を使ってるみたいだ。


「さすがおっちゃんの焼きそばだな」

「本当、年1回の楽しみよねこれ」


 皆も大絶賛の焼きそば。 私と渚は先にに食べ終わったので、空になったパックをゴミ箱へ捨てに行く事にした。


「渚ー。 大学、七星にするつもりなんだってー?」


 2人になったところで、大学受験の話を渚に振ってみる。 当初は大学は京都に戻って地元の大学を受験すると言っていたんだけど、最近になってこっちの七星大学を受けようか迷っているという話を聞いた。


「そやね。 両親に話してちょっと色々言われたけど、こっちで七星受けるつもりでおるよ」

「おーじゃあ、来年一緒に受験勉強頑張ろう!」

「せやな」


 さて、どういう風の吹き回しで受験先を変えたのだろう? 聞いてみますかー。


「ずばり、夕也兄ぃがいるから?」

「べ、別にそういうわけはあらへんで?!」


 うわー、わかりやすい反応するなー。

 最近はなんだか心境の変化でもあったのか、ちょっと夕也兄ぃ対して積極的になりつつある渚。

 でも、まだまだこんな感じである。

 同じ大学を受ける為この街に残る事になるのでまだ時間的な猶予はある。

 あるにはあるけど……。


「まだそんなこと言ってるのー?」

「うぐっ……」

「たしかに、夕也兄ぃには亜美姉がいるし、私や渚の事は可愛い後輩ぐらいにしか思ってないかもしれないよ? でも……」

「わかっとる。 わかっとるよ。 ちょっと時間が欲しいだけなんよ」


 と、渚は下を俯きながらそう言った。

 渚には渚の考えがあるらしい。 私が思った以上に、渚は前に進んでいるみたいだ。


「もうちょいだけ可愛い後輩でいさせてや……気持ちを伝えてもうたら、今までみたいにはいかへんかもしれへんやん?」

「渚……」


 今の先輩後輩の関係が、気持ちを伝えてフラれる事によって壊れてしまうかもしれない。

 渚はそんな風に考えているみたい。


「渚。 私と夕也兄ぃを見てまだそんな風に思う?」

「え……」


 私は今年の初めの方に、夕也兄ぃに気持ちを伝えた。

 もちろんフラれたのはフラれたけど、私と夕也兄ぃの関係は以前と何も変わらない。

 いや、正確に言うと、夕也兄ぃが私を1人の女の子として認識してくれた分、少し変わったかもしれない。


「心配しすぎだよ。 夕也兄ぃも渚も、そんなんで関係が変わったりしないよ」

「あ、麻美……」

「頑張りなよー!」


 私は渚の肩をポンッと叩いて、皆の元へと戻る。

 渚はしばらくポカンとしていたが、慌てて私の後についてくるのだった。


 お姉ちゃん達の元へ戻ると、まだ焼きそばを食べている希望姉を皆で待っていた。


「はぅ。 ズルズル……」

「あはは、慌てなくて良いよ」

「そうよ」

「うん。 ズルズル……」

「おう、2人とも遅かったな。 パック捨てに行くのに何処まで行ったんだよ」

「いやー、ちょっと話し込んじゃってー。 ね、渚」

「え、あ、そやな。 進路の事とか」


 まあ、間違ってはいないか。 私も、渚ともう少し一緒に遊べるなら嬉しいし、是非2人で七星大に合格したいところだよー。


「進路? 渚ちゃんは京都に戻るんだっけ?」

「あー、それなんですけど……こっちで七星大学受けようかと」

「へぇ。 私や夕也と同じね」

「私もだよー!」

「ズルズル……それじゃ、合格したらしばらくはこっちに?」

「そうなりますね。 まあ、受験は再来年なんで先の話ですが」

「あっという間だぜ?」

「そうよ」


 3年の先輩が言うと説得力があるねー。

 1年ちょっとなんてあっという間に過ぎるみたいだ。


「ふぅむ。 でも七星かぁ。 そかそかなるほど……」


 亜美姉は何か納得したように頷きながら、渚をジト目で見つめている。

 あー、やっぱりわかりやすいよねー。

 これでわからないのは、夕也兄ぃぐらいなものだよー。

 案の定、夕也兄ぃは渚の気持ちも知らないで「頑張れよなー。 ってまず俺達か」とか言いながら、渚の頭をぽんぽんと優しく叩いていた。

 渚も近い内に、夕也兄ぃに気持ちを伝えるかもしれないね。

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