第454話 栄光の瞬間

 ☆亜美視点☆


 第4セット終盤も終盤にきて、ようやく2点のリードを奪った。

 あと2点だよ。

 私も右足踏切りが実用レベルだと確認出来たし……。


「いけるよ! あともう少し頑張ろう!」

「当たり前よ!」


 奈々ちゃんが大声で応える。

 物心ついた時からいつも一緒にいた、一番の親友。 お互いに色々と助け合ったりして今まで生きてきた。

 バレーボールを始めるって言った時も、何も言わずに「私もやる」と言ってくれたねぇ。

 私の頼れる相棒だよ。


「紗希! サービスエース!」

「出来たらね!」


 パァン!


 紗希ちゃんのサーブが飛んでいく。

 それは川道さんに拾われて、永瀬さんの頭上へ上がる。

 残念ながらサービスエースにはならなかったけど良いサーブだった。


「美智香! 頼む!」

「おりゃ!」


 パァン!


 宮下さんのバックアタックが綺麗に決まる。

 ここまで来ても衰えないその攻撃力には、苦笑いしか出ない。

 

「まだまだー!」


 宮下さん始め、都姫女子のメンバーは第5セットを戦う気でいる。

 まだ気が抜けないね。


 田辺さんのサーブが回ってくる。

 都姫女子の攻撃力が最も下がり、守備力も下がるタイミングだ。

 

 パァン!


「オーライ!」


 私の方に飛んで来たサーブを、しっかりと処理して、ついでに助走の準備にも入る。

 右足踏み切りの為に、右足から助走を開始する。

 前衛にいるアタッカーは私だけ。 麻美ちゃんもクイックは上手い方だけど、ここはやはり私にトスが上がる。


「てやー!」


 右足で踏切り、大ジャンプからのスパイクを放つ。


 ピッ!


「きたきたきたー!」


 マッチポイントだ。 私達が離脱している間。渚ちゃんとマリアちゃんが頑張ってくれたおかげでここまで辿り着けたよ。

 あと1点。


「やっぱり強いねー、月ノ木さんは」


 宮下さんが言うが、まだ諦めた様子はない。

 当然、まだ逆転するつもりでいるはずだ。

 私達はローテーションしてサーブに移る。

 ここで麻美ちゃんのサーブだ。


「決めなさいよ麻美ー!」

「入れてこー!」

「任せてー!」


 このプレッシャーのかかる場面でも、普段通りにリラックスした様子の麻美ちゃん。

 凄い度胸だ。


「よいしょっ!」


 パァン!


 パス……


 麻美ちゃんのサーブは、ネットに引っ掛かり自軍コートに落ちてきた。

 つまるところサーブミスである。


「あら、ラッキー!」

「あわわわ……ご、ごめんなさいー!」


 珍しく狼狽える麻美ちゃん。

 やっぱりかなりプレッシャーを感じていたんだねぇ。


「大丈夫だよ。 後は任せて」

「そうそう。 後はベンチで見てなさい」

「うん……」


 ここで麻美ちゃんはベンチに下がり、希望ちゃんと交替。

 最後の最後でミスしてコートを出るというのは、さぞ悔しいだろう。

 出来るなら、最後までコートでプレーしたいと思ってるはず。


「麻美は頑張ったわよ。 あの宮下さん相手に負けてなかったし、あんたがいなかったらこのセットだってどうなってたか……胸張って誇りなさい」


 姉である奈々ちゃんが、麻美の頭をポンポンと叩きながらそう優しく声を掛ける。

 麻美ちゃんは「うん」と小さく頷き……。


「後は任せるよ先輩達ー! 絶対決めてねー!」


 と、元気良くそう言い、希望ちゃんと交替した。


「はぅ、麻美ちゃんの所為で負けたなんて言わせないよぅ! このプレーで決めよぅ!」


 コートに入ってきた希望ちゃんも、かなり燃えているようだ。

 これが私達のラストプレーになるかもしれない。

 そんな場面で、コートの中にいるのは偶然なのかわからないけど、3年生メンバー6人。

 それぞれがポジションについて、相手のサーブを待つ。

 お相手さんのサーブは高井さん。

 ここでブレイクされようものなら、24ー24となりデュースへ突入。

 更に相手コートには新田さんが戻ってくる。

 そうなるとかなり厳しい戦いになるので、このプレーで決めるという事がいかに大事か。


「ナイサー!」


 サーブが飛んできた。 それを冷静に拾うのは希望ちゃん。 奈央ちゃんがすぐに定位置へ移動し、トスの体勢に入る。

 

「そいっ!」


 と、そこから相手の裏をかいたツーアタックを仕掛けた。

 何て肝の座ったプレーを……。

 この場面でそれを選択出来るなんて、只者じゃないよ。


「何してくれてるのー!?」


 私達のスパイクを警戒していた都姫女子サイドは当然そうなる。

 川道さんが咄嗟に反応して、辛うじてボールを拾ってきた。


「拾うかぁ……」


 仕掛けた奈央ちゃんも、少し残念そうだ。

 さあ、今度はこっちが凌ぐ番だよ。


「止めるよ!」


 川道さんが何とか拾ったボールを、永瀬さんが上げる。

 ここは宮下さんのバックアタックを使ってきた。


「決まれ!」


 パァン!


 強烈なスパイクが襲う。


「はぅ!」


 それを信じられない反応速度でダイビングレシーブする希望ちゃん。


「さすが!」

「えーい! 化け物!」


 希望ちゃんも化け物認定されたね。 宮下さんに言わせるんだから凄いよ。


「ほい奈々美!」

「おーし!」


 今度はエース奈々ちゃんへのトス。

 バックアタックのお返しをお見舞いする。


「まだまだ!」


 それを拾うのは宮下さん。 奈々ちゃんのスパイクの威力が落ちたのか、宮下さんが上手いだけなのかわからないけど、これでも決まらないようだ。


「手首痛いんだからさっさと終わりにしてよね!」

「じゃあベンチに下がったら良いでしょっ!」


 謎の舌戦を繰り広げながら、再度バックアタックを仕掛けてくる宮下さん。


「通さん!」


 それをブロックする遥ちゃん。 しかし、ボールは大きく跳ね上がり、コート外へ飛んでいく。


「落とすかー!!」


 それを見た奈央ちゃんが、ものすごいスピードでボールを追いかけてダイビングレシーブ。

 更にその後をついて行った紗希ちゃんが、続けてアンダーバンドでコート内にボールを運ぶ。

 これは返すだけになりそうだ。


「打つから下がって!」


 そう言って突っ込んで来たのは奈々ちゃん。

 打つって、この難しいボールを?


「はっ!」


 ネットからはだいぶ遠い位置だけど、それでもスパイクしようと跳び上がる奈々ちゃん。

 加減を間違えればアウトになる可能性が高いけど……。


「終われっ!」


 パァン!


 奈々ちゃんのスパイクが、都姫女子コートへ飛んでいく。

 際どい。 エンドラインを割るかどうか。


「これは拾う!」


 宮下さんが足を伸ばしてボールを拾った。

 今の場面で運に頼るという択を即捨てられる宮下さんはさすがだ。


「えーいしつこいわよ!」


 どちらも一歩も退かないラリーが続く。

 どちらのチームも、勝つ為には絶対に落とせないポイント。

 

 パァン!


 田辺さんのスパイク。

 それを真正面から拾うのは奈央ちゃん。

 セッターを封じられたが……。


「 任せて!」


 希望ちゃんが走り出して、アタックラインの手前で跳び上がる。

 こんな時の為に練習したオーバーハンドトスだ。

 頼むよ希望ちゃん。

 私は希望ちゃんを信じて、マイナステンポで助走を開始した。

 それを見た奈々ちゃん、紗希ちゃん、遥ちゃんまで同時に動き出す。

 同時高速連携だ。

 ただ、希望ちゃんはこの連携の練習はしていない。

 まともにオーバーハンドで上げられるようになるので精一杯だったのだから。

 誰とも合わせたことなんかないけど、それでも私がマイナスを選んだのには理由がある。

 私は希望ちゃんを信じて、痛む左足で全力ジャンプをする。


「っ!」


 そして迷わずに右手を振り抜いた。

 私と希望ちゃんなら、練習なんてしなくても完璧に合わせられる!


 パァン!


 振り抜いた掌に、ボールがインパクトする感触がきた。


「ドンピシャ!」


 私と希望ちゃんによる高速連携は、都姫女子の誰一人反応出来ないままコートに着弾した。

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