第453話 終盤の攻防
☆亜美視点☆
決勝戦第4セット19-20。
宮下さんが観客を味方につけてサービスエースを決めてきた。
会場の観客達の中には、私達月ノ木学園が負けるシーンを見たいという人達も多いということだろう。
高校大会目下4連覇中の私達が倒されるところを見たいと思う人がいるのもまあ頷ける。
「やりにくいけど、皆気にせず頑張ろうね」
「了解!」
さて、宮下さんのサーブをまずは止めるところからだ。
パァン!
相変わらず勢いに乗っている宮下さんのサーブ。 私はどんな際どいボールでも拾う事にした。
「はいっ!」
今度のサーブは何とかレセプションに成功。 奈央ちゃんへとボールを上げる。
奈央ちゃんはそれを確認してゆっくりセットアップ。
前衛の各選手が順番に助走に入る。
麻美ちゃんが珍しくサードテンポに構えている。 いつもは大体ファーストテンポなんだけどねぇ。
代わりに紗希ちゃんが既に走り出していて、奈々ちゃんはブロックフォローの体勢に入った。
何だかいつもと違うけど、3人で何かサインプレーでもしてるのかな?
「麻美いけ!」
レフトへと走り込んだ麻美ちゃん。 そこへトスを合わせようとする奈央ちゃん。
だけど、言葉とは裏腹にトスが上がったのはなんと紗希ちゃんの方。
うわわ、今の奈央ちゃんのブラフでブロックが2枚麻美ちゃんの方へ移動してる。
卑怯だよぉ。
「きゃはは! 奈央も悪よのぅ!」
スパァン!
ノーブロックになったコースを、紗希ちゃんが悠々と打ち抜いていく。
ピッ!
「勝つ為にはこれぐらいやるわよー」
と、奈央ちゃんは何食わぬ顔でそう言ってのけた。
まぁ、勝負に卑怯も何も無いよねぇ。
大体私達は不利な状況なんだし、多少の事は目を瞑ってもらいたい。
「やってくれるわねー……」
田辺さんがちょっとピキピキしながそう言うと、後ろから宮下さんが「あははは、ナベっち怒んないのー」と宥める。
とりあえず事なきを得てローテーションに入る。
今度は奈々ちゃんのサーブ。
利き手の手首を捻挫してしまった奈々ちゃんは、コートに戻ってきて以来強烈なサーブの数を減らしてフローターサーブを多用している。
普段練習してないからへなちょこだけどねぇ。 手首へのダメージを考慮して選択なんだろうし、仕方がない。
今回のサーブもそのへなちょこサーブを打っていく。
「ナイスへなちょこサーブだよー!」
「やかましい」
奈々ちゃんを煽るように声を掛けると後ろからすぐに反応があった。 面白い。
へなちょこサーブはあっさりと川道さんに拾われている。 簡単にチャンスボールにされてるねぇ。
宮下さんのバックアタックが一番の警戒対象だ。
ライトで待機する宮下さんに、こちら側もレフト側に3人を固めるデディケートブロックで対応する。
これは、田辺さんも宮下さんもライトから打ってくる可能性が高いからである。
あ、ちなみにデディケートブロックっていうのは、ブロッカー3人をアウトサイドのどちらか一方に固めたブロックフォーメーション。 センターと逆サイドががら空きになる代わりに、固めた方のサイドは3人でガッチリとブロックできるフォーメーションだ。
今回みたいに、相手チームのメインアタッカーがライトに固まった時などに狙うよ。
うちのチームでは遥ちゃんか麻美ちゃんが指示を出すようになっている。
立ち位置はストレートを閉めた位置取り。 これはセンターや逆サイドががら空きの為、後衛がそちら寄りの守備につく為である。
「いけー美智香ー!」
「おおー!」
と、言いつつもトスはセンターの高井さんへと送られる。 さっきの奈央ちゃんと同じことを早速やって来たよ。
でもさすがに3枚ブロックにはぶつけてこなかったか。
パァン!
高井さんのクイックを、私が何とか拾い上げる。
が、ちょっと乱れてしまっている。 でもこの程度なら奈央ちゃんが何とかしてくれる。
ここで紗希ちゃんと麻美ちゃんのコンビネーションに、奈々ちゃんもバックアタックで混ざっていく。 私と遥ちゃんはブロックのフォローだよ。
「はい!」
トスはセンターの麻美ちゃんの上を越えて奈々ちゃんに合わされる。 奈々ちゃんのバックアタックだけど、あの手でどれほどのスパイクを打てるだろうか。
「っ!」
スパァン!
いつもと変わらないインパクト音をさせて強力なスパイクを放つ奈々ちゃん。 だけど、着地後の奈々ちゃんの顔は痛みで少し歪んでいる。 でも、その痛みの代償として1点を返した。
ここで21-20と再逆転。 宮下さんのサービスエースを帳消しにすることが出来た。
「うっしゃー! もう1ブレイクとるわよー!!」
手首が痛いのを我慢して気合いを入れる奈々ちゃん。 このセットもあと少し。
私達はこのセットで終わらせるつもりでいるので、もう力を温存する気は無い。
残りの得点、死に物狂いで取りに行くよ。
「っぁ!」
パァン!
奈々ちゃんもここからは右手を温存するのは終わりらしい。 へなちょこサーブをやめていつものパワーサーブに切り替えてきた。
「うわっと!」
それを宮下さんが乱しながらもレセプション。 凄い威力だったねぇ。
宮下さんの体勢も崩せているし、これはブレイクチャンスなのでは?
「ここ止めるよ!」
ここは宮下さんも体勢を崩している上に後衛という事で、警戒度は薄目。 麻美ちゃんもスプレットブロックのサイン。 レフト、センター、ライトに1人ずつブロックに入る形である。
後衛の私達で抜かれたボールを拾う。
さてさて、永瀬さんのトスはどこへ?
「いけー!」
永瀬さんが思いっ切り高くトスを上げる。 こ、これは宮下さんへのトス?
高く上げて、宮下さんが体勢を立て直す時間を稼いだようだ。 エースへの揺るぎない信頼には 恐れ入る。
麻美ちゃんもそれを見て奈央ちゃんの隣へ移動、紗希ちゃんは少し下がってこぼれ球の対処に回る。
「永瀬っちさんきゅー!」
きっちり体勢を立て直して助走に入る宮下さん。
パァン!
宮下さんのスパイクは、奈央ちゃんの上を軽く抜いてストレートに決めてくる。
「ごめん、届かなかった」
「どんまい」
21-21でこのまま進むとデュースだ。 長期戦にはしたくないのでもう1ブレイクを何とか取らないと。
次の攻撃を紗希ちゃんがしっかり決めて22-21。
サーブは紗希ちゃんに移る。
「よーし! いっくよー! おりゃ!」
紗希ちゃんのサーブが真っすぐ足立さんの方へ飛んでいくが、あっさりと拾われてしまい永瀬さんに繋がる。 永瀬さんから今度は田辺さんに合わせる。
「っ!」
パァン!
田辺さんのスパイクをブロックに当てる麻美ちゃん。 そのフォローに紗希ちゃんが入り、何とかボールを繋ぐことに成功。 すぐさま奈央ちゃんが走っていく。
よし私も助走だ。
と。左足を踏み出した瞬間に、激痛が走りうずくまってしまう。
「っ……」
本当に捻挫で済んでればいいんだけど……。 でも今はそんな事どうでもいい。
「っ亜美ちゃん!」
奈央ちゃんからはすでに私へのトスが飛んできている。
「うーーー!」
右足を前に出して再度助走を開始。 左足を出して右足で踏み切る。
右利きの私が右手でボールを打つ際に踏み切る足は通常左足。 でも、今左足で強く踏み切ることはできないだろう。 それなら不慣れでも右足で踏み切った方が良い。
少し体が開いてバランスが取りにくいけどそれでも。
「高い!?」
「っあ!」
パァン!
ブロックの上を打ち抜いて、大きなブレイクポイントを奪った。
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