第434話 技と力
☆弥生視点☆
インハイ準々決勝、対戦相手は強豪の東京都姫女子。
全日本ユースの時はチームメイトやった宮下さんがおるとこや。
宮下さんとは個人的に連絡先を交換したりして、それなりに交流がある。
聞いた話によると、練習試合とはいえ月ノ木学園に勝ったっちゅう事らしい。
たしかに、ここに来てチーム力がかなり上がっとるみたいや。 1年生時の夏大会とは比較にならんぐらい強うなっとる。
んで、これも聞いた話やけど、卒業後はVリーグへ進むらしい。
うちと同じ東京を拠点にしてる東京クリムフェニックスに所属するとのこと。 つまりは未来のチームメイトやな。
せやけど今は敵同士。 負けるわけにはいかんで。 公式戦の場で月ノ木学園を……清水亜美を倒すのはウチら京都立華や。
「月島さん!」
ウチに上がったトスに跳びついて、ブロックの手間を狙ってスパイクを打ち込む。
「ボール1個分空いてんで!」
スパァン!
「ワザと空けてんのよ!」
ブロックに飛んでいた宮下さんが、不敵に笑いながらそう言った。
何やて? ワザと?
「はいっ!」
パァン!
ウチが打ち込んだコース上に、小さな影が走り込んできて、正面からスパイクを拾う。
「新田千沙っ!?」
都姫女子の正リベロプレーヤー。
要注意プレーヤーに名前が挙がっとった2年生や。
「っ! 打たされたか!」
宮下さんが「そゆこと」と、残しながらネットから離れて助走準備に入る。
「キャミィ! 止めるで!」
「ラジャーやで!」
誰や……誰にトスが上がるんや。
去年までの都姫女子なら、迷わず宮下さんを使ってきたわかりやすいチームやった。
せやけど、今年の都姫女子はOH全体に満遍なくトスが上がるようになっとる。
亜美ちゃんが電話で言うとった意味がようわかったわ。
「今年の都姫女子は強いよ」
ボールは、レフトに速いトスが上がり、MBの足立さんのクイックが決まる。
ピッ!
ここでテクニカルタイムアウトに入る。
得点は6ー8で都姫女子リード。 上手いことやられてもうとる。
ベンチへ戻って、コーチから指示が飛ぶ。
「宮下は上手い! せやけど止められへん選手やない! しっかりブロックにつけ! スキを見せるな! あと、新田や! 要注意や言うたやろ! ナメてかかるな! 以上や! 行ってこい!」
「はい!」
短いテクニカルタイムアウトを終えて、コートへ戻るウチら。 まだ序盤も序盤や。 勝負はまだわからんで。
都姫女子サイドのサーブが飛んでくる。
三葉さんがレセプションし、上がったボールの下へ白石さんが移動し、トスに構える。
ウチはオープン攻撃に備えて、一番遅く動き出す。
「月島さん! 頼んだで!」
もう一度ウチにトスが上がる。
「よっしゃ!」
上がったボールに対して助走を開始し、大きく跳び上がる。
最高到達点に達したところで、前方にはブロック2枚。 ストレートを締めてクロス打ちに誘導しとる。 当然そのクロスには新田千沙が待ち構えとる。
「ナメんなや!」
スパァン!
こちとら京都立華のエース張ってんねん。 そう何度も何度も止められてたまるかっちゅうんや。
ウチの打ったスパイクを正面から拾おうとするも、威力を殺しきれんで大きく後逸する。
他の後衛が、走ってボールを追いかけるも、届かず落球。
「っしゃあ!」
新田千沙からゴリ押しのスパイクを決める事に成功。
あれはまだまだ、月ノ木の雪村さんの域には達してへんな。
「すんごいパワーね」
「技がそっちやったらウチはパワーや。 ブロックもリベロも関係あらへん。 全部ぶち抜いたるさかい覚悟しいや」
「怖い怖い。 でもさ、私達は月島さん以上のパワースパイカーとやり合ったことあるのよね」
宮下さんは、まだどこか余裕がある感じでそう言って、髪を結い直す。
ウチ以上のパワースパイカー……まあ、そんな頭のおかしいプレーヤーを2人知っとるけどやな……。
1人はウチのキャミィ。 こいつのパワーもアホみたいにあるけどやな……。
「ナンヤ?」
「いや、なんでもあらへん」
もっと末恐ろしいのが、あそこに座っとるわ。
腕組みなんかして高みの見物しよってからに。
月ノ木学園の紛れもないエース、藍沢奈々美。
国内トップ……いや、もしかしたら世界でも数本指に入るパワースパイカーかもしれんで。
「あれと一緒にすなや」
「あははは。 テクニックや高さなら月島さんのが上っしょ。 だからこそ全国の2番目扱いなんだし」
「ぐっ……2番目言うなや」
ローテーションして、腰を落とす。
全国最強にして世界最高
「あれを倒すのはウチや」
ウチらサイドのサーブが、勢いよく相手コートへ飛んでいく。
新田千沙の正面。 いや、正面になるように動いたんか。
あっさりと、拾われてボールが
トスの上がる方向を見てから……。
「美智香いけっ!」
ブロックにつく。
「止めたる!」
ブロックを2枚形成し、手間もしっかり埋める。 ストレートのコースも殺して、これでクロス以外には打てへんで。
「並のプレーヤーならねっ!」
宮下さんのスパイクはクロス……ではなく、ストレートに打たれた。
しかし、微妙に角度のついたスパイクは、ライン寄りのブロックに当てられ、ブロックアウトを誘発する。
ピッ!
「まだまだ、ブロック甘いんじゃない?」
「くっ! やるやないか」
何ちゅうテクニックやねん。 ブロックの癖やら手の角度まで考え抜かれた、絶妙なボールコントロール。 ほんま頭が下がるわ。
なんでこれで3番手扱いなんやこの子。
「そっちが力なら私は技ってね。 無いでしょ? 私と同等以上の技術を持ったプレーヤーとの対戦経験」
「せやな。 あらへんわ」
そらそうや。 空中戦の上手さだけなら、亜美ちゃん以上やろ。 技術なら間違いなく全一や。
ウチも認めてるわ。
せやけどもや。 負けたるつもりは毛頭あらへんで。
「関係あらへん。 力でねじ伏せたるで」
「言うねー。 私の華麗な空中戦で弄んであげるわ」
今まで亜美ちゃんばかり見てたけど、どうやら倒さなあかんのがおったみたいやな。
まずは宮下さんを倒してからっちゅうことか。
「ウチの力か」
「私の技か」
「「勝負!!」」
◆◇◆◇◆◇
試合は進み、2度目のテクニカルタイムアウト。
11-16と相変わらずリードを奪われている。 ウチもキャミィも決めるとこでは決めてるはずやけど、宮下さんが止まらへんな。
こっちはあのちっこい
「どうした、お前たちの力はこんなもんやないやろ!」
「はい!」
「宮下を止めろ! 新田に拾わせるな! 月島! 力だけでゴリ押すんやないで! 空中での駆け引きをしていかんかい! そんなんで上に行ける思うてんのか!」
「う……わ、わかっとります」
つい熱ぅなってもうた。 冷静にコートを見て打ち分けていかんと、あのLはそう簡単には抜けへん。
雪村さん程やないと高を括っとったが、少し評価を改めた方が良さそうやな。
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