第432話 予選トーナメント

 ☆渚視点☆


 開会式の後、体育館を移動した私達は、予選トーナメントの為にウォームアップを行なっている。

 お相手さんチームコートに入る私達を見て、少々複雑な表情を浮かべている。

 まあ、主力の3年生が1人もスタメンにおらへんのやから、ナメられてると思うとるんやろなぁ。

 清水先輩の采配は、相変わらず後輩育成に重点を置くスタイル。

 相手を見てスタメンを決めてはるんやろうけど、相手からしたらナメんなって感じやろなぁ。


「次期キャプテンー!」

「……」


 麻美が誰かを呼んでいるが、反応が無い。

 呼び方に問題があるんやろなぁ。 誰やの次期キャプテンって。


「小川ちゅわーん!」


 仕方なく名前で再度呼びかける麻美。

 小川さんかいな。 まあ、次期キャプテンに一番近い部員ではあるけど。


「え? 私? 何?」

「作戦とかあるー?」


 一応、清水先輩からも2年生の司令塔を任されている小川さん。

 たしかに、小川さんはこの試合をどう戦うつもりなんかは聞いといた方がええか。


「作戦かぁ……とりあえずまずは様子を見て、流れを見てから考えよう」

「了解ー!」

「わかりました」


 と、それぞれの立ち位置に着く。

 私はいわゆるエースポジション。 後ろにマリアがいる形。

 センターにはブロッカーの麻美、その後ろはリベロの森島さんがおって、ライトには真宮さん、小川さんのフォーメーション。

 マリアはインターハイデビューやな。


「緊張とかしてへんか?」

「大舞台には慣れてますから」


 一応聞いてみたが、何とも頼もしいっちゅうか憎たらしいっちゅうか……。

 さすがインターミドル優勝経験者ってとこやな。


「さよか。 バンバン点取りや」

「もちろんそのつもりです」


 ほんま涼しい顔してサラッと言いよるなぁ。

 1年生にしてこの余裕と貫禄。 末恐ろしい後輩や。


「よーし! 先輩達が引退した後は私達が中心になっていかなきゃいけないんだし、気合い入れて勝ちに行くわよ!」


 小川さんが大きな声でそう言うと、コート内のプレーヤー全員の士気が高まり「おう!」と返事をするのであった。


 試合は私達月ノ木サーブから始まる。

 開幕は小川さん。


「よっ!」


 小川さんは強打はせずに、ふんわりしたフローターサーブを打つ。

 相手Lがオーバーハンドでそのサーブを処理。

 セオリー通りやな。

 そのままセッターがセットアップして、相手アタッカーがそれぞれのテンポで助走を開始。

 これもセオリー通り。

 私達は初手クイックを警戒して、ファーストテンポで助走していた選手相手に、コミットブロックを仕掛ける。 が、クイックは来なかった。

 リードブロックに構えていた麻美が、ボールの飛んだ先を確認しながら真宮さんに指示を出す。



 

「みやみやー! ライト目一杯絞ってー!」

「了解!」


 すぐに真宮さんの隣に移動した麻美は「せーの!」と合図を出し、タイミングを合わせて跳ぶ。


 パァン!


 相手のスパイクは、麻美の狙い通りにクロスに打たれる。

 そこにはLの森島さんがフォローに入っている。


「そいっ!」


 落ち着いた感じでボールを拾う森島さん。

 すぐさま麻美がバックステップを見せてDクイックの助走を開始した。

 更に一拍置いて、私も助走を開始。

 セミクイックや。


「よっ!」


 小川さんの高いトスが上がる。

 既にセミクイックに跳んでいた私に合わせたトスやない。 これは。


「っ!」


 パァン!


 着地した私の背後からスパイク音が聞こえた。

 マリアの時間差のバックアタックや。

 

 ピッ!


 私がブロッカーを釣った事もあって、バックアタックは見事に決まった。


「ナイスや! インハイ初得点やな」

「どうもです」


 ハイタッチを交わしてマリアを褒めるも、いつも通りのテンションで返される。

 この子はハイテンションになるって事ないんかいな。


「幸先良し。 もう1点もらいましょう!」


 司令塔の小川さんも声がよう出とる。 だいぶ司令塔が板についてきたな。 次期キャプテンはほんまに小川さんかもわからんで。


「おがおがいけー」


 麻美の声援に応えるかの様に、2本目のサーブを打つ小川さん。

 先程と同じようなフローターサーブを、今回もLが拾う。


「基本に忠実なチームやな……」


 さっきのワンプレーを見た感想でしかないけど、そんな感じがする。

 基本な事を高レベルで出来るチームってのは、それだけで強いってもんや。 油断は出来へんな。

 そして今度もオーソドックスなコンビネーション攻撃を見せてくるお相手さん。

 ほならこっちも同じように、クイックを警戒してコミットブロックや。

 ほんで、今回はそのクイックに合わせたトスが飛んできよった。


「落とす!」


 ブロックタイミングバッチリ。 叩き落としたる。

 と、意気込んでみたが、お相手さんが日和って中途半端なフェイントスパイクを打ってきた。


「マリア!」

「フォロー入ってます」


 しっかりとフォローに詰めて来ていたマリアが、余裕を持って拾う。

 

「チャンボー!」


 ふんわり上がったボールの下に、小川さんが移動する。

 今度は麻美は、大きく逆サイドへ走り込みクイックに跳ぶ。

 私は麻美と入れ替わるように移動、ライト側からセミ攻撃。


「お願い!」


 小川さんからのバックトスが私に上がる。

 次期エースとしてここはきっちり決めなあかんな。


「あいよ!」


 ブロック2枚がついてくるが、構わずラインギリギリのストレートにスパイクを打ち込む。


 ピッ!


「っしゃ! どや!」


 我ながら良いスパイクやと自画自賛。


「ナイスキー渚ー」

「ナイスー!」


 出だし好調。 連続でブレイクをかまして、いきなり2点リード。

 まだまだ点取れるんとちゃうやろか。


「小川さん、もう1本ー!」

「はいよー」


 小川さんは更にフローターサーブで崩しにかかるも、やはりというかLがオーバーハンドで拾う。

 どうもフローターサーブの処理は慣れているみたいや。

 お相手さんの攻撃。


「……ん、リズム変えてきよったか」


 今度はセミクイック気味の助走が2人。 あとは後衛のバックアタックか?

 とりあえず、近い方のアタッカーに対してブロックに入る。

 しかし、トスはどちらの選手でもなく、後衛アタッカーに上がった。


「バックか!」

 

 完全にタイミングをずらされた。 

 しかし、この状況でも冷静にリードブロックに跳んでいる影が1人。


「うぇーい!」


 パァン!


 麻美はバックアタックをドシャット。

 3連続得点となった。


「あんた、今のよう止めたな」

「んー? 今のはバックアタックでしょー」


 自信満々にそう言う麻美。 曰くぷんぷん匂ったとの事。

 この子の嗅覚はどうなってんのかようわからんわ。



 ◆◇◆◇◆◇



 その後も危なげなく試合は進み、あっけなく2セット連取して予選1戦目を勝利。

 早くも決勝トーナメント行きを決めるのであった。


「お疲れ様-皆ー。 想像以上に良い試合運びだったよ。 いつでも引退できるねぇ」


 キャプテンの清水先輩からも労いの言葉を貰い、私達も一安心。

 明日からは決勝トーナメント。 ここからが本番やな。

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