第431話 最後の夏
☆亜美視点☆
8月も10日を過ぎた頃。
今年もこの季節がやってきました。
夏の全国高等学校総合体育大会バレーボール競技大会。
いわゆるインターハイである。
今年は近場である茨城県で開催される。
私達バレーボール部は、専用の観光バスに乗り移動中だよ。
「これが今のメンバーで戦う最後の大会ね」
「そだねぇ……中学3年間と高校3年間かぁ」
「長い様な短い様な……」
私達3年生はこの大会が終われば引退する。
実質的に、この大会が皆で出来る最後のバレーボールだろう。
良い結果で終わりたいものである。
「にしても、うまくばらけたわねー」
「うん」
予選の組み合わせである。
いわゆる強豪校である私達と京都立華、東京の都姫女子、大阪銀光は全校別グループである。
「大阪はあの妹だけで良く勝ち上がりましたわよね。 姉妹の速攻があのチームの強さの根源だと思ってましたが」
「総合力も高いチームだよ」
姉妹の速攻が無いからと言って、油断出来る相手では無い。
「予選はさすがに楽勝かしら?」
「油断はダメだよ、奈々ちゃん」
「とか言って、一番相手をナメてるのは亜美ちゃんでしょー?」
紗希ちゃんが、前の座席から顔を覗かせる。
はて? ナメてるのかな?
「亜美姉、この間のミーティングで予選トーナメントは1年生もどんどん使うって言ってたよー」
「あー……それってナメてるのかな?」
私は1年生もかなりレベルが高いと思うんだけど。
「まあ、キャプテンの好きなようにやりなさいよ」
「あはは……好きにやります」
キャプテンとしてもこれが最後になるんだね。
私はちゃんと、キャプテンを出来ていただろうか?
◆◇◆◇◆◇
ホテルへ到着した私達は、翌日の開会式まで休憩する事にしている。
「ふぅ……」
「亜美ちゃん、キャプテンだから色々大変だよね」
ホテルの宿泊部屋で一息ついたところで、希望ちゃんが声を掛けてくれる。
私はもう一度大きく息を吐く」
「そうなんだよねぇ。 顧問の先生やコーチがやるようなことを一手に引き受けちゃってるから、本当に大変だよ」
「本当にご苦労様だよぅ。 もう少しだから頑張ろうね」
「うん」
希望ちゃんの言う通り、私のキャプテンとしての役目はもうすぐ終わるんだけど、この状況を次の世代にまで引き継ぎたくはないと思っている。
体育館問題は何とか解決したものの、コーチ等がいない状況はまだ解決していない。
何とかならないものだろうか?
「その事は今はいっか……今はこの大会に集中しよ」
「うん。 有終の美を飾ろう」
今日はミーティングの時間まではゆっくりと休ませてもらうとするよ。
◆◇◆◇◆◇
さて、入浴の前に皆を集めてミーティングを始める。
明日の開会式の後はいきなり予選トーナメントがある。 予選トーナメントは4校が1グループに振り分けられて、勝った2校と敗者復活で勝った方の学校の3校が決勝トーナメントへ進む。
つまり最初の試合に勝てれば文句無しなのである。
「はい、注目」
集まった皆を私の方を向かせてミーティングを開始する。
「明日は開会式の後からインターハイの予選トーナメントがあります。 相手は福井の福井商業。 学校としては中堅どころだけど、総合力もあるし、まとまりのあるチームだよ」
「3年生の真下さんはかなりハイレベルな
「で、明日のスタメン発表するよ。 OHに月島、真宮、廣瀬。
2年生メインのメンバーにマリアちゃんを入れてみた。
このスタメンで戦ってもらい、危なそうなら3年生を数人投入するつもりである。
「皆、後ろには私達もいるから、心配せずに目一杯楽しんで戦ってね」
「はいっ」
「マリアちゃん。 冷静にね」
「わかってますよ」
もう心配はいらないと思うけど、一応声を掛けておく。 入部当初はちょっとしたことで冷静さを欠いてプレーが乱れていたが、今はだいぶ落ち付いている。 冷静にプレー出来れば、その辺のプレーヤーには負けない実力を持っているので安心していられる。
「それにしても、また3年生を全く出さないのね」
「うん。 ここは2年生メインでも大丈夫だと思うんだよね」
勿論勝てると思っているからこその采配である。 負けていいとは思っていないので、本当に私達3年が必要なら私達がスタメンで出ているところだよ。
「よし。今日はゆっくり休んでね! 解散!」
サクっとミーティングを終えて私達は部屋に戻る。 私も今日は早めに休もうと思う。
でもその前にお風呂である。 このホテルは各部屋にお風呂が付いているタイプ。
「希望ちゃん一緒に入ろうー」
「あ、うん」
という事で、早速お風呂にお湯を張る。 湯舟は横に広く底が浅いタイプのようである。 足を伸ばしてゆっくり浸かれそうである。 2人だけどね。
「あ、夕ちゃんからメールだ」
「あ、私にも来てる」
どうやら応援メールのようだ。 バスケ部はバレーの大会の後に茨城入りすることになっている。 今年も日にちがずれてしまったという事である。
「夕也くんもマメだよね」
「そうだね。 わざわざ希望ちゃんにも送るなんて」
「うんうん。 そういうとこ夕也くんらしいよぅ」
2人で返信して、お風呂が溜まったのちに2人でゆっくりとお風呂に浸かるのだった。
◆◇◆◇◆◇
翌日──
私達は総合体育館にやって来て、開会式に参加している。 各都道府県代表校がズラリと並び、大会運営の開会宣言を黙って聞く。
いよいよ始まるねぇ。 インターハイ3年目。
私達のグループは開会式後に移動して、別の体育館のコートで試合を行うことになっている。
長い開会式を終えて移動しようとしたところで、私を呼び止める声が聞こえてきた。
「亜美ちゃん。 久しぶりやな」
「あ、弥生ちゃんも移動?」
弥生ちゃんである。 京都立華のエースにして私のライバル。
立華は今年のインターハイでも優勝候補に挙がっている強豪校だし、私達の前に大きな壁として立ちはだかる可能性が非常に高い。
「せやで。 あんさんらはこの大会で引退やんな?」
「うん。 受験に専念するからね」
「さよか。 ほな、今回がラストチャンスっちゅうわけか……」
「あはは、負けないよ」
「今の内に言うときや」
と、弥生ちゃんとやり取りを交わしていると、もう1人誰かが近付いてくる。 まぁ、大方の予想通りではあるけど。 全国でもトップレベルの技巧派OH……。
「やっほー! 月島さんに清水さん」
「お、来よったな宮下さん」
「久しぶり。 春の練習試合以来だねぇ」
「そうねー」
東京都姫女子のエース、宮下さん。 そこに私と奈々ちゃんを加えた4人が全国OH四天王という扱いになっているらしい。
ちょっと大袈裟だよね。
「勝つのは私達都姫よ」
「京都立華や」
「月ノ木学園だよ」
ライバル校3校が火花を散らす最後の夏が始まるのであった。
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