第429話 たまには休憩
☆夕也視点☆
翌日……
奈々美に起こされて朝食を食べた後、今日はたまには勉強を休みにして遊ぼうという事で午前中から皆で集まっている。
こういうことになると集合が早いのが我々3年A組メンバーである。
「私もええんですか? 受験勉強疲れをリフレッシュするって聞いとるんですが」
「なはははー! 気にするな渚君」
2年生組の麻美ちゃんと渚ちゃんも一緒である。 居ないのは東北へ行っている亜美と希望だけである。
ただ、今日は受験勉強じゃないという理由で柏原君だけは来れなかったようだ。
「それで、今日はどこ行くんですか?」
「それを今から考えるよ」
「はいはいー! やっぱストレス解消ならカラオケで大きな声出すのが良いと思うわけよ」
紗希ちゃんが手を上げてて案を出すと、奈々美は「アリね」とそれに賛成。
歌う事が好きだからなぁ奈々美は。 かくいう俺も久しぶりに奈々美の歌を聴きたいところである。
「別に反対意見もないしカラオケで決まりだなぁ。 他の事はカラオケで話し合おうぜ」
受験組ではない宏太もノリノリで参加しているのである。 どうやら最近は面接の練習やらで堅苦しい事やらされているらしく、こちらもストレスが溜まっているようである。
「んじゃ、とりあえずはカラオケね。 市内ね」
ここいらでカラオケ店は都市部まで出る必要がある。 俺達は早速駅へと向かう事に。
カラオケへ向かう事を亜美達に伝えると、亜美から「良いなぁ。 私も行きたいぃ」と返信があった。
亜美達は今夜帰ってくることになっているが、カラオケには間に合いそうにないな。
「そういや渚ちゃんとかはカラオケ行ったりするのか?」
「あー、あんまり行きませんね。 私は歌も下手ですよ」
「ほうほう」
「なははー、渚ーなんか一緒に歌おー!」
そんな話を聞いていた麻美ちゃんが、渚ちゃんに抱きつきながらじゃれ合う。 仲が良いんだなぁこの2人。 というか、麻美ちゃんが人懐っこいだけか。
何にせよ、単身京都からやってきて、知り合いや友人がいなかった渚ちゃんにはとっては、誰彼構わず仲良くしてくれる麻美ちゃんは救いだったかもしれないな。
「暑いっちゅうねんー」
「またまた照れちゃってー」
「ちゃうわーい」
「良い友人に巡り合えて良かったなぁ渚ちゃん」
「うぇっ?!」
「良かったなー渚ー! あははは!」
「うぅ……せ、せやね」
ちょっと照れたように小さく頷く渚ちゃんなのであった。
◆◇◆◇◆◇
さて、カラオケに着いたところで9人が一部屋に入ってわちゃわちゃする。
よく入れたな。
「んじゃま、トップバッターは私がいかせてもらうわよ」
「よっ! バレー部の歌姫!」
奈々美が一番手で歌う事には、皆文句無しのようだ。
奈々美の歌声は普通に綺麗だし、皆それを聴きたいとも思っている。
俺もそうである。
奈々美の力強くて、それでいて透き通るような綺麗な歌声を聴きながら、俺達も選曲に入る。
次に歌うのは麻美ちゃんのようだが、麻美ちゃんがカラオケで歌うのは初めて聞くかもしれない。
奈々美があんだけ上手いんだから、妹の麻美ちゃんもさぞ上手い事だろう……。
「ボェェ〜!」
めっちゃ下手だった。
快音波か何かを発している。 もはや歌なのか叫び声なのか判別さえ出来ないレベルである。
しかし、本人はノリノリで歌い続けている。 多分、普通に歌えてると思っているのだろう。
一曲歌い切って満足した麻美ちゃんは、周囲を見てから首を傾げる。
「あるぇ? 皆どうしたのー?」
「あんたの歌を聞いて唖然としてんのよ」
「あははは! 私の美声に声も出ないかー」
やっぱり自分では上手いと思っているらしい。
奈々美が「いや、あんたははっきり言って音痴だから」と正直に告げるも……。
「いやいやー! そんな事ないってー!」
と、聞く耳を持たないのであった。
その後も順番にマイクを回していき、渚ちゃんの出番である。
「ほ、ほんまに私も歌わなあかんのですか?」
あまり自信が無いらしい。
しかし、さすがに麻美ちゃんレベルでは無いだろう……。
「〜♪」
なんか聞いた事の無い演歌を歌い出した。
しかも案外上手い。
「なははー! 演歌って渚ー!」
「やかましい! あんたの快音波よりマシやろ!」
と、渚ちゃんが麻美ちゃんに言い返すと、周りの皆も「うむ」と大きく頷くのであった。
「夕也兄ぃ〜! 皆が私の歌を音痴とか快音波とか言うよー!」
うっ、何故俺に振るんだ。 目をウルウルとさせて「そんな事ないよねー?」と訊いてくる麻美ちゃんに対し、俺は。
「ま、まあ、独特な歌い方ではあるけど、お、音痴とか快音波って事は無いんじゃないか? あ、あはは……」
麻美ちゃんを傷付けないように、とりあえず誤魔化しておく。
すると麻美ちゃんは、笑顔を見せて「やっぱり! 皆にはわからないんだ! もう一曲披露してあげる!」と意気込んでしまう。
皆からは「どうしてくれるんだ」というような眼差しを向けられ、俺はただただ小さくなるしかなかったのであった。
「ボェェー!」
◆◇◆◇◆◇
カラオケでひとしきり遊んだ後は、皆で昼飯を食べに行く事にした。
奈央ちゃんが、上手いざる蕎麦を食べられる店を知っているという事で、そちらへ向かう事にした。
「まだ耳が痛いわね」
「お姉ちゃん大丈夫?」
「誰の所為よ誰の……」
「渚が変な歌聴かせるからー!」
「演歌やアホ!」
なんとも賑やかな奴らである。
しかし、たまには勉強を休んでこうやって遊ぶのも良いもんだな。
「ねぇ奈央? そのお蕎麦屋さんってやっぱりあんたのグループの?」
「そうよー? 本当に美味しいから期待して良いわよ」
「たらふく食うぞ蒼井」
「ったり前よ佐々木」
この2人にかかればどんな料理も同じである。
渚ちゃん、春人を見習って欲しいものだ。
少し歩くと、これはまたお高そうな蕎麦屋が目の前に現れた。
全額奈央ちゃん持ちで良いという事なんだが、本当に良いのか?
「いらっしゃいませ。 何名様でしょうか?」
入店すると、早速店員さんがやってきて人数を確認してくる。
おそらくアルバイトだろう。 今目の前にいる女の子が、西條家の令嬢だとは夢にも思っていないはず。
「9人ですわ。 座敷空いてます?」
「少々お待ち下さい」
一応確認する店員。 すぐに戻ってくると。
「空きがありましたので、ご案内しますー」
「よろしく」
ゾロゾロと順番に後ろをついて歩く俺達。
2階に上がると、何部屋か座敷部屋が並んでおり、その内の1つに案内される。
「では、ご注文が決まりましたら……」
「極上手打ちざる蕎麦15人前」
店員さんが言い終わる前に奈央ちゃんが注文を済ませてしまう。
いきなりの事で、店員さんは「え? はい?」と聞き返してしまう。
「貴女はこんな簡単な注文も一回で覚えられないんですの?」
「あ、あの、すいません。 極上手打ちざる蕎麦15人前と聞こえたのですが?」
「覚えてるじゃない。 それで良いんですのよ」
店員さんは納得いかない様子であったが、仕方なくといった感じで座敷を後にした。
「佐々木君と遥がいる事を考えたらまあ、15人前が妥当よね?」
「ナイス判断だ奈央!」
なるほどそういうことか……。
しかし、さっきの奈央ちゃんはちょっと怖かったなぁ。
あのバイトさん、クビとか言われなきゃ良いけど。
その後、運ばれてきた極上手打ちざる蕎麦とやらは、コシが強くて蕎麦つゆにもこだわった、まさに極上の逸品であった。
もうコンビニに売ってるパック入りのざる蕎麦は食えねぇなこれ
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