第426話 夏の帰省

 ☆希望視点☆


 8月に入って、夏真っ盛り。

 受験勉強に部活にと忙しい日々が続く中、今日明日は東北の祖父母の家に行く予定である。

 本当の両親のお墓もそこにあるので、お盆のお墓参りへも行くよ。

 そして今年の夏は……。


「希望ちゃん。 お土産とか本当に良いの?」

「うん」


 亜美ちゃんも一緒である。 たまに一緒に行く事はあったけど、最近はあんまりだったので今年は顔を出すとの事。

 おじいちゃんは亜美ちゃんを痛く気に入ってるからね。


「そういうことならいっか」

「うんうん。 亜美ちゃんが行く事がお土産みたいなものだよぅ」

「あはは、なるほど」


 おじいちゃんはきっとすごく喜ぶだろう。

 さすがに夕也くんは、接点が無さすぎるという事でお留守番である。

 その間の夕也くんのお世話は、奈々美ちゃんにお願いしてある。


「この夏の間に東京のお父さん達のとこにも行かないとねぇ」

「そうだね。 そっちにも行かないと」


 東京に行ってしまったお父さん達にも顔出さないと。

 この時も夕也くんはお留守番かな?


 新幹線で東北は秋田県を目指してひた走る。


「会うの久しぶりだなぁ」

「亜美ちゃんはそうだね。 毎回帰るたびに『亜美ちゃんは来んのか』って聞かれるよ? どっちが孫娘だか」

「あっはは。 相変わらずなんでそんなに気に入られてるのかわかんないけど」

「そうだよね。 やっぱあの時の亜美ちゃんの行動力とかそういうのが気に入ったんじゃないかな?」

「そっかぁ。 小学生だったもんねぇ」


 小学6年生の子供が養子縁組だなんだという難しい事を言い出すんだもん。 そりゃびっくりするし、凄い子だってなるよね。


「懐かしいねぇ」

「うん。 本当に感謝してるよぅ」

「もしあのまま、おじいさん達と秋田県に行っちゃってたらどうなってただろうねぇ……」

「……わかんないけど、バレーボールも続いてなかっただろうし、友達だって出来てたかどうかわかんないし……きっと私の人生180度変わってたと思う」

「そっか……私の人生ももしかしたら色々変わってたかもねぇ」


 と、亜美ちゃんは言うけど、私って言う恋敵がいなければもっと簡単に夕也くんとお付き合いで来てたんじゃないだろうか?

 それを亜美ちゃんに言うと「たしかにそうかも?」と笑うのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 長旅を終えて、秋田県の祖父母の家のある街までやって来た私と亜美ちゃん。

 私はいつも、先にお墓参りからするんだよね。

 今日もそのつもりであることを亜美ちゃんの伝えると「わかったよ」と言ってついてきてくれるのだった。

 亜美ちゃんもお父さんやお母さんとは、少なからず面識があるにはあるしね。

 にしてもお墓が遠いのは大変だよ。 お盆と正月には来るんだけど……。


「お墓、移してもらうのもありじゃない?」

「うん……それは考えてるんだけど、手続きとか大変だし受験終わるまではね」

「それもそうか」


 亜美ちゃんも色々考えてくれているようである。


 霊園に着いた私達は、水とお花を持って真っすぐとお墓へ向かう。

 霊園の中程にそのお墓はある。


「んしょ」


 水の入ったバケツを地面に置いて、まずは草むしり草むしり。 さすがにまだお盆前だから誰も来てないね。 結構雑草が生え散らかしている。 亜美ちゃんと2人で綺麗にしてから、墓石にお水を掛けて綺麗に拭いてあげる。


「お父さんお母さん、来たよぅ。 今年は亜美ちゃんも一緒だよ。 優しいお姉ちゃんだよ」

「……おじさんおばさん、希望ちゃんは元気に育ってますよ」

「うん。 私幸せだから安心していいよぅ」


 最近の報告やお参りを済ませて、お墓に声を掛ける。 お父さんもお母さんも、きっとどこかで聞いてくれてるよね。


 お墓参りを終えて、両親に別れを告げその場を後にする。

 おじいちゃん達が首を長くして待ってるから、急いで行ってあげないとね。



 ◆◇◆◇◆◇



 霊園からバスに乗り、移動する事20分。 おじいちゃんたちの家がある近くまでやって来た。

 周りは都会の喧騒から離れた長閑な街である。


 ピンポーン……


 一応インターホンを鳴らしてから、ドアを勝手に開けて中に入る。


「ただいまー」

「おじゃまします」


 2人して部屋に入ると、居間からおじいちゃんとおばあちゃんが姿を現した。


「おお、のんちゃん、亜美ちゃんよく来たね」

「2人ともベッピンさんになって」

「私はお正月にも来たよぅ」

「そうじゃったのぅ。 亜美ちゃんはもうずいぶん久しぶりじゃの」

「はい。 ご無沙汰しておりました。 お元気そうで何よりです」

「大人っぽくなったのぅ。 あの時はまだまだ子供じゃったのに」


 と、懐かしむような顔でそう言うおじいちゃん。 きっと、あの養子縁組の話し合いの時の亜美ちゃんを思い出してるんだろう。


「写真で見るよりやっぱり実物ですねぇ。 バレーボールの大会、見とったよ。 世界で一番になったんよね。 おめでとう」

「あ、ありがとうございます」


 と、一通り会話をして、仏間へと移動する私と亜美ちゃん。 お墓参りはしてきたけど、ちゃんとこっちでも手を合わせておこう。


「……帰ってきたよぅ」

「……」


 亜美ちゃんも静かに手を合わせる。 


「よし」

「?」

「今日は美味しいご飯を、おじいちゃん達に作ってあげよぅ」

「お、いいねぇ。 手伝うよ」


 ということで、今日の夕飯は私達に任せてもらうことになった。 最初はおばあちゃんも「お客さんはゆっくりしてなさい」と言っていたけど、そこは強引に押し切った。

 私と亜美ちゃんは、少しだけ休憩した後で近くの商店街へ買い出しへ出かけることにした。



 ◆◇◆◇◆◇



 商店街──


「2人とも元気だね」

「うん。 でも、これだけ遠いと何かあった時心配だよぅ……出来れば千葉に越してきてほしいんだけど大変かなぁ?」

「そだねぇ……その辺のお話とお墓の移動の話、してみた方が良いんじゃない?」


 亜美ちゃんの言う通りである。 大学受験があるので今の時期は大変だけど、その辺が片付いた時にすぐに動けるように今の内に話を進めておく方が良いだろう。

 今日にでも話してみよう。


「で、今日は何を作る?」

「うんとね、おじいちゃんとおばあちゃんは切り干し大根が大好きなんだよぅ」

「じゃあ1品はそれで決まりだね。 後はお味噌汁とか冷奴で和風でいこっか」

「うんっ」


 今日の献立も決まったところで、お買い物を始める。


「お大根と、ニンジンと……油揚げ」

「調味料は一通りあったよね」

「うん。 お味噌もあったし、次は豆腐かな? お豆腐屋さんはこっちだよぅ」


 お買い物もテキパキこなして、お家へと急いで戻るのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 夕食を食べながら、のんびりとお話をする。


「美味しいのぅ。 のんちゃんも亜美ちゃんも料理上手じゃな」

「亜美ちゃんは私の料理の先生なんだよ」

「いやいや……」


 私達が作った夕飯は、おじいちゃん達にも絶賛された。 今日は亜美ちゃんがサポートに回ってくれて、ほとんど私がメインで作ったよ。

 おじいちゃん達に褒めてもらえて凄く嬉しいね。


「希望ちゃん、あの話は?」

「あ、うん」


 亜美ちゃんに振られたので、おじいちゃん達に話をしてみようと思う。

 2人とも、不思議そうな顔でこちらを見ている。


「えっとね、お墓と2人の事で相談があるんだよ」

「んん?」


 私は、順番に話をしていく。

 まずは2人の引っ越しの事。 私は遠く離れた場所に年老いた2人を置いておくのが不安な事。 お墓が遠くて大変なのでお墓も引っ越しさせたい事を伝える。


「ふむ……」

「おじいさん、どうしましょう?」


 即断即決は難しい事だと思うけど、私としては不安が解消されるので首を縦に振ってほしいところである。


「ふうむ……たしかに、わしらもその辺については話をしておってのぅ。 近々こちらから相談するつもりでおったんじゃ」

「そうなの?」

「ふむ」

「じゃあ、2人とお墓のお引越し考えてくれる?」

「そうさのぉ。 わしらもその方が助かることも多そうじゃし、その方向で考えてみるとするか、ばあさん」

「えぇ」

「はぅ! 良かったぁ! でも私、今受験勉強とかで忙しいからそれが終わるまで待ってもらえる?」

「おお、そうじゃったか。 大学受験じゃったな。 頑張るんじゃぞ2人とも」

「うん」

「はい」


 話も出来たところで一安心。 4人で楽しくお話をしながら、夕飯の時間を過ごしたのであった。

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