第404話 最高の仲間

 ☆亜美視点☆


 まだまだ続いている決勝戦。

 第2セットに入ってからは、奈々ちゃんと紗希ちゃんのスパイク合戦になっている。

 どちらも我らが月ノ木学園バレーボール部のエースを争うに相応しいスパイクの応酬。


「どーん!!」


 スパァン!


「うわわ!?」


 紗希ちゃんのメテオストライクという急角度のスパイクは中々に拾いにくい。

 高い位置から、ネット近くに叩き落されるスパイクは、わかっていても拾いにくいものである。 これは私も見習うべきだなぁ。

 せっかく同じぐらい飛べるんだし私も取り入れてみよう。


 んで次の攻撃チャンスがやって来た。 やってみるよ、見様見真似のメテオストライク。


「亜美っ!」

「らじゃじゃだよー!」


 上がったトスに向かって助走して、高く真上に跳び上がる。

 勿論、同じぐらい高さの出る紗希ちゃんがブロックについてくる。 普通に打っても私のパワーじゃ抜けないし、ブロックアウトを狙うかブロックを躱して打つかの選択肢しかない。

 けど、紗希ちゃんの真似をして打ち下ろせば。


「紗希ちゃんごめん、マネするよ!」

「えっ?」

「メテオストライクー」


 高い位置から打ち下ろすように叩きつけるスパイクを見舞う。 紗希ちゃんみたいな威力はないけど、これでも十分武器になる。


 ピッ!


「わ、私のメテオストライク……」

「はぁ……亜美ちゃんなんでもありねー」

「ご、ごめん紗希ちゃんっ。 私にも使えるかなーって思って……」

「あ、あはは、良いの良いの! じゃんじゃん使ってー! 月ノ木学園バレー部の武器が増えることは良い事だし」


 と、言いつつも、やっぱり自分の技を人に真似されるのって嫌なもんだろうね。

 あんまり多用しないようにしようかな。


「というか、亜美はパワー鍛えなさいパワー」

「ゴリラにはなりたくないよぉ」

「誰がゴリラよ!」


 奈々ちゃんとバカみたいなやり取りをしながらサーブ位置へ移動し笛を待つ。



 ◆◇◆◇◆◇



 第2セットも最後の攻防になった。


「紗希! 決めて!」

「OKOK!」


 紗希ちゃんが今日何度目かわからないメテオストライクに跳ぶ。

 ここを止めないと2セット目も落として負けになるんだけど。


「どぉん!!」


 ピッ!


「セットアンドマッチ! 12番13番ペア」

「よーし!」

「やったわね紗希!」


 ということで、紗希ちゃん奈央ちゃんのペアに敗北し準優勝となってしまいましたとさ。


「ごめん亜美ー。 第1も第2も私のサーブミスが敗因だわ」

「あはは、気にしない気にしない。 でも、サーブコントロールはもうちょっと鍛えて欲しいかなぁ?」

「そうねー。 夏の大会まで鍛えておきたまえ奈々美ー」

「ぐぅ……努力します」


 さすがの奈々ちゃんも、今日のサーブミスは少し思うところがあるようで、しばらくはサーブ強化期間にするつもりのようである。

 でも、今日皆と対戦してみて改めてわかったことがある。 月ノ木の皆は本当に強いという事だ。

 本当に最高のチームメイトである。 負けたのは悔しいけど、こんな心強い仲間達と一緒に戦えるというの頼もしいねぇ。


 私達は表彰式に参加し、紗希ちゃん奈央ちゃんペアは金メダルを、私と奈々ちゃんは銀メダルを、3位決定戦に勝った渚ちゃん

遥ちゃんペアが銅メダルをもらった。

 つまるところ、私達で上位を独占しちゃったわけである。


「おう、皆お疲れ」

「あ、夕ちゃん、宏ちゃん! ごめんね、退屈じゃなかった?」


 2人は大会には参加出来なかったし、見てるだけで相当退屈だったはずである。


「まあ、そうでも無かったぞ」

「目の保養にはなったからな!」


 2人で目を瞑ってうんうんと頷いている。

 大会を見ずに何を見ていたというのだろうか?

 これは後でお仕置きだねぇ。


「さて、そろそろ別荘に戻りましょうか? 別荘で少し休んだら空港に行くわよ」

「えー……旅行もう終わりー?」


 紗希ちゃんはとても残念そうな口調でそう言う。

 勿論、私だって残念に思っている。

 もっと皆と遊んでいたいと思うのは、紗希ちゃんも私も……多分皆も同じはずだ。



 ◆◇◆◇◆◇



 別荘に戻ってきた私達は、残り時間を広間で過ごす事にした。

 帰り支度を済ませた私達は、広間で各々話したりして時間を潰す。


「亜美ちゃん? 何だか淋しそうね?」


 奈央ちゃんが隣に座って話しかけてきた。

 楽しい時間が終わるのは、やっぱり淋しいものである。


「うん。 私達皆でこうやって旅行したり出来るのって、あとどれくらいあるのかなって考えるとね」

「亜美ちゃん。 何を言ってるのよ? まだまだ何回だって出来るわよ」


 そう言って奈央ちゃんはにこにこと笑う。


「でも、夏はインターハイがあって、それが終わったら皆受験で忙しいし、卒業したら大学やお仕事で中々会えないだろうし……」


 もしかしたら、これが私達の最後の旅行になるかもしれないのだ。


「関係ないよー亜美ちゃーん」

「そうよ。 私達は大学生になろうが何だろうが、一声かけられたらすぐに集まるんだから」

「で、でもでも、紗希ちゃんは京都の大学に……」

「連休には当然帰ってくるじゃん。 したら皆で旅行したり出来るっしょ」

「あぅあぅ」

「亜美姉淋しがりすぎー」


 皆は大笑いしながら私の前に手を出して並べる。


「このブレスレットに誓うわよ。 私達はいつまでも一緒。 いつまでも最高の仲間」

「皆……うん。 あはは、ちょっと安心しちゃった」


 私は心配し過ぎていたようだ。 皆は、私達が離れ離れになるなんて欠片も考えていないらしい。 

 きっと私達は、いつまでもこうやって集まって、笑い合っていけるだろう。



 ◆◇◆◇◆◇



 飛行機内──


「沖縄、楽しかったね」

「うんっ、また皆で来たいよぅ」

「その時は海で泳ぎたいわね」


 帰りの機内で、沖縄旅行の思い出を語り合う。

 企画してくれた奈央ちゃんには感謝しかないよ。


「ところで、夕ちゃんと宏ちゃんはビーチバレーの試合を見ずに何を見ていたのかな?」

「そりゃ、ビーチバレーに勤しむ美女達の水着姿をだな……」


 次の瞬間には、宏ちゃんの脳天に奈々ちゃんのチョップが炸裂していた。 


「うわわ……痛そう」

「バカな奴め……正直に言う奴があるか」

「夕ちゃんも同じなの?」

「俺は違う! 主に紗希ちゃん、奈々美、亜美の胸の辺りを……」


 ドカッ!


 次の瞬間には、夕ちゃんの脳天に奈々ちゃんのチョップが炸裂していた。


「きゃはは! いつでも見せたげるよ今井君」


 その光景を見ながら、爆笑する紗希ちゃん。

 また変な事言ってるし。


「夕也兄ぃは胸が大きいのが良いの?」

「良いというか夢が詰まってるような気がしないか?」

「バカなの?」


 奈々ちゃん、結構本気で呆れてるっぽい。

 希望ちゃんはひきつり笑いしてるし、渚ちゃんは自分の胸を見つめて「私のはどないやろ」とか言ってるし……。

 何だかなぁ。

 

 こうして、私達の沖縄旅行は幕を閉じたのだ。


 そして、ゴールデンウィークは明けて時間が過ぎ、6月に入った頃。

 バレー部、バスケ部はインターハイ出場を決めて最後の大会に向けて練習を頑張っている。

 そんなある日の放課後、進路指導室に入っていく宏ちゃんを見かけたのだった。


「……どうしたんだろ? 何かやったのかな?」


 少し心配になったが、入って行くわけにもいかないので部活へと向かった。


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