第403話 もう一つのライバル対決

 ☆紗希視点☆


 ビーチバレー大会決勝の第1セットも中盤に差し掛かったところ。

 奈央が何とか繋いでくれたおかげで、現在2点リードしている。

 奈央と亜美ちゃんは、ライバル対決を楽しんでいるようだけど、私には私のライバルってのがいるわけよ。

 お相手さんが私をライバルと思ってるかは知らないけれど。


「紗希。 ここからが本番よ」

「わかってるって。 あの2人がこのまま黙ってるわけないっしょ」


 亜美ちゃんは言わずもがな、奈々美も相当バカげたスペックをしている。 まったく

私の周囲の人間はどうなってるのかしらねー。

 

「奈々ちゃんお願ーい!」


 今は亜美ちゃんから奈々美にトスが上がったところ。 奈々美が体を大きく捻ってスパイクのバックスイングを取っている。

 私はそのスパイクを止める為にブロックに跳ぶ。


「止めーる!」

「決めーる!」


 スパァン!


「くっ! 奈央!」


 何とかブロックには当たったけど、とんでもないその威力を完全に止めることはできずに、ボールは大きく跳ね上がって飛んでいく。

 奈央はそれを見て、もの凄い初速で走っていく。 本当にどんな足してんのよそれ。


「とぅー!」


 飛び込んでレシーブを試みるも、そのリーチの短さが災いしてわずかに届かずであったが、ナイスファイトね。


「どんまい奈央ー」

「むきー……届くと思ったのにー」

「きゃはは、身長足りないんだゾ」

「わかってるわよー! むきーっ!」


 完全にお嬢モードを忘れて悔しがる奈央。 まぁ、沖縄の地で奈央がお嬢様だなんて知ってる人はいないだろうし、お嬢モードで居る必要はないか。


「にしても、奈々美のあれ止めるのはきっついわねー」

「そうね。 ブロックお構いなしに突き抜けてくるし……どんなパワーしてるのかしら?」

「本当それよー。 あんなパワー、人間の物じゃないっしょ」

「人間だけどー!」


 どうやら聞こえていたらしい奈々美が反論してきた。 うちらは一芸に特化した人が多いわねー。

 亜美ちゃんに関しては、パワー以外の全部が振り切ってるイメージだけど。


「よーしいくよぉ」


 亜美ちゃんのサーブが飛んでくる。 風下から放たれたサーブは、ブレーキがかかったように勢いがなくなって落ちる。


「うわっ?! 何それ?!」


 私は咄嗟に手を伸ばして拾いに行く。 亜美ちゃんの事だから、これも風の強さとか計算してコントロールしたんだろうな。


「うにゃ!」


 何とか手を伸ばしてボールに手は当たったけど、ボールは上に飛ばずに前の方に飛ばしてしまった。

 こればっかりは奈央もフォロー出来ずるわけもなく、サービスエースを取られてしまう。

 こ、これで追いつかれた。


「ごめん奈央」

「仕方ないわよ。 亜美ちゃん、今のは完全に狙って打ってたもの。  今度から注意していきましょ」

「OK」


 もう亜美ちゃんのサーブに惑わされないぞー。


「さぁこーい!」

「いくよぉ」


 亜美ちゃんのサーブは今度はかなりオーバー気味の軌道で飛んでいく。 だけど、亜美ちゃんの事だしきっと、風の強さも計算に入れた上でライン上に落とすサーブを打ってきたに違いない。

 奈央もそれを察したのか、迷わずに走っていきサーブを拾う。


「うわわ、やっぱバレてる」

「当然よ!」


 奈央はアンダーハンドトスで上げたにも関わらず、これまたピンポイントで打ちやすい場所に

上げてくれちゃって。

 これは決めなきゃ嘘でしょ。


「んじゃまぁ! とぅ!」


 砂を蹴って大きく跳び上がり、バックスイングを取る。


「簡単には決めさせないわよ……って、高すぎでしょー!」

「ふははー! メテオストライクー!」


 スパァン!


 ここでしっかり決めたことで、流れを向こうに持っていかれずに済む。


「はぁー、紗希も随分人間離れしてきたじゃないの?」

「あんたに言われたくないっつーの」


 奈々美に言われちゃあお終いだって。 私はこれでも努力してんのよ。

 特に、同じポジションのライバルでもある奈々美と亜美ちゃんに負けないように。 普段の部活の練習は勿論の事、自主練や筋トレだって欠かさずやってるのよ。 おかげでジャンプ力は飛躍的に向上した。

 元々の身長に加えて、向上したジャンプ力で亜美ちゃんと同等の高さを手に入れた。 亜美ちゃんにはないパワーもあるし、皆に置いてかれることはないだろう。


「あとは……あれから真のエースの座を奪うだけってね」


 前方に立つ金髪ポニーテールに視線を向けて小さく呟く。 私にとってのライバル……奈々美を。

 とはいっても、私達が現役でいられるのは今年の夏まで。 時間はもう無い。


「さぁ、どんどんいくわよー」

「了解よ」


 奈央と2人で、あの化け物2人を倒してやるわよ。

 まぁ奈央も化け物の1人だけど……。



 ◆◇◆◇◆◇


「おりゃぁ!」

「奈々ちゃんワンタッチだよぉ!」

「いや、無理だから」


 試合は激しい攻防が続いていたが、途中で奈々美のサーブミスがあり、リードを奪った後にブレイクも決めて第1セットを取ることに成功。 少しインターバルに入る。


「おう、いいじゃんいいじゃん。 勝てるぞー2人とも」


 こちらサイドには遥と渚ペアが声を掛けに来た。 私達贔屓のようね。


「いやいや……結構ギリギリよー? 奈々美のサーブミスなかったらわかんなかったわー」

「まったくね。 本当に気が抜けないわよあの2人」


 試合内容自体は全くの互角と言える。 攻撃力も防御力も拮抗しているし、さっきの奈々美ようなミスが試合結果を左右する可能性が非常に高い。

 神経すり減るってーの。


「にしても先輩達、あの2人からセット奪うやなんて凄いです」

「なはは、たまたまよー」

「そういこと」


 向こうが本気なのはわかる。 凡人の私はもう必死について行ってるって感じ。

 こんなんじゃエースの座を奪うなんて無理よ無理。 まだまだ強くならないと。


「よーし、このまま勝つわよー!」

「そうね! やったるわよ!」


 気合いを入れて、インターバルを終える。 

 コートに入ると、相手コートの2人の顔つきが少し変わっている。

 これは本気の本気になっちゃったか。


「紗希、こっちも気を引き締めてかかるわよ」

「さっきから引き締めまくってるってば……」


 化け物がその気になっちゃったら、凡人の私はどうすりゃいいのよ。


「エースの座奪うんでしょ」

「……そうね。 負けてらんないわよね。 よっしやるぞー!」

「その意気よ」


 第2セットは私達からのサーブで試合は始まる。 まずは奈央から。

 奈央のドライブサーブはもの凄いキレだけど、亜美ちゃんにはもう通用しないようである。

 今回もあっさり拾われてしまい、奈々美が繋ぐ。


「ちょっと本気で跳ぶよ」

「いやいや、今まで本気じゃなかったの?!」


 亜美ちゃんは高く跳び上がった。


「えーい! 止めちゃるー!」


 私も本気でブロックに跳び止めにかかる。


「うわわ?! 紗希ちゃん高い!?」

「高さは負けないわよー」 

「てりゃー!」


 スパァン!


 亜美ちゃんの渾身のスパイクにブロックを当てたは良いけど、上手い具合に奈々美がフォローに入っていたので拾われる。

 しかーし、亜美ちゃんを止められるのは良い事だわ。


「奈々ちゃんナイスー!」


 着地してすぐにアンダーハンドトスで奈々美にトスを上げる。


「あいよっ!」


 スパァン!


 ピッ!


「うはー……」

「奈々美のスパイクの方がヤバイでしょ……これは腕吹っ飛ぶわよ」


 私と奈央は、奈々美のスパイクの威力を見て冷や汗を流すのであった。

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