第385話 地区予選

 ☆亜美視点☆


 今日は5月1日の土曜日。

 市内にある総合体育館で、インターハイ地区予選が行われる。

 全国大会の常連校である私達月ノ木学園は、何かと注目を浴びている。


「月ノ木学園が来たわよ……」

「やっぱり風格あるぅ……」


 私達が体育館に入っただけで、周囲がざわつく程である。

 私達3年は慣れたものだけど、2年生はまだ少し慣れないらしいし、1年生に至っては小さくなっている。

 ただ、その中でも全国大会のコートに立った経験のある黒川ちゃんや小川ちゃん、全中覇者のマリアちゃん辺りは堂々としていた。

 

 更衣室を借りてユニフォームに着替えるのはレギュラーメンバーのみ。

 他の子達は応援席である。

 さて、この地区予選のレギュラーだけど、かなり冒険した選出となっている。

 3年生はキャプテンである私と、攻守の要である奈々ちゃん希望ちゃんのみ。

 奈央ちゃん達には今大会は応援席にいてもらう。

 3人とも私の考えには理解を示してくれているので、快く受けてくれた。

 そして、中心メンバーはほぼ2年生。

 渚ちゃん、麻美ちゃんはもちろんの事こと、小川ちゃん、黒川ちゃん、真宮ちゃんといった2年生の上位組を起用。

 更に、1年生からもマリアちゃんと冴木ちゃんの2人を選出した。


「あ、あの、本当に私達で良いんですか?」


 と、聞いてくるのは1年生の冴木ちゃん。

 3年生を差し置き、自分がレギュラーメンバーになった事を気にしているようだ。


「良いのよ。 亜美には亜美の考えがあるんだから」

「そうだよ。 思いっきりプレーしてね」


 そう声を掛けてあげると、冴木ちゃんは力強く頷いた。


 さて、1回戦の対戦相手だけど、そこまで強い相手ではない。

 なのでここは私達3年生はベンチスタートで行くつもりである。


「1回戦のスタメンは、渚ちゃん、真宮ちゃん、黒川ちゃん、小川ちゃん、森島ちゃん、マリアちゃんの6人スタートで、麻美ちゃんは森島ちゃんと交替ね」

「はい!」


 最近はマリアちゃんも素直に話を聞いてくれるようになったし、良かった良かった。

 ライバル心は相変わらず燃やしているみたいだけど、それがマリアちゃんのレベルアップに繋がるなら構わない。



 ◆◇◆◇◆◇



 で、1回戦。

 私達はCコートで試合だ。


「さあ、皆! 初戦暴れてきてね」

「はい!」

「渚。 次期エースが任せられるか見極めてあげるわ」

「藍沢先輩……はい! 見てて下さい!」

「マリアちゃん、冷静にね」

「わかっています」


 この分なら大丈夫そうだ。 都姫との練習試合で一皮剥けたかな。


「よし、いっておいで!」


 私達はスタメンの後輩達を送り出してベンチに腰掛ける。



 ☆渚視点☆


「小川さん、司令塔頼むで」

「任しといてよ」


 私達2年生の司令塔はセッターの小川さん。 去年の新人戦の頃から私達を引っ張ってくれてる信頼できるプレーヤーや。

 さて、化け物じみた先輩達がコートにおらへんこの試合。 負けるわけにはいかへんで。


「気張っていくでー!」

「おうー!」


 コートメンバーに気合いを入れる。

 問題児の1年生廣瀬さんも、最近はプレーが洗練されてきてるし、あれが本来のあの子のポテンシャルなんやろう。

 伊達に全中制覇はしてへんっちゅうわけやな。


「あれ? そっち1、2年だけ?! 清水さん達は?」

「ベンチと応援席でーす」


 麻美がストレッチしながら応えると、お相手さんはあんぐりと口を開ける。


「半分をレギュラーにすら入れてないって、余裕見せ過ぎでは……」

「先輩には先輩なりに何か考えがあるみたいですねん」


 後輩育成に重きを置く清水先輩の采配である。

 自分達が引退した後の事を、何よりも第一に考えてくれている人や。

 思えば、1年生の頃から私達に期待して試合に使ってくれとったなぁ。


「1、2年だけだからってナメてはかからないわよ?」

「お互い全力を尽くしましょう!」


 という事で、1回戦試合開始。

 お相手さんのサーブからやな。


「森島さん!」

「オーライ!」


 サーブを軽くレセプションしてみせる森島さん。 うちの先輩達のサーブに比べたら可愛いもんやで。

 上がったボールをみて小川さんが落下点へ移動する。

 と、同時に黒川さんが助走を開始。 そしてトスが上がる瞬間に私が助走を始め、少し後から廣瀬さんが助走。

 ワンテンポずつズラしたコンビネーション攻撃や。


「廣瀬さん!」


 ここで1年生の廣瀬さんへトスが上がる。

 ブロック2枚。 クロスを閉めるように跳んでるけども詰めが甘いで。

 あの子やったら……。


「っ!」


 スパン!


 廣瀬さんはリベロが構えているストレートではなく、ブロックが塞いでるクロスへと打ち込んだ。

 せやけどそれは、ブロックの指先を掠めるような絶妙なスパイク。


「触った!」


 咄嗟に声を上げるブロッカーやけど、ボールはそのままラインの外へ飛んでいったいってしまった。


「よっしゃナイス!」

「はい!」


 この間の練習試合で、都姫女子の宮下先輩が見せたスパイクと同じやつやな。

 末恐ろしい1年生やな、まったく。


「私も負けてられへんな」

「月島さんにもガンガン上げるからね」

「頼むでぇ!」


 今度はこっちサーブ。 廣瀬さんのサーブや。

 この子、サーブも多彩で色んなサーブを打ち分けよる。

 ただ、どのサーブも発展途上ってとこで、中学レベルならまだしも高校レベルではまだまだ未熟や。

 藍沢先輩からは「亜美の真似するのは良いけど、まず何か1つに絞って極めなさい」とアドバイスされていた。

 そのアドバイスを受けた廣瀬さんが選んだのが……。


「っ!」


 パァン!


 高威力のランニングジャンプサーブや。

 清水先輩にはパワーが欠如してるからなぁ。

 清水先輩に出来ひん事をやっていくつもりらしい。


「ナイサー!」


 気持ちええインパクト音を残して、ボールは相手コートに飛んでいく。

 相手チームのSがそれをレセプション。

 攻撃の組み立て役であるSがボールをトス出来へんってのは、それだけで痛手になるもんや。


「月島さん、止めるよ」

「あいよー」


 黒川さんの指示に従い、リードブロックにかまえる。

 トスが上がる方向を見定めながら……。


「ライト! ストレート閉める!」


 迅速に的確な指示を飛ばす黒川さん。

 麻美が変態的ブロッカーやったら、黒川さんは正統派やな。

 春の大会で全国のコートを経験して、度胸も身についたようや。

 あ、麻美の事は凄いと思ってるで。 良い意味で変態的って感じ。


 パァン!


 相手スパイクは、ブロックを避けてクロスへ打たれる。

 やけど、そこは森島さんの守備範囲や。


「っとぉ!」


 少しつんのめりながら、何とかディグする森島さん。

 少し乱れたか。 小川さんもここは無理せずアンダーハンドで高く上げた。


「3枚。 上等や」


 上がったボールを見ながら、タイミングを合わせて跳ぶ。

 ブロック3枚やったら小細工無用や。


「ぶち抜くまでや!」


 思いっ切り腕を振り抜き、力任せにスパイクを打ち込む。ブロックの手に当たるも、それで勢いが止まることもなくそのまま相手コートに突き刺さっていく。


「っしゃー!」

「おーおーナイスー」


 コートメンバーでハイタッチを交わしていく。

 先輩達無しでもやれるってとこを見せていくで。

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