第386話 先輩と後輩
☆亜美視点☆
インターハイ地区予選に参加中の私達だけど、その予選ももう決勝まで進んできている。
しかしこの大会、今のところ私達3年生の出番はまだ無い。
そう、ここまで1年生と2年生のメンバーのみで勝ち進んできているのだ。
「皆ーいいよぉ。 私達3年生は座ってるだけで楽でいいよぉ」
控室でここまで頑張ってくれているメンバー達に激励の言葉を掛ける。
「本当、楽すぎて寝ちゃいそうよ」
「ははは、先輩達も出たら良いやないですか」
「んー、本当に危なくなったら出るつもりだけど……必要なさそうじゃないかな?」
とはいえ、相手は同じように勝ち進んできたチーム。 今までの相手より強いことは間違いない。
危なくなったらいつでも交替できるようにしとかないとね。
「必要ないですよ。 決勝も私達だけで十分です」
と、タオルで汗をを拭きながら言うのはマリアちゃん。
今日ここまで大活躍をしているし、自信満々になるのも無理はない。 この間の都姫女子との練習試合で大きく成長した彼女。 まだまだ粗削りな部分は変わらないものの、非常にや頼りになるアタッカーだよ。
「自信過剰になるのは良いけど、調子に乗りすぎて浮足立つんじゃないわよー?」
「はい」
奈々ちゃんの言葉にも素直に頷いて答えるのだった。
「でも、今回の地区予選は1日にスケージュールが集約されてるし、ここまでの疲れもあるはず。 次の試合、皆行ける?」
「行けるー」
「余裕です」
「せやせやー」
どうやら、体力的にも有り余っているようだ。
うんうん。 これなら決勝戦のスタメンは今まで通りでいいかな。
「先輩達の出番は今日ありませんって。 安心して引退してください」
「なんかそれだと今日負けちゃいそうだよぅ……」
「ははは。 でも、私達1,2年生だけでも大丈夫やってとこを見せてあげるのが、先輩達への恩返しや思てるんで……」
と、渚ちゃんが私達に言ってくれる。 私が、私達3年生に引退した後を心配しているように、後輩ちゃん達は私達は引退しても大丈夫だというところ早く見せたかったらしい。
「あはは。 任せたよ皆! とりあえず今日勝とう!」
「はい!」
◆◇◆◇◆◇
そして決勝戦の時間がやって来た。 私達は1、2年生を送り出してベンチへ腰かける。
今日は完全にベンチコーチである。 奈央ちゃん達に至っては応援席での応援係だし。
「後輩達、逞しくなったね?」
隣に座る希望ちゃんがそう話しかけてきた。 私は頷く。
ずっと私がやって来たことが実ってる証拠だ。
「これで夏の大会が終わった後は受験勉強に集中できそうね」
「うん。 後は私の後輩育成の精神を皆が引き継いでくれれば言う事なしだよ」
「大丈夫よ。 ちゃんと受け継がれるわ」
「そうだよね」
私達は頼もしく成長した後輩達の試合を、ベンチから眺めながら頷くのであった。
◆◇◆◇◆◇
「ありがとうございました!」
結局、私達は本当に出番がないまま地区予選を突破して、県予選に駒を進めたのだった。
という事で、私達は一度月ノ木学園に戻ってきてミーティングを始める。
「えーと、皆、お疲れ様! 地区予選突破だよ。 私達3年生が出る幕もなかったね」
「ご苦労様! 次は来月頭にある県予選よ。 またレギュラー入れ替えを近々やるから、そのつもりでね」
「はい!」
「うんうん。今日はゆっくり疲れを取ってね! 解散! 気を付けて帰るんだよぉ!」
簡単なミーティングを終えて、今日は解散となった。
私達3年生と渚ちゃん、麻美ちゃんは途中で緑風に寄ろうという事になり、皆でゾロゾロと歩いている。
「今日は何にもしなかったねー」
「そうね。 私達も応援席で良かったんじゃないかしら?」
「あはは。 一応保険はかけておこうと思ってね。 結局全部ストレートで勝っちゃったけど」
マリアちゃんももう冷静さを欠いてプレーが雑になることもなくなったし、良い傾向である。
次の予選は来月か。 さすがに県予選ともなると今日みたいな余裕はないだろうし、3年生全員出さないとねぇ。
1年生の子達をどうするか、そこが迷いどころである。
まあ、それはまた今度考えよう。
緑風に着いた私達は、ゴールデンウィークの予定を話し合う。
ゴールデンウィークと言えば毎年奈央ちゃんのお世話になり旅行なんかに行ったりするんだけど今年はどうするか。
私達3年生は受験生だし、旅行なんてしてる暇もないと言えばないのだけど。
「まぁ、私や亜美ちゃんぐらいになれば多少勉強しなくても余裕だけど」
「いやいや……私達の第一志望はこの辺では一番難関大学だけど……」
「関係ありませんわー」
「いやー……あんた達2人の常識で私達を計らないで頂戴よ……」
と、奈々ちゃんが額を抑えながらそう言う。
「でもまぁ、どこか行けるとしたらこのゴールデンウィークがラストよねー?」
「そうだよね。 大会勝ち進んだら夏休みはインターハイがあるし、それが終わったら本格的に受験勉強の追い込みかけないとだから旅行してる暇ないよぅ」
「受験生って大変だねー」
麻美ちゃんはノーテンキなことを言ってるけど……。
「私らかて来年には受験生やで……」
「あ、そっかー」
と、やはりノーテンキな返答をする麻美ちゃん。
「麻美はもう大学決めてんの?」
「七星!」
「あ、やっぱそうなの……」
「うむ!」
やっぱり七星か。 渚ちゃんは京都帰って地元の大学を受けるって言ってたね。
そう言えば、夏休みには春くんも日本に来て大学受験だって言ってたっけ。
どこ受けるか、奈央ちゃんは聞いてるんだろうか。
「え? 春人君の受ける大学? 私達と同じ白山よ?」
「あ、そうなんだ」
考えてみればそれが自然だよね。 将来奈央ちゃんの家に婿養子になるなら、西條家を一緒に支えていくことになるんだし……。
「そっか、春くんとも同じ大学へ行くことになるのかぁ」
「上げませんわよ?」
「い、いらないけど……」
って言うのは春くんに少々失礼な気もするね。
「で、ゴールデンウィークね……そうねぇ」
奈央ちゃんは腕組みして考え込む。
本格的に受験勉強漬けになる前に皆で旅行をするかどうか思案しているらしい。
私はどうせなら行きたいんだけど、皆の受験勉強の妨げになるのは忍びないし……。
「行けばいいじゃない? 勉強なんて旅行先で皆でできるし、もう今年は行くチャンス無いでしょ?」
「そうよー」
と、奈々ちゃんと紗希ちゃんの押しが入ると、奈央ちゃんは「わかったわよ。 どこが良いか考えるわね。 決まったらグループチャットで連絡するからちょっと待ってて」と、旅行へ行くことが決定した。
行き先がどこになるか楽しみである。
◆◇◆◇◆◇
その日の夜の事。
夕食を食べていると、奈央ちゃんからのチャットが飛んできた。 どうやら行き先が決まったらしいけどその場所は……。
「沖縄ー?!」
なんと、今回は沖縄へ行くという事らしい。 随分遠くまで行くんだねぇ……。
希望ちゃんも夕ちゃんも、今回の行き先を聞いてびっくりしていた。
奈央ちゃん、沖縄にも別荘持ってるんだねぇ……。
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