第377話 美智香のお泊り

 ☆亜美視点☆


 明日の練習試合の対戦校である都姫女子学園のエース、宮下さんがわざわざ学校を休んでまで千葉に前乗りしてきた。

 月学バレー部の練習に参加し、練習の後は今井家で一緒に夕食を食べている。

 更には、元清水宅に泊まる事にもなっている。


「いただきまーす」


 夕食が出来て、皆で食卓を囲む。

 6人という人数は、少々多い。

 更に、麻美ちゃんと宮下さんが揃うと賑やかを通り越して騒がしいレベルである。


「へぇー、じゃあ藍沢妹ちゃんも小説で稼いでるんだ? すんごいね!」

「なははー、それほどでもありますけど!」


 何という盛り上がりっぷり……。 今日はこれが寝るまで続くようだ。

 というか、徹夜で話し込みそうな勢いだよ……。


「私はマンガぐらいしか読まんからねー。 活字見ると頭痛してくるのよ」

「えー、勿体ないー!」

「でも、活字ダメな人っているよねぇ」


 私の周りは皆、比較的読書する人が多いけど、宮下さんみたいな人もいるという事は認識している。

 小説家としては、そういう人達にも読んでもらえるような作品を書きたいものである。


「宮下さんってさ、学校の成績はどうなの?」


 そういえば、世界選手権中もなんか怪しい感じがしていた。

 英語はまあ仕方ないとして、地図の読み方や国の名前なんかもおかしかった気がする。


「まあ、進級出来るギリギリのラインはキープしてるわよ……毎回ヒヤヒヤもんだけどね」

「将来はやっぱりバレーボール続けて行くの」

「これで食べてけるならVリーガー1択よ!」


 勉強したくないと、実に気持ちいいくらい正直に言うのだった。


「引退した後とか考えてる?」

「そりゃその時考える」

「……なんか、将来の事で悩むのバカらしくなるな」

「そうね……」


 夕ちゃんと奈々ちゃんが唖然としていた。

 思うままに生きてるって感じで、ちょっとだけ羨ましい。


「それにしても、夕食美味しいわー。 夕ちゃん君も幸せ者だね」


 と、本当に美味しそうに夕食を食べる宮下さん。 私達も頑張った甲斐があるよ。


「んー」


 宮下さんは、お箸を咥えたままで、私達の顔をぐるりと見回すと……。


「夕ちゃん君、こんな美少女に囲まれてるのに、1人だけしか選べないって可哀想!」

「それな!」


 宮下さんの言葉に、つい正直に返答しちゃう夕ちゃん。

 そこから話は女子トークへ。


「元々は雪村さんと付き合ってたんでしょ?」

「そうだよぅ! 私の彼氏だったんだよぅ」


 希望ちゃんがここぞとばかり前に出てくる。

 必死である。


「たしかに清水さんは魅力的だけど、雪村さんぐらい可愛い子と別れてまでよく乗り換えられるねー。 しかも義理の姉妹間でしょ?」

「そうは言ってもなぁ……色々あったんだよ」


 と、夕ちゃんはかいつまんで説明する。

 すると宮下さんは……。


「清水さんが拗らせてただけかぁ。 うん、清水さんが悪い!」

「あんまり言わないでぇ……」


 夕ちゃんと付き合う以前の事はもう忘れたいのだ。


「藍沢妹ちゃんは? 去年の学園祭見てた感じだと、君も夕ちゃん君に惚れてるようだったけども。 って、言っちゃダメだったかな?」


 宮下さんは「ごめんっ」と両手を合わせて謝ったが、麻美ちゃんは「大丈夫です!」と、応えた。


「夕也兄ぃの事は好きだけど、亜美姉や希望姉が相手だとねー」

「そっかなー? 元気あって可愛いと思うけれど」

「あははー、ありがとうございます」

「まあ、私が皆の関係に口を挟むべきでは無いかな。 皆、頑張りたまへ!」

「頑張るよぅ!」

「おーっ!」


 何故かやる気になっている希望ちゃんと麻美ちゃんなのだった。


 

 ◆◇◆◇◆◇



 夕食を終えた私達は、夕ちゃんを1人残して元清水宅へと移動してきた。

 後は順番に入浴して寝るだけである。


「なんかさ、前来た時とリビングの雰囲気違うくない?」

「あはは……」


 宮下さんは去年の学園祭の翌日に、一度だけ清水宅を訪れている。

 あの時はまだ私達の家だったんだけど、今は西條家別宅となっている。

 それを説明すると。


「はぇー、なるほどなるほど。 そいで3人で共同生活をねぇ。 楽しい人生送ってるねー」

「宮下さんもでしょ?」

「いや! 私は彼氏とかいないし!」


 と、腕組みして偉そうに言うと、溜息をついた。 忙しい人だなぁ。


「都姫って女子校でしょー? 出逢いが無いのよ出逢いがー」


 嘆くように言う宮下さん。 宮下さんも顔はかなり良いし、スレンダーでモテるだろう。

 環境の問題というやつなのかもしれない。


「仲の良い男子とか近所にいなかったわけ?」


 奈々ちゃんが質問する。 私達でいうところの夕ちゃんや宏ちゃんみたいな人の事だね。


「いないなぁ。 千沙っちだけね!」


 そういう事らしい。 中々ハードモードなようだ。


「でも、宮下さんぐらい明るくて可愛いなら、男子から寄って来るよぅ」

「そうですよー!」

「あはー、だと良いんだけどねー」


 あまり自信は無いようだ。 私達ではどうしてあげることも出来ないので、少々歯痒さを感じる。


「私の事はまあ良いからさ。 実際どうなわけ? 藍沢さんも以前聞いた時に夕ちゃん君にも一定以上の感情を持ってるって言ってたわよね?」

「あーまぁ……今も変わりはしないけども」

「ずばり! 宏ちゃん君から乗り換えは?」

「んー……場合によりけり?」

「よりけるの?!」


 衝撃の事実である。 場合によっては、私から夕ちゃんを奪う事もあり得ると。


「あ、あげないからね?」

「そんな必死にならなくてもいいわよ……」

「お姉ちゃんもライバルゥ」

「はぅーはぅー」


 なんか変な盛り上がりを見せる一同であった。


「でもさぁ、この4人の内3人は夕ちゃん君とアレした経験あるんでしょ? 彼凄いねー」


 私、希望ちゃん、奈々ちゃんで顔を見合わせる。 夕ちゃんたしかに凄いね。

 幼馴染を皆食べちゃってるよ。


「妹ちゃんはまだ食べられてないのねー」

「なははー、そうだねー」


 麻美ちゃんにまで手を出してたらもう大変だよ。


「あー、そういう事になってんのね」


 と、ここで奈々ちゃんが何か納得したように頷く。

 まったく意味がわからない。


「何々? 奈々ちゃん何に納得してるの?」

「いえ別に? 夕也ってば本当に凄いわねーって話よ。 ね、麻美?」

「えっ?! そ、そだねー!」

「んー?」


 何故か麻美ちゃんに話を振り、振られた麻美ちゃんはビクッとして妙なテンションになる。

 謎だ。


「あー、そういう感じか」


 そのやり取りを見て、宮下さんも何故か納得の様子。 私と希望ちゃんは話についていけず、顔を見合わせて首を傾げるのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 全員入浴を終えて、寝室へ移動してきた私達。

 と言っても、奈央ちゃんが泊まる為の部屋、つまり以前の両親の寝室である。

 ベッドが置かれているが、それを廊下に移動して床に布団を無理矢理3枚敷く。


「私は希望ちゃんと1つの布団で寝るね」

「んじゃ、私はお姉ちゃんとー」

「あれ? 私が1枚独り占めで良いの?」


 お客さんである宮下さんには窮屈な思いはさせたくないので。


「どうぞどうぞ」

「ありゃ、ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げてお礼を述べる。 意外と礼儀正しいようだ。


「明日は負けないからねー。 うち、絶対春の大会より強くなってるし」


 布団に入ると、話は翌日の練習試合の話題へ。

 春高では、宮下さん一辺倒の攻撃だった都姫女子。 その結果、最後の最後に宮下さんが限界を迎えるという終わり方をした。

 あの試合、はっきり言って勝った気がしなかったけど……。


「私達だって強くなってるよ」


 今回は納得のいく勝ち方をしたいね。

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