第376話 練習試合前日
☆奈々美視点☆
今日は4月23日金曜日。
翌日の24日には、今年度初の他校との練習試合が組まれている。
明日のお昼前には相手校の選手達も千葉へやってくるらしいんだけど……。
「いやー! 悪いね。 練習に参加させて貰っちゃって」
「いや、別に良いんだけどさ……」
学校を休んで前乗りしてきた選手が約1名、私達月ノ木学園バレーボール部の練習に加わっていた。
その選手っていうのは……。
「はい、集合! 今日は他校から特別に練習に参加してくれる人がいます!」
亜美が部員に集合をかけると、わらわらと人が集まってきた。
「はい、自己紹介どうぞ」
「ありがと。 こほんっ! 東京 都姫女子学園3年、宮下美智香です! 明日の練習試合の為に前乗りしてきました! 本日は練習に特別に参加させていただき、ありがとうございます!」
パチパチ……
そう、こんな変わった事をするのは彼女、宮下さん以外にはそうはいないだろう。
明日の練習試合の相手は東京都姫女子なのだ。
4月に入ってすぐ、うちの学校に練習試合の申し込みがあった。
どうやら、宮下さんがコーチに頼み込んだらしいけれど……。
行動力の塊みたいな人ね。 やっぱりどことなく麻美に似ているわ。
「じゃあ、まずランニングからねー」
亜美が指示を飛ばすと、キビキビとした動きでランニングへ向かう部員達。
私達もそれに続く。
外周に出た所で、宮下さんが声をかけてきた。
「後輩多いね。 うちもかなり入ってきたけど」
「そうね。 おかげで体育館が狭い狭い」
「バスケ部と共同なのね」
「そうなんだよ。 来月からは練習場所変えてもらえるから、もう少しの我慢だけど」
亜美が学園側に申請して、ようやくそれが叶ったわけ。
「最強月ノ木学園さんも苦労してるのねー」
「私達より前の世代は、弱小だったもの。 仕方ないわよ」
「なるほど」
私と亜美と宮下さんで並走しながら走っていると、宮下さんが早速勝負を持ちかけてきた。
「誰が速いか勝負!」
「良いわよ」
「え? え?」
いきなりの展開についてこれていない亜美を置いて、私と宮下さんでペースを上げる。
やっぱり、宮下さんには負けたくないわね。
亜美の事もライバルとして見てはいるけど、正直言ってスペックに差があり過ぎるのよね。
その点、私と同等のスペックの持ち主である宮下さんは、実にライバルらしいライバルだわ。
「宮下さん、ちょっとオーバーペースなんじゃないの?」
「いやいや、そっちこそ」
前を走る下級生達をごぼう抜きにしながら、お互い一歩も譲らない。
前方には、紗希と希望の背中が見えてきている。
「藍沢さんは、あそこでゆっくり仲良く走ってた方が良いんじゃない?」
「そっちこそ息入れた方が良いんじゃないの?」
もはやランニングとは言えないペースで並走する私達。
「はぅ?!」
「おわっと?!」
あっという間に紗希と希望を置き去りにしていく。
「あまり飛ばしてると、春の大会の時みたいにバテちゃうわよー?」
「あれから鍛えてきてるからまだまだ余裕よ」
「私もっ!」
お互い更にペースが上がり、前を行く遥と奈央に並ぶ。
「……貴女達、もう少しゆっくり走れませんの?」
「何だい? レースかい?」
2人も相当速いのだが、私達はその2人を抜いて更に加速する。
「話聞いてますの?」
「うげっ?! 西條さん?!」
「楽しそうだし混ぜてくれよ」
「遥っ?!」
かなり飛ばしている私と宮下さんに、余裕でついてくる両名。
ば、化物過ぎる。
「こらーっ! 2人ともペース考えて走りなさーいっ!」
そして、更にその後ろからもっと化物じみたのが猛スピードで追いついてきた。
か、かなり離したと思ったんだけど……。
「き、清水さんまで?! な、何なのよこのバレー部!?」
結局、気付いたら亜美が私達の前にいて、ペースメーカーとして私達のペースを支配していた。
「お、恐るべし清水さん……」
勝負は翌日の試合に持ち越しという事になったのである。
◆◇◆◇◆◇
「はーい。 んじゃ、いつも通り練習始めちゃってねぇ!」
ランニングを終えた私達バレー部は、体育館へ戻ってきて練習を開始。
もちろん、スペシャルゲストの宮下さんも練習に参加する。
「西條さん、トスお願いしまーす」
「はい。 サインは覚えてます?」
「もち!」
去年日本ユースとして同じチームでプレーしていた為、奈央とのサインのやり取りも可能。
宮下さんがサインを出すと、奈央が先に山なりの高いトスを上げる。
オープン攻撃ね。
「相変わらず綺麗なトスですこと!」
宮下さんが助走に入り、高く跳び上がる。
「うぇーい!」
それに合わせて奇声を上げながら跳び上がるのは、我が妹の麻美。 宮下さんのスパイクをブロックするつもりのようね。
一緒に黒川さんも跳んでいるわね。
「お、来たね藍沢妹ちゃんと、春高で私と戦った子! 勝負!」
最高点に到達した宮下さんは、腕を思いっきり振り抜きスパイクを放つ。
ボールは、2人の腕の間を綺麗に抜けて決まる。
「はい、私の勝ち! まだまだじゃのー」
「くーっ、やっぱり上手いなぁ宮下先輩は」
「また止められなかった……」
抜かれてヘラヘラしている麻美と、落ち込む黒川さん。 対極的な性格のブロッカーねぇ。
にしても、相変わらずのテクニック。
いや、春高の時より磨きがかかってるわね。
宮下さんのスパイクに感銘を受けた1年生OH達が、宮下さんの元に集まっているのが見える。
人気者ねぇ。
その後も一緒に練習して、現在は一休憩中。
「バスケ部と話したりしないの?」
「練習中は基本的にはしないわね。 亜美はたまに夕也のとこに行ってるけども……」
とはいえ、最近はキャプテンらしくなってきてそれも減ったが。
「ふーん。 そういえば、1年に凄い子入ってるわね?」
多分マリアの事でしょうね。 宮下さんから見てもやっぱり良いプレーヤーに映るようだ。
「ありゃ伸びるわ」
「私達も期待してるんだけど、ちょっと問題があるのよね」
「問題?」
マリアが抱えている問題。 それは亜美へのコンプレックスである。
何とか克服して一皮剥けてほしいわね。
「まあ、あの子なら何とかしそうな感じするわ」
と、宮下さんはそう言うのだった。
練習を終えた私達は、着替えて帰路につく。
宮下さん、今夜は元清水宅に泊まる事になっているようだ。 夕食は今井家で一緒に食べるらしい。
「藍沢さんは来ないのかい?」
「いや、さすがに邪魔じゃないかしら? 夕也にも悪いし」
「何を今更。 散々人の家を集会所代わりにした癖に……」
「あはは。 そうだよ。 気にせずおいでよ。 んで、一緒にお泊りしよ?」
と、亜美にそう言われたのでお言葉に甘える事にした。
◆◇◆◇◆◇
一旦私の家に寄ってから今井家へやって来た私達。
早速夕食の準備に取り掛かる。
何故かついてきた麻美と、お客さんの宮下さんにはリビングでゆっくりしてもらう事に。
リビングの方からは、騒がしい声がキッチンまで聞こえてくる。
今井家に初めてお邪魔する宮下さんは、かなりテンションが上がっているらしい。
その上、麻美とは馬が合うため相乗効果で騒がしさも二乗である。
「賑やかだねぇ」
「2人であれだけ盛り上がれるって凄いわね」
「夕也くん大丈夫かなぁ……」
あー、あのハイテンションな2人に挟まれると大変そうね。
同情するわ……。
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