第363話 希望の決意
☆希望視点☆
お花見の宴会は一段落して休憩も終えた私達は、仲良く釣りを楽しんでいた亜美ちゃんと宏太くんに合流して、辺りの散歩を開始した。
それにしても、遠目に見た亜美ちゃんと宏太くんは凄く仲良さそうだったなぁ。 知らない人が見れば恋人同士と思うほどに距離が近かったよ。
亜美ちゃんの中では、宏太くんってどんな立ち位置になってるんだろう?
なんて考えを巡らせながら、仲良く手を繋いで歩いている亜美ちゃんと夕也くんの後ろをついて歩いていく。
周りには大きくて綺麗な湖が右手に、左手側には視界一杯に広がる桜の木々という実に素晴らしい景色が展開されている。
さわやかな風が吹き、桃色の雪が舞い散っているかのような幻想的な光景である。
「うーん……桜吹雪の中の儚い美少女って感じね」
「な、奈々美ちゃん?」
隣を歩いていた奈々美ちゃんが、私に意地悪な笑顔を見せながらそんな恥ずかしい事を言う。
は、儚い美少女って……私はそんな大層な物じゃないと思うけどなぁ。
「私にはそんな言葉は似合わないんじゃないかなぁ」
「そんなことないわよ? 遠くから見たら絵になる美少女に見えるわよ絶対」
「はぅ……」
美人さんな奈々美ちゃんからそう言われると、ちょっと悪い気はしないね。
亜美ちゃんにもよく言われるけど、私は自分の容姿にもっと自信を持っていいらしい。
「どうなのよ? 夕也とは」
「どうって言われても……共同生活は上手く行ってるよぅ? 夕也くんにも家事出来るようになってほしいって亜美ちゃんは言ってるけど」
夕也くんが家事すると、めちゃくちゃになっちゃうんだよね。 不思議だよ。
「そうじゃなくて、亜美との奪い合いの方よ」
「奪い合い……」
一応、諦めるか諦めないかの間で悩んでいた時期はあるものの、やっぱり一緒にいると好きっていう気持ちが捨てられなくて、結局は2人の隙を見てチャンスを窺がっているのが今の状況である。
「狙ってるんでしょ? 逆転」
「う、うん……でも中々チャンスが無くてね」
「まぁそうでしょうねぇ。 あの2人、基本的にケンカとかもあんましないから、付け入る隙ってのが生まれにくいわよね」
そうなのである。 2人はとにかくケンカをしないのだ。
いくら仲が良くても、一緒にいればそれなりに衝突したりすると思うんだけど、多分夕也くん優しすぎるからだろうね。
亜美ちゃんはあれで結構我儘なところあるから、色々無理言ったりもしてるだろうし。
「奈々美ちゃんは、亜美ちゃんの味方なんだよね?」
「まぁ、そうねぇ。 一応そういう立場ではいるつもりよ」
「そっかぁ……」
私が頼れそうなのはやっぱり紗希ちゃんかな? 今夜にでも何か相談してみようかな?
「夕也の中では希望の事どうなってんのかしらね?」
「さあ……」
わからないけど、一定以上の感情はあると思うんだよね。
毎月1回のデートも嫌がらずに続けてくれているし。
「まあ、今は面倒なこと忘れて、この景色を楽しもうよ」
「そうね」
今はこの時間を楽しもう。
「希望ちゃん。 夕ちゃんの左手空いてるよぉ?」
と、急に亜美ちゃんが振り向いて声を掛けてきた。
亜美ちゃんはまだまだ私には甘い。
「うん」
私はありがたく夕也くんの左手を握って桜並木を歩く。
去年の秋、こうやって3人で紅葉狩りしたのを思い出す。
「凄いよねぇ、この桜並木と湖のコラボレーション」
「うん。 綺麗だね」
「夕ちゃんもそう思うでしょ?」
「そうだなぁ。 地元じゃ見れないな」
「これから遊歩道に入るわよー」
「はーい」
桜並木の真ん中をぐるりと周遊出来る遊歩道を、ゆっくりと歩く私達。
紗希ちゃんと麻美ちゃんが元気にはしゃぎ、奈央ちゃんと奈々美ちゃんが2人を静止する。
そんなやり取りを見ながら、笑いながら桜並木の中を行く。
遊歩道をじっくり時間をかけて周って、先程までお花見をしていた場所へと戻ってくる。
「んー! 目の保養になったねー!」
「そうねー!」
「元気ねぇあんた達2人は」
「本当……止める私達が疲れるわ」
「あはは……」
「んじゃ、そろそろ荷物まとめてバスに戻るか」
「そうね。 別荘に戻りましょ」
話はまとまり、シートを片付けて荷物をまとめ、桜並木の公園をあとにする。
◆◇◆◇◆◇
奈央ちゃんの別荘へと戻ってきた私は、部屋に戻って少し一休み。
「……夕也くんの事……もっと頑張らなきゃなぁ」
本当に夕也くんの事を本気で好きなら、チャンスが来るのを待ってちゃダメだよね。
亜美ちゃんがしたように、本気で奪い返しに行くべきなんだよね。
「……紗希ちゃんに相談にいってみようかな」
亜美ちゃんと取り合っていた時、私の味方をしてくれていた紗希ちゃん。
恋愛に関してもかなり強気の考えを持っている。
思い立ったがなんとやら。 早速紗希ちゃんの部屋へ向かう。
◆◇◆◇◆◇
紗希ちゃんの泊まっている部屋へやって来て、夕也くんの事を相談すると、ベッドの上で胡座をかきながら話を聞いている。
「ふむふむ……まあ見てればわかるけどね」
「そ、そう?」
「いつも傍にいるんだもん。 忘れるのは無理だよねー」
「うん」
それにずっと好きだし、一度は恋人として想い通じ合った仲だし……。
「亜美ちゃんから奪い返したいわけだー?」
「というか、出来る限りの事をやっておきたいっていうか」
「ふーむ。 正直なこと言うと……今の亜美ちゃんから今井君を奪い返すのは至難の業よー?」
「わかってるよぅ……」
今の2人を見ていれば、私が入り込むのは容易じゃないことはわかる。
「それでも、やっぱり何かやれることはやっておきたいよ」
「……じゃあ、手っ取り早く寝取り返しちゃう?」
「ね、寝取り返す?」
「そ! 要するには今井君を襲っちゃおうぜ! ってこと」
「はぅ……」
やっぱり紗希ちゃんに相談すると、こういうアドバイスが返って来るんだね。
でも……。
「わかった」
「おぉ? 希望ちゃんにしては前向きかつ強気ねー」
「恋は戦争なんだよね?」
「そーともー!」
私だって、欲しいもののために戦えるんだよぅ。
でも具体的にどうすればいいのだろう?
「んじゃんじゃんじゃー! 今晩夜這い仕掛けるわよーん!」
「……え?」
「え?」
今晩早速? さ、さすがにもうちょっと計画的にいった方がいいような気もするけど……。
「希望ちゃん。 戦況って言うのは刻々変化していくものなのよ。 手をこまねいていては、手遅れになることだってあるのよ!」
「はぅ」
と、紗希ちゃんに長々と力説されてしまいました。
「と、いう事だから今晩決行! OK?」
「は、はい」
ご、ごり押しされてしまった。 結局今晩、私は夕也くんの部屋に行き、夕也くんに体で迫っていくことになっていくことになった。
「じゃあ、私もお手伝いするわー」
「……え?」
「え?」
紗希ちゃんがお手伝い? 何で?
「いんやー。 夜が楽しみねー」
「あ、あの紗希ちゃん?」
「ん?」
「お手伝いって?」
「え? もちろん2人で今井君を襲うのよ? ふふふーついにこの時が来たわねー」
「……えええ!?」
紗希ちゃんはどうやら、私と2人で夕也くんを襲いに行くつもりのようだ。
何だか大変なことになっちゃったよぅ……。
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