第350話 見つけた答え

 ☆遥視点☆


 まさかの、先輩からの恋人立候補発言から一夜明けた翌日……。

 いつも通り学校へ行く途中。


「バカなの? ねー、遥はバカなのー?」

「はぁ……何やってるのよ……」


 小学生の頃からの付き合いで、親友とも呼べる2人、奈央と紗希からひどい言われようをしていた。

 昨夜の先輩の恋人立候補発言に対して私は……。


「何が『ちょっと待ってください』よ……」

「そうよそうよー? 2つ返事でOKする場面よそこはー」


 と、まあ……返事を先延ばしにしてしまったわけである。

 勿論嫌なわけではないし、むしろ嬉しかったぐらいだ。

 にも関わらず、テンパった私は保留の道を選んだのだった。


「んで? その彼はなんて?」

「気長に待つって……」

「待たすなー!」


 ガミガミとうるさいのは奈央の方。

 紗希は呆れてはいるものの、冷静に私の話を聞いている。


「実際、あんた的にどうなのよ?」

「……昨日1日デートしてみて、先輩となら良いかもとは感じた」

「だったらなんでー!」

「あーもう、奈央はちょっと黙ってなさい。 はい、キャンディー!」

「わーい」


 紗希は奈央との付き合いが長いだけあり、扱いが異様に上手い。

 今も子供モードで通学中の奈央を、キャンディー1つで黙らせた。


「あんたは、まだ考えた方が良いと思ってるの?」

「そう……かもしれない?」

「こりゃまだ答えが見つかってないって感じね……」


 紗希は、返答に詰まったのを見てそう言った。


「待たせるのは良いけどさ、早めに答え出して返事しなきゃダメよー? 待ってる間に冷めちゃうとかあり得るし」

「わ、わかった……」


 恋愛に関して、これ程頼れる友人は紗希ぐらいだ。

 しかし不思議だ。 彼氏との交際歴こそ長いが、そんなに色々な経験したわけでもないだろうに、なんでか頼りになるんだよな。



 ◆◇◆◇◆◇



 学校に到着したらしたで、教室では奈々美に呆れられ、昼休みは昼休みで亜美ちゃんや希望ちゃんに溜息をつかれる。


「遥ちゃん……私は悲しいよ」

「あ、亜美ちゃん……何故悲しむ……」

「でも、早く返事はした方が良いよ?」

「紗希にも言われたよ」


 先輩がどこまで本気なのかもよくわからない。

 いきなり恋人に立候補だなんて……。

 実は彼女欲しいから、誰でも……いやいやいやいや、神山先輩はそんな人じゃないだろ。


「それで、次に会えるのはいつなのよ?」


 奈々美が、昼の弁当を食べながら訊いてくる。

 次に会えるのは……。


「週末にジムで顔を合わせるかもしれないってぐらいだね」

「かも?」

「そんな毎週時間まで合わないよ」

「あー、そうなの」

「というか、連絡先知ってるんなら電話なりメールなりすれば良いんじゃ?」


 とは亜美ちゃんの言葉。 至極真っ当な意見だ。 

 ただ……。


「ま、まだやっぱり少し考えてみたいんだ」


 私の言葉に、友人達顔を見合わせた後で「はぁ……」と、深い溜息をつき「わかった」とだけ残した。



 ◆◇◆◇◆◇



 そのまま、神山先輩への返事を保留にしたまま日にちは過ぎ、週末の土曜日になった。

 いざ会うかもしれないと思うと、どういう顔で会えば良いのか、なんて話しかければ良いのか、そんな考えが頭に浮かぶ。


「行かないっていう手もあるよなぁ……」


 でもそれだと、先輩を避けていると思われるかもしれない。

 と、散々悩みに悩んだ結果、私はいつも通りにジムに顔を出す事にした。

 

 ジムに着き、更衣室で着替えた後にトレーニングルームへ顔を出す。

 キョロキョロと周りを確認するも、神山先輩の姿はない。

 今日はまだ来ていないのか、あるいはもう帰ったのか。


「ふぅ。 とりあえず今日は背筋メニューでもやるか」


 軽く体をほぐしてからトレーニングを始める。


「ふぅ……ふぅ……」


 体を動かしていると、余計な事を考えなくて済むので良い。

 

「おー、遥ちゃんやってるなぁ!」

「あぁ、木下さん。 どもっす!」


 常連の大学生の男性に声を掛けられたので、軽く挨拶を交わす。

 スポーツジムだけあり、年上の男性が多いのは仕方ない事なのかね?


「神山先輩ってもう帰っちゃいました?」

「神山君かー? 今日は来ないんじゃないか?」

「え?」


 まあ、用事があったりすれば来ない事もあるだろうけど、どうして木下さんがそれを知ってるんだ?


「神山君なら、さっき可愛い女の子と歩いてるのを見たぞ。 同い年くらいの髪の長い子だったなー」

「へ、へー? か、彼女さんっすかねー?」

「仲は良さそうだったぞー」


 そう言って、木下さんは別のマシンでトレーニングを始めた。

 どういう事なんだ? あの立候補発言からまだ1週間経ってないんだけど……。

 もう返事を待つのはやめて、他の女性と?

 結局は女なら誰でも良かった?


「……っ!」


 私は怒りが込み上げてきて、気を紛らわす為に一心不乱にトレーニングに打ち込んだ。


「(最初からおかしいと思ってたんだ。 こんな私がデートに誘われたり、告白されたりなんてするわけないじゃないか……)」


 少しでも嬉しいなんて思った私がバカだったよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 夢中になって今日のメニューをこなした私は、コインシャワーで汗を流して着替えた後、皆に愚痴でも聞いてもらおうと思い、緑風に呼び出した。

 皆は返事をしたのかと期待していたみたいだが……。


「はぅ……」

「んー……返事を待たずに違う女の子とデートねぇ」

「ひどいと思わないか?」


 今日聞いた話を皆にしてみると、皆が真剣に聞いてくれる。


「もし本当にそうなら、ひどい話だよねぇ」

「でもさ、遥自身が直接見たわけじゃないのよね?」


 メロンソーダをストローでくるくるとかき混ぜながら、紗希が私に訊いてきた。


「ま、まあ聞いた話だけどさ……」

「ちなみにその話を聞いた時、あんたどう思った?」

「そりゃ、ムカムカっとしたに決まってるだろ。 ただ、ショックな気持ちと胸にチクリと痛みが……」


 あれは何だったんだろうか。


「好きなんだよ、あの人の事」


 亜美ちゃんが私の心を見透かすように言った。

 

「す……き……」


 しっくりときた。

 今までは、本当はどうなのかわからずにいたけど、今になってわかった。

 この気持ちはやっぱり恋だったのだ。

 友達付き合いじゃない、もっとその先の……。


「……今更わかったって」

「遥……」

「まだ諦めるな!」


 大きな声を上げたのは紗希だった。

 恋愛に人一倍うるさい紗希が、私の顔を見て真剣な眼差しを向ける。


「恋は戦争よ。 好きなら奪いなさい」

「いつか聞いたようなセリフね」

「あぅ……黒歴史が蘇るよぉ……」


 亜美ちゃんは、頭を抱えて何か呟いているが……。


「う、奪えって……」

「やっと答えを見つけたんでしょ? 好きなんでしょ? だったら前進あるのみよ」

「さ、紗希は冷静になりなさいな……」


 今度は奈央が紗希をなだめている。 紗希は「冷静だけど?」と返し、スッと立ち上がった。


「呼び出しなさい、その彼を。 一緒にいたっていう女も」

「さ、紗希ちゃん……」

「はぅっ?!」

「しゃーないわね……こうなったら全面戦争よ」

「奈々ちゃん、暴力はダメだからね?」


 何かわからないけど、とんでもない方向に話が進んでしまった。



 ◆◇◆◇◆◇



 結局、私はメールで神山先輩を呼び出す事になってしまった。

 駅前広場で友人5人と並んで、先輩達が来るのを待つ。


「どうしてこうなった……」

「遥が鈍臭いからよー」

「私の所為かい?!」

「そらそうよ? さっさと返事しときゃ良かったんだから……」


 と、正論で口撃されてはぐぅの音もでないというやつである。

 仕方ない。 覚悟を決めるか。


「あ、来たよ。 あの人だよね?」

「女の人も一緒だよぅ! 許すまじだよ!」


 希望ちゃんが何故か熱くなっているが、この後は人見知りが発動して小さくなるのが容易に想像出来る。


「さあ、戦争よ」


 紗希が腕を組み、物騒な言葉を放った。

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