第346話 3人のホワイトデー

 ☆亜美視点☆


 3月14日のホワイトデー。

 日曜日という事で、夕ちゃんからデートに誘われた。

 ただし2人だけではなくて、希望ちゃんも一緒の3人デート。

 こうやって3人一緒にお出掛けするは何回目だろう?

 夕ちゃんはまず、友チョコをくれた友人達にお返しを持って行きたいと言うので、皆の家を回るところから始まった。

 私と希望ちゃんへのお返しがまだ無いってことは、今日何か買ってくれたりするのかな?

 いやいや、期待しちゃ悪いよね。


 ピンポーン……


 まずは藍沢家へ。

 奈々ちゃんと麻美ちゃんだね。 何をお返しするのかな?


「はいはい……あら、3人でどうしたのよ?」


 出てきたのは奈々ちゃん。 部屋着も決まってるねぇ。


「あぁ、これから3人で出かけるんだが、その前にバレンタインのお返しをな」

「……え? 夕也がバレンタインのお返し? どうしたのよ急に……去年までろくにお返しなんてしなかった癖に……」


 そうなのである。

 夕ちゃんってば、毎年友チョコ貰ってるのに全然お返ししないのだ。


「悪かったな! ほらよ。 麻美ちゃんいるか?」

「いるわよ? 麻美ー! 夕也来てるわよー!」


 ドタドタドタ……バタバタバタ……



「夕也兄ぃ!」

「家の中走らないの……」

「元気だねぇ……」

「ほれ、バレンタインのお返し」

「あわわ! あ、ありがとう!」


 2人はお返しの中身を確認する。


「ほぉ……これは私が欲しかった香水じゃん。 やるわね夕也」

「あんなあからさまな要求のしかたすればなぁ……」


 夕ちゃんにしては上出来である。

 麻美ちゃんの方は……。


「おー! 新色のリップ! これ欲しかったんだよー! ありがとう夕也兄ぃ!」

「いやいや、毎年バレンタインチョコありがとうよ」


 満足そうな奈々ちゃんと麻美ちゃんに別れを告げて、次なるは奈央ちゃんの家へ向かう。



 西條邸──



「相変わらずでかいよなぁ、奈央ちゃんの家は」

「そうだね」

「未だに慣れないよぅ」


 呼び鈴を鳴らしてから数分で、奈央ちゃんが門前までやってきた。


「あら、どうされたんですの?」

「バレンタインのお返しを持って来たんだが……」

「今井君が? 珍しいですわね」

「ま、まあ仲良くしてもらってるからな。 ほいこれ」

「ありがとうございます。 どんな宝石かしらね」

「うぐっ……」

「ふふふ、冗談ですわよー。 あら、リボンですか。 可愛らしい色ですこと。 大事にしますわねー」

「じゃあまた明日」


 奈央ちゃんにもお返しが完了したので、次は紗希ちゃんの家。

 奈央ちゃんの家から結構近い場所にあるよ。

 よく希望ちゃんが遊びに行ってるようだ。



 神崎邸──



「はいはいー! わお、今井君じゃん!」

「私達もいるよー」


 さりげなく私と希望ちゃんを見て見ぬ振りしたね……。


「どしたの? まさかデートのお誘いかな?」

「あー、いや。 バレンタインチョコのお返しをだな」

「お返し? チューで良いよチューで」

「紗ー希ーちゃん!」


 油断も隙も無いんだから……。


「あはは。 これは本? おーデザイン本じゃーん! これは持ってなかった。 ありがとう今井君!」

「役に立つと良いんだが」

「立つ立つー! 感謝感謝」

「じゃあ俺達はこれで」

「はいほーい。 また明日!」


 紗希ちゃんの次は遥ちゃんだ。 まだ家にいるかな?



 蒼井邸──



「お? 珍しいね、私の家に来るなんて」

「まだ出掛けてないんだね?」

「あ、うん……16時に待ち合わせだから」


 なるほどなるほど。 たしか映画見て食事だっけ?


「で、何の用事だい?」

「バレンタインのお返しを持って来たんだ。 これ。 良かったら今日のデートにでも使ってくれ」

「髪留めかー。 サンキュー! ありがたく使わせてもらうよ」

「夕也くんにしては素晴らしいチョイスばかりだね?」

「あ、やっぱりそう思うよねぇ」

「……バカにしやがって」


 夕ちゃんはちょっと傷付いたようである。

 でも、やっぱり夕ちゃんにしては中々頑張った方だ。


「じゃあ俺達は行くわ」

「あぁ、また明日な」

「遥ちゃん、頑張ってね!」

「明日、話を聞くの楽しみにしてるよぅ」


 遥ちゃんは「ははは、頑張ってくる」と、苦笑いしながら手を振った。


 さて、最後は駅前のマンション……渚ちゃんだね。



 渚ちゃんの部屋──



 ガチャ……


「おっす渚ちゃん」

「うぇっ?! い、今井先輩?!」


 夕ちゃんの顔を見るや、驚いてしまう渚ちゃん。 まあ、いきなり来るとは思わないもんね。


「あ、清水先輩に雪村先輩。 こんにちはです」

「こんにちはー」


 挨拶を交わして夕ちゃんが本題に入る。


「今日はホワイトデーだろ? 先月バレンタインにチョコレートくれたし、そのお返しをだな」

「お、お返しですか?! あ、ありがとうございます!」


 うわわ、すごく舞い上がっちゃってるよ。

 よほど嬉しいんだね。


「渚ちゃんって何が好きなのかよく分からなくてな……こんなのしか思い付かなかった。 気に入らなかったらすまん」

「……ハンカチですか?」

「どう? 気に入った?」

「はいっ! 大切に使わせてもらいます!」


 ふふ、顔赤くしちゃって可愛いねぇ。

 夕ちゃんの事、本当に好きなんだね。


「じゃ、またな」

「あ、はい。 またです」


 渚ちゃんの部屋を後にして、これで皆にお返しは終わりかな?

 ここからは、私達3人の時間。

 急なデートのお誘いだったので、行き先などは全然決めていないのだけど……。


「ねぇ、どこ行く?」

「そうだなぁ……」

「決まってないなら私が行きたい所で良いですか? 良いですよ!」


 と、希望ちゃんが勝手に聞いて勝手に答える。

 たまにやるこれは何なんだろう?

 それにしても、希望ちゃんの行きたがる場所……またあの変なネコ関連の場所かな?


「亜美、どうするよ?」

「良いんじゃないかな? 今日は希望ちゃんにお任せしよ?」

「やったー。 実は市内に良いお店があるんだよ。 紗希ちゃんから聞いたの」


 ボケねこさん関連の確率高しだよ。

 お任せすると言った手前、やっぱ無しとは言えない。


「じゃあ行こー!」


 希望ちゃんは嬉々として駅のホームへと向かうのだった。


 電車の中でどこに行くのか聞いてみても「内緒」とはぐらかされてしまう。

 仕方ないなぁ……着いてからの何とやらだね。


「ねえ夕ちゃん。 私達へのお返しはこのデートそのものって事で良いの?」

「ん? いやまあ、行く先で何か欲しい物があったら言ってくれて構わないが……あまり高いのは無しな」

「あはは。 昨日相当出費したみたいだもんね」

「そうなんだよ……」

「私はこのデートだけで十分だよ」


 夕ちゃんの懐事情を差した私は、特に何かねだるつもりはない。

 希望ちゃんも「うんうん」と頷いていることからデートだけで十分だと思っているのだろう。


「じゃあ今日のお代は、私が出すよ」

「え?」

「うわわ……」


 希望ちゃんは胸を叩いて「任せて」と言い放つ。

 うーん……いったいどこへ連れていくつもりなのかわからないけど、大丈夫なんだろうか?

 そもそも、お返しデートで希望ちゃんがお金出してたら、お返しも何もないんじゃ?

 夕ちゃんも「よくわからん」という顔で、希望ちゃんを見つめるのだった。

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