第318話 本領発揮

 ☆紗希視点☆


 今日は春高2年目の決勝戦。 相手はもはや恒例の対戦カードとなっている京都立華。

 今まで3度対戦して3勝している相手だけど、間違いなく最強の敵よねー。

 今日の試合、うちのエースの奈々美は昨日の試合の疲れから、フル出場は厳しいらしい。 ここは、この紗希ちゃんが頑張らないといけないわねー。


「どう、奈々ちゃん?」

「さぁ。 始まってみないと何とも言えないけど」

「きゃはは。 奈々美は後ろで見てていいわよん。 この私があんたの代わりに大暴れしたげるー」

「さ、紗希ちゃん、頼もしいよぅ」

「正直、今日は紗希に頼ることになりそうですわね。 亜美ちゃんも遥も頼むわよ」

「了解」

「らじゃだよー」


 今日は奈々美を出来るだけ無理させない方針で固まった。 とは言っても、奈々美はうちらのエース。

 ここぞってとこではしっかり働いてもらうけどね。


「よし。 今日は紗希ちゃん本領発揮しちゃうわよん」

「なーにが本領発揮なのよ?」

「むふふ……リミッターを解除させていただきまーす」

「リミッター?」


 私は靴下の下に巻いていたある物を取り出す。


「……何それ?」


 奈々美がそれをまじまじと見ながら訊いてくる。

 

「重りー」

「お、重り?」

「うんうん。 片方1.5kgずつの重り。 昨日の試合までずっと入れてたのよ」

「は、はぁ?!」

「ええーっ?!」


 皆さん、驚きのご様子。

 私はその重りをロッカーに入れて、軽く飛び跳ねてみる。


「おほほー軽い軽い」

「え、えっと……昨日もその前も、結構な高さ跳んでたよね?」

「そだねー」

「ああ、あんた……3kgの重りを付けてあんだけ跳んでたわけ?」

「そだよー」


 信じられないという表情の皆。

 私には高さしかないと自覚している。 その高さでも、身長が10cm近く低い亜美ちゃんの方が高い。 正直言って悔しい。 だから私は私に出来る方法で、ジャンプ力を鍛え続けてきた。

 こんなのがどこまで効果のある物か知らないけど、私は私でずっと鍛え続けてきたのだ。


「亜美ちゃんには敵わないかもしんないけど、私だって高さで勝負するOHだし、これぐらいはやらないとね」

「やりすぎ……」

「それに、こんな重りだけじゃないよ? ちゃんと筋肉の勉強もして、ずっと筋トレしてるのよー」

「へぇ、筋トレなら任せろー」


 と、遥。 まあ、趣味筋トレみたいな子だもんねー。


「そっか。 ここのとこ、どんどんジャンプ力上がってるもんね。 やっぱり紗希ちゃん頑張ってたんだね」


 亜美ちゃんは、満面の笑みでそう言うのだった。 亜美ちゃんから世界最高記録を奪うのは難しいけど、私の武器は安定して高く飛び続けられる持久力。 亜美ちゃんは1試合通じて全力で跳べるだけの持久力は無いから、それをカバーできるのは大きいはず。


「よし、行くよ!」

「おー!」


 亜美ちゃんの一声で、私達は決勝のコートへ向かう為にロッカールームを出るのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 ベンチで軽くストレッチをしながら、今日の作戦を詰める。


「奈々ちゃんは無理せずここぞって時に頑張ってね」

「わかってるわよ。 せいぜい囮として頑張らせてもらうわ」

「お願い」

「じゃあ、トスは亜美ちゃんと紗希に集めますわよ?」

「私と麻美にもなー」

「うんうんー」


 遥と麻美のMB2人。 主にクイックに跳んでもらうことになるだろう。

 彼女達も立派な攻撃要因となるのだ。


「2人には、弥生ちゃんとキャミィさんをしっかり止めてもらうからね」


 それが2人の本来の仕事。

 弥生とキャミィを止めるのは至難の業だけど、それが出来ないと立華には勝てない。

 今日はいつも以上に、全員の力を出し切らないといけないわけねー。


「じゃあ各自ウォームアップしてねぇ」


 亜美ちゃんの指示で、スタメンと麻美でウォームアップを開始。 立華とのウォームアップタイムの交替までしっかりと体を温めておく。

 ウォームアップを終えて、ベンチに座り試合開始を待つ。

 数分後にコートへ入るように指示があり、私達はコートへ。

 コートに入ると、早速弥生が亜美ちゃんに話しかけている。 良いわねぇライバルがいるって。


「いい加減勝たせてもらうでぇ」

「言ったでしょ? 高校3年間負け続けてもらうよぉ」


 中々亜美ちゃんも言うねー。 でもまぁ、私だって他の皆だって、負けるつもりはさらさらないわけだけど。

 と、試合開始みたいね。 サーブは立華サイドから。 セッターの眞鍋さんだわ。


「先輩良いの頼んます!」


 眞鍋さんのサーブが飛んできた。 綺麗な無回転サーブだけど残念。 そこは希望ちゃんなのよねー。


「はーいっ!」


 さすがは世界一のリベロ──なんて言うと、本人は謙遜したりするけど、その安定感は凄いものがある。 今もきっちりと奈央のセットポジションに綺麗なレセプションを上げている。


「希望ちゃんがリベロだと、私も楽でいいですわ!」


 セットアップする奈央。 私はレフトバックアタックを要求。 亜美ちゃんはライト側でセミクイックに、遥はAクイックの助走に入っているし奈々美もBクイックに走っている。

 全員攻撃になっているわね。

 これなら相手ブロッカーも的を絞り辛いでしょー。


「亜美ちゃん!」


 ここは亜美ちゃんへのトスが上がる。 ブロック1枚いるけど、それじゃあうちの亜美ちゃんは止まらないわよ。 それは向こうさんも嫌ってほどわかってると思うけど。


「ゃっ!」


 ブロックを躱してストレートに決める亜美ちゃん。 さすがねー。 全力で跳ばずに私と同じぐらいの高さが出てるわ。 つくづく化け物ねー。


「人間だよ!」

「心の声に反応しないでね?!」

「あはは」


 とりあえず先制。 ローテーションして、サーブは亜美ちゃん。 亜美ちゃんはどこでも狙った場所に落とせるだけのサーブコントロールを持っている。 本当に万能プレーヤーね。


「亜美ー、頼むわよー」

「らじゃじゃー」


 元気に返事をしてサーブに移る亜美ちゃん。 ゆっくりとした助走からj高く飛び上がってのジャンプサーブ。 威力こそ控えめだけど、狙ったとこに確実に跳んでいくサーブは、相手にとってとんでもない脅威になる。


「上野先輩!」

「オーライ!」


 そのサーブを、リベロの上野さんが拾う。 さすがの安定感ね。

 お相手さんは、前衛の弥生がライトへ移動してセミクイック、キャミィがレフトからのバックアタック、MBのDクイック……これは時間差攻撃もあり得るわねー。


「紗希、ライトブロック跳ぶよ! ストレート閉めて!」

「あいよー!」


 私と遥で弥生のブロックに跳ぶ、センター付近では奈々美がキャミィのバックアタックを警戒しているわね。 希望ちゃんは弥生のクロスに備えて、亜美ちゃんは全体のフォロー。


「弥生! いったりや!」

「っ!」


 パァン!


 弥生は相変わらずのパワーでストレートに強攻。 私のブロックが弾かれる。


「ワンタッチあるよー!」


 後逸したボールを振り返りながら叫ぶ。 全体のフォローに回っていた亜美ちゃんが、猛ダッシュからのダイビングレシーブで拾う。


「ナイス亜美ちゃん!」


 ちょっとレシーブは乱れてアタックラインより後ろ。 二段トスにはなるけど致し方なし。

 遥はクイック気味に助走、奈々美はセミクイックを要求している。

 ダイビングレシーブから起き上がった亜美ちゃんはタイミングを逸したので、ブロックフォローに回る。

 私はオープン攻撃に待機。


「んじゃまー、紗希! 鍛錬の成果見せてみなさい!」


 奈央から高いトスが上がる。


「来た来たー!」


 トスを見て助走に入る。 重りを外した足が軽い。 私は体を沈み込ませて地面を思いっ切り蹴る。

 今まで鍛えてきた筋肉が連動して、私をさらに高みへと導いてくれる。


「視界良好っ!」

「うせやろ?!」

「っ!」


 ブロックに来た弥生とMBを下に見ながら鋭い角度で打ち下ろす。


「メテオスパイクー!」


 急角度高威力のスパイクが京都立華コートに突き刺さり、高くバウンドした。



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