第317話 幼馴染じゃなくても

 ☆亜美視点☆


 都姫女子と激しい試合を終え、ホテルへ帰ってきた私達。


「痛い痛いって!」

「我慢して! ちゃんとマッサージして疲れ抜いとかないと、明日の試合動けないよぉ」

「それはわかったけど、あんたマッサージ下手なのよっ!」

「うわわ! ひどいっ!」


 というやり取りを奈々ちゃんと交わしながら、肩や腰、足のマッサージをしてあげている。

 今日は私達のエースとして、本当によく頑張ってくれていた奈々ちゃん。


「本当に、今日はお疲れ様」

「……情けないわよね。 私は宮下さんと違って、他のOHの力も借りてるのに、フルセット保たないなんて」

「そんなことないよ。 それだけ全力だったってことじゃない? ただまあ、宮下さんが凄かったのは間違いないね。 夏はもしかしたら、立華より怖いチームになってるかも」

「ありそうね」


 宮下さんの上手さを、今日改めて見せつけられた。

 世界選手権を経て、かなりレベルアップしていた。

 

「私だって、今より強くなるわ」

「うん。 期待してるよ」


 ギュッギュッ!


「痛いってば!」

「我慢我慢」


 一通りマッサージを終えて、明日の決勝戦について、副キャプテンの奈々ちゃんと打ち合わせをする事にした。


「明日ねぇ」

「奈々ちゃんはどう? 明日は出れる?」

「多分、フルは厳しそうな気がするわ。 さすがに疲れが残りそうだもの」


 奈々ちゃんは正直にそう答えた。

 やっぱりフルは厳しいのか。


「何セットぐらいならいける?」

「多分、2セットはいけるわ」


 2セットか……奈々ちゃんをスタメンにするか、終盤の勝負所で出すか迷うね。

 どちらにせよ、奈々ちゃんが抜けている間は麻美ちゃんか渚ちゃんに入ってもらう方向だけど。


「最初から出て、いけるとこまでいくわ」


 私が迷っているのを見てとったのか、奈々ちゃんが先に結論を出してくれた。 さすが幼馴染。 言わなくてもわかるんだねぇ。

 奈々ちゃんがそう言うなら、それで決定だ。

 あとは、奈々ちゃんの後だけど……。


「渚ちゃんかな、やっぱり」

「私の後ってこと? 良いんじゃないかしら。 次期エースだし」

「あはは、そだね。 夏が終わったら、エースになってもらわないとだもんね。 ってことは、希望ちゃんの交替要因に麻美ちゃんだね」


 これなら常に前衛に、遥ちゃんか麻美ちゃんのどちらかがいてくれる。

 ベストな起用方法だ。


「京都立華か……もう4回目よ4回目」

「強いんだもん、仕方ないよ」


 もはやお決まりの対戦カードとなった、月ノ木と立華。

 今のところ全勝しているけど、いつもギリギリである。

 今日に続いて油断出来ないよ。


「はぁ……疲れたわ本当……」


 奈々ちゃんは、ベッドにドサッと倒れ込む。

 明日の試合、奈々ちゃんにはあまり無理をさせずに済ませたいところだ。

 本人は2セットはいけると言っているけど、調子を見ながらいつでも下げられるようにしておかなきゃ。

 明日は奈々ちゃんの分まで、私が頑張るよ。


「亜美ぃ。 お風呂行かなーい?」


 ベッドに寝転びながら、奈々ちゃんが提案してきた。

 特に断る理由は無いし。


「良いよ。 行こ」

「っし、決まり。 んじゃ行きましょ」


 勢いよく起き上がる奈々ちゃんなのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 カポーン……


「はぁぁぁ……癒されるわぁ」

「あはは、おじさんみたいだよ?」

「うっさいわねー。 こんなピチピチの美人女子高生のどこがおっさんよ」

「奈々ちゃんってさ、やたら自分の容姿に自信あるよね?」


 結構さっきみたいに、自分の事を美人だと言う事が多い。

 まあ、たしかに美人さんだしナイスバデーだし良いんだけど。


「んなの、当たり前でしょ。 自分の事美人だと思えない女子はダメでしょ。 あんたは自分の事を美人だとか思わないわけ?」

「そ、そんな自信満々に言う程じゃあないかなぁ……」

「はぁ……まあ、あんたは美人より可愛い系だけどね」

「あはは、ありがと」


 私と奈々ちゃんは、割と正反対な人間だったりする。

 奈々ちゃんはどんな事でも自信満々で、力強くて頼れるお姉さんみたいな人。

 私はどっちかっていうと、貧弱で頼りない感じだし……。


「ねぇ、私達がもし幼馴染じゃなかったら、どうなってたかな?」

「考えた事も無いわねぇ……物心ついた頃からいっつも一緒だったしね。 幼馴染じゃなかったらねぇ……」


 と、天井を見上げて少し考える奈々ちゃん。

 そのまま話を再開する。


「わかんないけど、多分何かのきっかけで仲良くなってたんじゃないかしら?」

「かな?」

「だって、奈央達がそうでしょ? 中学上がるまでは顔も知らなかった子達と、今は仲良くやってるわけだし。 そこに亜美が加わるだけじゃない?」

「あー、なるほどなるほど」


 そう言われると納得してしまうね。

 奈々ちゃんさすがだよ。


「ただ、バレーボールはやってなかったかもしんないわね」

「そう?」

「えぇ。 バレーボールを始めたきっかけは、あんたに無理矢理引っ張られてビーチバレーの大会に参加したからだもの」

「む、無理矢理ってひどいなぁ」

「無理矢理でしょうがぁ」


 そ、そうだったかなぁ? 割と奈々ちゃんもノリノリだった記憶があるんだけど。


「ま、とにかく! 幼馴染じゃなくても、多分こうやって2人でお風呂に入りながら、駄弁ったりしてたわよ」

「親友になってたかな?」

「当たり前でしょ。 たとえ産まれた場所が遠く離れてたって、私達は何処かで出逢って仲良くなってた。 そう考えた方が素敵でしょ?」

「そうだよね。 あはは、奈々ちゃんってロマンチストだねぇ」

「うっ……」


 ボカッ!


 何故か奈々ちゃんに頭を小突かれてしまうのであった。

 その後も、他愛無い話を続けながら、お風呂で疲れを癒すのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 2人してお風呂から出ると、ロビーで皆と会った。


「あら、お風呂行ってたの? 今から夕飯行くけど」


 奈央ちゃんがそういう。 もうそんな時間なんだね。

 私と奈々ちゃんは少し待ってもらって、急いで準備しに部屋へ戻り、皆で近くのレストランへと足を運ぶ。


「奈々美ー、疲れは取れた?」

「まあちょっとはね」

「亜美ちゃんのマッサージ受けたんだもん、全回復だよね」


 希望ちゃんが笑顔でそう言うと奈々ちゃんは──。


「あーダメダメ。 この子のマッサージ痛いだけで下手だもん」

「奈々ちゃーん……」

「あははは、亜美ちゃんマッサージ下手なのねー。 私が教えてあげよっかー? んー?」


 と、両手で何かを揉むような手付きで、これまた何かを企むような表情で言うのは紗希ちゃん。

 たしかにマッサージは上手そうだけど、これは何か違う事されそうだよ……。


「パ、パスかなー」


 と、丁重にお断りしておいた。 紗希ちゃんが「チッ」と小さく舌打ちしていたのを聞き逃さなかったよ……。


「で、明日は奈々美スタメンでいくのかい?」


 遥ちゃんが訊いてきたので、小さく頷いておく。


「ただ、フルでは出ないわよ。 いけるとこまでいくって感じ」

「そう。 んじゃ、明日もヘロヘロになるまで使い倒してあげるわ」

「な、奈央ちゃん……」

「どんどん寄越しなさい。 私の後は渚がいるし、潰れても平気よ」

「ってことは、私の交替相手は麻美ちゃん?」

「うん」

「ベストメンバーよね」

「そうだね」


 これで、明日の決勝戦を戦うよ。

 高校大会、京都立華との試合ももう4度目。 今回も勝つよぉ。

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