第313話 1年生リベロ
☆奈々美視点☆
2セット目開始後から、今度は両リベロの好レシーブ合戦が始まり、長いラリーが続いている。
流れがこっちに来るかと思われた2セット目だけど、向こうのリベロもこっちのリベロも中々落とさないものだから、未だに流れが読めないでいる。
「ナイス千沙っち!」
「希望ちゃんいいよぉ!」
といった具合に、1ポイント取るのにも結構な時間が掛かっている。
なんて言ってたら、私へのトスが上がった。
そろそろ決めときたいわね。
「っ!」
思いっ切り振り抜き、リベロの新田さんからようやく1ポイントもぎ取る。
「ふぅ……希望、大丈夫?」
「うん、ようやく調子出てきたよぅ。 私がコートにいる時はバンバン拾うからね」
「向こうの新田さんも調子上げてきたねぇ」
「そうね……」
私も紗希も結構拾われてるのよね……。 多分だけど、彼女が私達のスパイクコースをコントロールしているのだろう。 具体的にはブロッカーや他の選手へ指示を出してコースを絞っているという感じね。
どうやら、能力の高さもあることながら、随分と頭も切れるみたいね。
「この私が思惑通りに打たされていたなんてね」
「カラクリさえわかれば……というわけにもいかないぐらい完璧なのよねー」
リベロとしての能力だけ見れば希望の方が上ではあるけど、なるほど強豪校でレギュラーを張る1年生。 中々厄介ね。
「私が前衛ならなんとかできるよ」
「亜美?」
屈伸をしながらそう言う亜美。 どんな攻略法があるのかしら?
まあこの子の事だから、何かあるんでしょうけど……。 常人に出来る攻略法なのかしらねぇ?
「ちなみにどんな攻略法が」
「ブロックに引っかからない高さで打てば、コース塞がれたりしないよ」
「あ、はい」
そんなことできるのは、あんたと本気で跳んだ紗希ぐらいでしょうよ。
「奈々ちゃんだって、自分の本気のパワースパイクなら新田さん吹っ飛ばしたり出来るんじゃない?」
「漫画やゲームじゃあるまいし、吹っ飛ぶわけないでしょ……」
何言ってるのよこの子は。 まあでも、吹っ飛ばないにしても簡単にはディグできないかもしれない。
「それに、ブロックアウトを狙って取れる技術だって、奈々ちゃんにはあるでしょ? パワーで押すのは良いけど、細かいことやってこ」
「亜美……」
ニコニコしながら私の背中を叩く亜美。
本当よく見てるわね、この子は。
「わかったわよ。 ちょっと宮下さん意識し過ぎて熱くなってたわ」
ちょっと冷静になりましょう。 私達なら十分に点を取れるはずだわ。
私は両頬をパチンッと叩いて気持ちを切り替える。
ローテーションして今は
紗希 私 黒川
希望 奈央 亜美
という布陣。 もっとも火力の高い布陣である。
言われたように、パワーだけで押すんじゃなくて、テクニックも使っていきましょう。
「亜美、入れていきなさーい」
亜美のサーブ。 2セット目もまたもやシーソーゲーム。 何とか流れをこちらに持ってきたいところだけど……。
「はいっ!」
亜美のジャンプサーブは、セッター崩しになる。 亜美はこういうことを全部狙ってやるのがすごいわよね。 そのサーブコントロールどうなってんのよマジで。
セッターは崩したが、ここからどうやって攻撃に繋いで……。
「先輩っ」
新田さんがアタックラインの後ろから跳んできて、バックトスで宮下さんに合わせる。
しまった。 セッターがトスを上げられない時は、代わりにトスを上げられるリベロ。 そういう調べだったわね。
「レフト! ストレート閉めます!」
「はい。 せーの!」
私と黒川さんでブロックを作り、ストレートをきっちりと閉める。 ちょっとでも隙間があると、宮下さんはそこを通してストレートに決めてくるから油断できない。
「だいぶ隙が無くなってきたねー、そちらさん!」
パァン!
「あわわわ」
ブロックに構わず打ってきた宮下さんのスパイクは、黒川さんの肘辺りに当たり吸い込んでしまう。
あ、吸い込むってのはスパイクされたボールがブロックとネットの間に入り込んで、ブロック側のコートにボールが落ちることね。
あの角度からの打ち込み……。 微妙にネットとの距離の離れていた黒川さんを見て、狙って吸い込ませたわね。
本当に上手いんだから。
「すいません。 ビビッて下がり過ぎました」
「どんまい黒川さん。 今日のあんたはいい仕事してるわよ。 自信持って」
「はい」
正直、亜美が黒川さんをスタメンに選んだって言った時は私も心配してたけど、私の心配を他所に黒川さんはよくやっている。 夏の大会では麻美や遥も油断できないわよ。
「それにしても上手いわね」
「はい」
「新田さんもね。 セッターでもやってけるわよーあれ」
紗希の言う通り、さっきのランニングジャンプトスは本職顔負けの上手さだった。
直接攻撃に参加出来ないリベロが許されている攻撃へのアシスト、それがアタックラインより後ろからのトス。
一応、アタックラインより前でもアンダーハンドで上げることはできるが、アタッカーとしてはオーバーハンドの方がスパイクしやすいので、それを踏まえてリベロはアタックラインより後ろからの横っ飛びトスを習得している子も多い。 というかある種必須技術である。
「必須技術である」
「はぅ……何で私を見て言うのかな……」
レシーブ以外がてんでダメな希望は、そのトスの練習はしていない。 その代わりに、亜美がセッターの代わりに上げるのだけど。
「ほ、ほら、サーブ来るよぅ」
「はいはい」
話を強引に切ってくる希望に苦笑しながら、試合に集中する。
サーブは強烈なジャンプサーブ。 それを軽々とレセプションして見せる希望もまた常人離れし始めている。 それもきっちり奈央のセットポジションに上げているし。
「んじゃあ、亜美ちゃん。 お願いしますわよ!」
奈央のバックトスは、亜美への高いトス。
亜美は全力のジャンプを見せる。 ブロックの上から打てば、コースを遮られることはない。
亜美はそれを有言実行しようとしている。
MAX340cmを超える亜美の最高指高に届きうる女子プレーヤーなんて、この世界には存在していないだろう。
「高いわね……さすが世界最高の女プレーヤー」
「っぁ!」
余裕で、ブロックの宮下さんやMB足立さんの手の上からスパイクを打つ亜美には溜め息が出るわ。
それも、しっかりと空きスペースに打ち込んでるし。
「はぁぁっ! とどけぇっ!」
「え?!」
その亜美のスパイクに、思いっ切り飛びついている新田さん。
そこに打ち込んでくると読んで、早めに動きだしていたようだ。 侮れないわね。
しかし、そのダイビングレシーブをもってしてもわずかにボールに届かず、亜美のスパイクは決まった。
「よぉし! 計算通り!」
「……はぁ?」
亜美はガッツポーズを見せてそんなことを言った。 け、計算通り?
「あんた、計算通りって?」
「ん? 新田さんなら、私が空いてるスペースに打つのを読んで早めに動き出すだろうなっていうのを読んで、ギリギリ届かないコースを突いたんだよ?」
読み合いが一周回ってとんでもないことになっていた。 この子は信じられないことを平然とやってのけるわね……。 それにしても、向こうの1年生リベロ……予想以上に出来るわね。
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