第314話 都姫の底力

 ☆亜美視点☆


 あれから2セット目も終盤まできて、なんとか2点リードを取ったんだけど。 お相手の1年リベロがとにかく上手い。

 凄い1年生が現れたものだよ。 って、去年の希望ちゃんも相当だよね。

 それにしても全然点差がつかないねぇ、この人達との試合は。 夏も接戦だったし……。


「ブレイクするよぉ」

「おー!」


 とは言ったものの、そんな簡単にブレイクできるならこんな苦戦はしていない。

 ブレイクに注力するより、ミスを抑えて確実に2点差で勝つ方がいいのだけど。


「立華が見に来てんのよねぇ」

「そうなんだよねぇ」


 客席の方には、先程大阪銀光との激戦を制した京都立華のレギュラーメンバーが観戦に来ていた。

 弥生ちゃんの前で、情けない戦いはできない。


「奈々ちゃんナイスサーブ!」

「あいよっ!」


 奈々ちゃんの高威力のサーブはここにきても衰えを知らない。

 底無しのパワーだよ。

 それでも何とかレセプションしてくる新田さん。 やっぱり上手い。


「返ってくるわよ」

「はいよー」


 奈々ちゃんと紗希ちゃんのブロックで、宮下さんを止めにいく。

 私達はブロック出来ないコースをフォローする。 特に今は希望ちゃんがいないローテだ。

 私が頑張って拾わないと。


「さー来い!」

「ぁっ!!」


 宮下さんのスパイクは、奈々ちゃんの右手を狙って放たれる。 ブロックアウトを狙ったスパイクだ。

 こういうのが上手いんだよね、宮下さん。


「ごめんー、止めらんなかったわ」

「仕方ないよ。 宮下さんは強い。 わかってた事だし」

「そうね」


 それにしても凄いなぁ。 高さもパワーも、テクニックもどれをとっても一流で、均整の取れた理想的なアタッカー。 私や奈々ちゃんみたいな尖ったプレーヤーではないから目立ってないけど、一番上手いプレーヤーは誰かと聞かれたら、私は宮下さんだ思う。


「ここ切るわよ。 もうこのセット逃げ切ることだけ考えましょう」

「そうだね」


 何よりも勝つことを優先する。 このローテで都姫のリベロも一旦ベンチへ下がることだし、ここで一気に決めてしまいたい。


「1本集中!」


 OHのプレーヤー、田辺さんだっけ? のサーブが飛んでくる。ジャンプフローターという、これまた厄介なサーブだ。


「任せて」


 私の守備範囲なので、これは私が処理をする。


「はいっ」


 変な軌道変化もなく、何とかレセプションに成功。 高めに上げて、自分が助走する時間を稼ぐ。

 前衛では渚ちゃんがBクイックに跳び、続いて紗希ちゃんがセミオープンタイミングで助走に入る。

 奈央ちゃんがボールに触った瞬間に、私と奈々ちゃんが助走に入る。


「渚!」

「はい!」


 ここはクイックに跳んだ渚ちゃんにトスが上がる。 私は助走を止めて、ブロックフォローに回ることにした。

 渚ちゃんのクイックに対して、宮下さんがコミットブロックに跳んでいた。 良い読みしてるよ全く……。

 渚ちゃんは慌ててコースを変えて打つも、そこは田辺さんが守っていた。 ディグを上げられて、都姫のチャンスボールとなる。


「チャンスボール!」

「美智香頼むわよ!」


 セッターから宮下さんへのトスが上がる。 絶対的エースへの信頼。

 都姫の強さを支えているのは間違いなく、宮下さんという絶対的エースの存在だ。


「っ!」


 ピィ!


「うっしー!」

「……」


 土壇場で追いつかれてしまった。 都姫の底力を見せつけられてしまった感じだ。

 これは流れが悪くなりそうだ。



 ◆◇◆◇◆◇



「っ!」


 ピィッ!


「よっし!」

「はぅ……ごめん」


 結局、その流れで終盤一気に捲られて2セット目を落とした私達。 この悪い流れを3セット目に持ち越すわけにはいかないよ。


「ふぅ……強いなぁ、やっぱり」

「一筋縄じゃ行かないわね」


 ベンチに腰掛けて、ドリンクを飲みながら都姫の強さを再認識する。

 攻撃の要の宮下さんに加えて、守りにも新田さんという強力な選手が入り、攻守に隙が無くなった都姫。 ここに来て新田さんの動きもキレが出てきた。 何とかしないとね。


「なんやなんや! 亜美ちゃん苦戦しとるなぁ!」

「あぅ?」


 頭上を見上げると、客席の手摺からこちらを見下ろす弥生ちゃんと目が合った。

 発破をかけに来たらしい。


「あんた達も大阪に苦戦してたでしょうがぁ」

「うぐ……せやけどうちらは勝ったでぇ」

「私達も勝ったるさかい、首洗って待っとりやお姉ちゃん!」

「……当たり前や。 待っとるで、あんさんらを」


 真剣な表情でそう言ったライバルの弥生ちゃんは、最後に「あんさんらを倒すのは、うちら京都立華や」と言い残して席へと戻っていった。


「……同時速攻、使ってくわよ」

「奈央の判断に任せるわ」

「うん」


 出し惜しみはしていられない。


「黒川ちゃん」

「はい。 わかってます」


 私が名前を読んだだけで悟ったようだ。 ここから先は、遥ちゃんで行く。

 決して黒川ちゃんではダメだというわけではない。 けれどこの場面、もろに経験の差が出ることは容易に想像できる。

 だから、黒川ちゃんには悪いけどMB交代だ。


「ここまでよくやってくれたよ。 正直言って、予想以上だった。 ありがとう黒川ちゃん」

「はいっ」

「遥ちゃん。 いける?」

「当たり前よー。 コートに立ちたくてウズウズしてたぞ」


 ということらしい。


「黒川、よく頑張った。 こっからは私に任せな」

「お願いします、蒼井先輩」

「おう!」


 頼もしいねぇ。 さすが2年生。


「よし。 いくよ!」

「おー!」


 コートへ入って、それぞれのポジションへ。


「お? 1年生の彼女下げたんだ? 結構頑張ってたのに」

「そうなんだけどねぇ。 ここからはちょっと経験不足がもろに出そうだからね」

「なるほどね」

「ここからが本番だよ、宮下さん」

「望むとこよー」


 サーブは私達月ノ木学園から。


「奈央ちゃん良いのお願い!」

「言われなくてもっ!」


 奈央ちゃんのパワフルサーブでセッターにレセプションさせる奈央ちゃん。

 ナイスサーブだけど、ボールは良い位置に上がっている。

 こうなると第2のセッター、新田さんの横っ飛びジャンプトスが上がる。


「はいっ! 宮下先輩!」

「奈々美、クロス閉めるよ!」

「はいはい」

「せーの!」


 遥ちゃんの指示でストレートを閉める奈々ちゃん。 タイミングを合わせてジャンプ。


「っぁ!」

「甘い!」


 宮下さんのスパイクはカンチャンを狙ったスパイク。

 あ、カンチャンってのはブロック2枚の手と手の間の隙間を通すことね。 麻雀用語らしいよぉ。

 しかし、そのスパイクを読んだ遥ちゃんが、インパクトの瞬間に隙間を閉じるように手を左へ移動し、それを叩き落とす。


「っしゃー!」

「ナイスブロック遥ちゃん!」

「くー……読まれたかー」


 初っ端からシャットアウトでブレイクは大きい。

 前セットの悪い流れを断ち切る良いブレイクだ。 さすが遥ちゃん。 ベンチでずっと宮下さんのプレーを見て、自分ならどうするかを考えていたんだね。 これも豊富な経験がなせる業ってとこかな。


「よーし! どんどんいくよー!」

「おー!」


 3セット目は出だし最高の形でスタートした。

 

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