第310話 自信を持って

 ☆亜美視点☆


 試合は進み、現在8ー8と相変わらずシーソーゲームが続いている。

 先程、紗希ちゃんがサービスエースを決めてくれたのだけど、すぐにブレイクされてしまい振出しに戻った。


「さて、どうしようかなー」


 私のサーブなんだけど、どこを狙おうかと模索中。

 先程は、セッターがトスをしづらくなるようなサーブを打ったんだけど、結局は得点されてしまった。

 んじゃ、ここはエースの宮下さんを狙ってみようかな。


「よし」


 そう決めて、ゆっくりと助走に入る。 ジャンプして、威力のあるジャンプサーブで攻める。

 ボールは真っすぐ宮下さんの方へ飛んでいき、宮下さんの真正面へ着弾。

 宮下さんはちょっと体を斜めに向けて、正面ではなく横向きになりボールを上げた。

 正面を向いてるとレセプションしにくい高さのボールだったけど、上手く対応された。

 ただ、レシーブは乱れているので、セッターもこれは上げにくいだろう。

 セッターが何とかボールに追いつくも、アンダートスで上げるのが精一杯。

 このボールに、宮下さんが跳ぶ。

 オープンだとわかっているなら、防げそうだ。


「来ます! 3枚合わせてください! せーのっ!」


 前衛の3人で宮下さんのブロックに跳ぶ。 これなら……。

 

 パァンッ!


 黒川ちゃんがブロックに成功。


「よし……って、うわわ」


 しかし、しっかりと新田さんがブロックフォローに入っていた。

 宮下さんの表情を見ると、ニヤリとしている。

 まさか、今のは力一杯打てないと判断してわざとブロックにかかって、新田さんに拾わせた?

 だとしたら、なんて判断力と信頼。


「ナイスフォロー、千沙っち」

「やめてください……」


 なんかまたやってるし。

 ブロックフォローで上がったボールを、今度はしっかりオーバーハンドでトスを上げてきた。

 ここまで宮下さんの狙いだったんだね……。


「これが本命よぉ!」

「せーのっ!」


 再度宮下さんのスパイクに対して、3枚ブロックで対抗する前衛。


「どかーん!」


 と、声を上げながらスパイクを打つ宮下さん。 黒川ちゃんの手に当てて、ブロックアウト取った。

 技あり。 やっぱ上手いなぁ、宮下さん。

 空中での技術なら大会No1かもしれない。


「あぁぁ……すいませーん……」


 と、先程から黒川ちゃんはしきりに謝っている。

 ここまで、ブロックポイントが取れていない事を気にしているのだろう。  遥ちゃんや麻美ちゃんなら、とか考えているのかもしれない。

 ここはキャプテンとして、声を掛けて上げないと。


「大丈夫だよ、黒川ちゃん!」

「キャプテン……でも、まだ1本も止められないですし」

「相手はあの宮下さんだよ? 麻美ちゃんや遥ちゃんだって、それ以外の皆でも簡単に止められるようなプレーヤーじゃないよ。 黒川ちゃんの指示は的確で間違ってない。 宮下さんが上手過ぎるんだよ。 でも黒川ちゃんなら、必ず止められる。 自信持ってね」


 肩に手を置いて、ニコッと微笑んであげる。

 実際、黒川ちゃんのブロックの指示等は的確である。 それを躱す宮下さんが上手いのだ。


「黒川さん、ブロックだけじゃなくて、攻撃でも期待してますわよ? 常に打つつもりでクイックに跳んで下さいね。 次、D上げますわよ」

「はい!」


 たまに弱気になるけど、基本的には前向きな性格の黒川ちゃん。

 落ち込んだりはせずに、次こそはと進んでいける強い子である。


「よーし、一本で切るよ!」


 都姫サーブ。  MBの選手だね。

 ジャンプサーブをきっちり入れてくるけど、そこは希望ちゃんの守備範囲。 難なくレセプションしてくれる。

 それを見て、黒川ちゃんが助走に入る。

 ファーストテンポのDクイックだ。

 続いて私と紗希ちゃんが助走、奈々ちゃんはトスが上がってからの助走。


「はいっ!」


 奈央ちゃんは先程宣言した通り、黒川ちゃんへの早いトスを上げた。

 マークが薄く、コミットブロックが1枚。


「いけっ!」

「っ!」


 パァン! 


 黒川ちゃんのは、クロスを警戒したブロックの手を躱して、狭いコースであるストレートに打ち込んだ。

 このコースに決められては、相手も仕方がないという感じである。


「ナイスナイスー」

「良いクイックだったよ。 その調子ね」

「は、はい」


 さすが奈央ちゃんだね。 黒川ちゃんに自信を持ってもらう為に、あえて黒川ちゃんにトスを上げたんだ。

 ローテーションして、黒川ちゃんサーブ。

 さっきのサーブでは、上手くレシーブを乱していた。 器用な子で、同じフォームから色んな変化球サーブが打てるのだ。 回転をかけたカーブサーブや、軌道が分かりづらい無回転サーブも。


「黒川ちゃん、リラックスー」


 後ろからボールを床に突く音が聞こえる。 どうやらリラックスは出来ているらしい。


 パァン!


 黒川ちゃんがサーブを打つ。 全く回転しないサーブだ。

 無回転サーブは空気抵抗をもろに受ける為、微妙な空気の流れ等に影響されて、ゆらゆらと揺れる様な軌道で飛んでいくのが特徴である。

 さらに、急に曲がったり落ちたりするため、非常にレセプションしづらいサーブだ。

 今回の黒川ちゃんサーブは、セッターの手前で急激に落ちるサーブとなった。

 慌てて手を出した相手セッターだけど、ボールはあまり高く上がらない。

 しかし、それを見た宮下さんが助走を開始していた。


「速攻くるよ! コミット!」


 私は咄嗟に声を出して、ブロックの指示を出す。

 渚ちゃんと紗希ちゃんが反応して、コミットブロックに跳ぶが……。


「やられたー!」

「うわわ……」


 宮下さんはクイックの助走から体を一旦沈み込ませ、跳ぶと見せかけて跳ばない。


「あの乱れたレシーブから、一人時間差?!」


 どこかでサインでも出してたのかな……。

 宮下さんの要求通り、アンダートスてはあるけどセミクイックが上がる。

 沈み込んだ体勢で止まっていた宮下さんが跳び上がり、ブロック2人の高度が下がったところを悠々と打ち抜く。


「完全にしてやられたね」

「なんちゅー上手さや……」


 今日は、ほとんど宮下さん1人にやられてる。

 わかっていても止められない。


「本当に上手いなぁ」


 なんて感心してる場合じゃないよ。 止めなきゃ勝てないんだから。


「皆、集中! ここを取って、次ブレイクだよ!」

「おー!」


 さて、宮下さんのサーブだ。 彼女もまた多彩なサーブを扱うプレーヤーだけど、ほとんどの場合はジャンプサーブを打ってくる。 コントロールも良いので、割と厄介なサーバーである。

 希望ちゃんのいないローテ。 私が極力拾わなきゃね。


「美智香ーどんどん行けー」


 宮下さんのジャンプサーブ。 これまた強烈なのが良いコースに……。

 私は何とか飛びついてレセプションには成功した。

 ギリギリ届いた感じであり、ボールにはスピンが掛かっている。

 トスしにくそうだなぁ、などと考えながら即座に起き上がり、バックアタックの準備に入る。

 しかし、ここは前衛3人が同時に助走していた。

 これは今日初の同時高速連携だ。

 同時に跳ぶ3人の中から、奈央ちゃんは渚ちゃんをチョイス。


「ぁっ!」


 渚ちゃんの打点に合わされたボールを、思いっきり叩きつけ、ガラ空きのスペースに決めていく。

 渚ちゃんも上手くなってきたね。


「ナイス渚ー! 良いじゃん! よ! 次期エース!」

「い、いやいや、私なんてまだまだ……」


 紗希ちゃんに持ち上げられて赤くなる渚ちゃん。

 んー可愛い。 じゃなくて。


「よーし、ここ取るよー! 奈々ちゃん、強烈なのよろしくぅ」

「任せなさい!」


 次は奈々ちゃんのサーブ。 本当にそろそろリードを奪いたいところだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る